死者が飲む水 (講談社文庫 し 26-7)

著者 :
  • 講談社
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感想 : 12
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  • Amazon.co.jp ・本 (373ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061850842

感想・レビュー・書評

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  • 「占星術殺人事件」「斜め屋敷の犯罪」に続く三作目。
    前2作の天才探偵役「御手洗潔」とは対照的な平凡な刑事、モーさんこと「牛越佐武郎」が謎を解く。鮎川哲也著の「黒いトランク」を彷彿させるトラベルミステリー。全体の2/3は、推理しては壁にぶつかる展開。ラスト1/3で真相に迫るが、推理のプロセスが端折られて唐突感が否めない。。。「えっ、地図確認してなかったの!?」とか「水質分析しなかったの」とかいろいろ(笑)。牛越刑事の人間味溢れるキャラクターにより温かみを感じる作品でもある。

  • 島田荘司2冊目。

    ミステリーらしい王道ミステリー。
    元官僚のバラバラ死体が2つのスーツケースに入って水戸から札幌の自宅に送られてきた。怪しいのは水戸と東京に住む娘婿達だが、決定打が見つからない。

    前半は容疑者を絞り込むフェーズ、後半は容疑者のアリバイを崩すフエーズ。容疑者は登場人物の中で、その存在が必要ないのに、よく登場してくるので、読んでいて直ぐに分かってしまう。

    容疑者が最初に分かると、どこで殺害しどこでスーツケースに入れられたのかが想像できてしまう。刑事目線だと、確かにこの容疑者は絞りにくいが、小説なので、不自然な登場人物の存在で読者には直ぐに犯人が分かり、トリックも分かってしまう。

    それでも、刑事が容疑者を絞る過程が丁寧に描かれていて、紆余曲折している様が分かり、大御所鉄道ミステリーよりもはるかに、作りこまれている感じがして好感が持てる。

  • 時刻表トリックはチョット敷居が高いかと思ってたんですが、やっぱり高いナリ。でも正直、流して読んでもソコソコ楽しめたナリ。

  • ★★★☆☆

  • 『斜め屋敷の犯罪』で御手洗に翻弄される道化役の刑事を演じた牛越刑事が主役を務めるスピンオフ作品。あの牛越刑事が粘り強い捜査で犯人を突き止める社会派推理小説だ。読んだのは『火刑都市』の方が先だが、刊行されたのは本作のほうが先だったらしい。

    道警の、札幌署に勤務する牛越刑事がトランクに入れられたバラバラ死体となった一家の父親の犯人探しに、出稼ぎ先の関東(確か千葉の銚子あたりだったように思う)まで赴き、地道に足で捜査を重ねる。私は先に御手洗シリーズを読んで随分経ってから本書を読んだが、『斜め屋敷の犯罪』での無能ぶりに牛越刑事なんかが主人公で大丈夫かいな?と思っていた。が、不器用で決してスマートといえないその捜査過程は実に我々凡人に近しい存在であり、極端に云えば読者のお父さんが素人張りに奮闘して捜査しているような親近感を抱いた。思わず頑張れ!と口に出して応援してしまう、そんなキャラクターだ。

    先に読んだ『火刑都市』は物語が内包する島田氏の都市論、日本人論が犯人を代弁者にして色々考えさせられる重厚感があったが、本作はそれとはまた違った重みがある。特に本作で描かれる房総半島の淋しげな風景は私の千葉に対するイメージを180°覆す物であった。九州の田舎から就職して四国の田舎に住んでいる身にとって、千葉のイメージとはディズニーリゾートや成田空港など、大都会東京の延長線上にある発展した県という意識が強かったが、本書にはその姿はなく、昭和の雰囲気を漂わせる重く苦しい風景だ。八代亜紀の演歌が聞こえてきそうな荒涼感さえ漂う。特に銚子は学生の地理の授業で習った醤油の名産地、漁業の発達した街というイメージが強く、栄えているのだと思っていたが、あにはからずそんな明るいムードは全くなかった。
    トランクに詰められた死体というとやはり鮎川哲也氏の『黒いトランク』が思い浮かぶだろう。実は私は鮎川作品を読んだことないのだが、多分に島田氏は意識して書いたに違いない。思えばデビュー以来島田氏は何かと過去の偉大なる先達にオマージュを捧げるような同趣向の作品を書いている傾向が強い。本作もどうもその一環だと云ってもいいだろう。

    で、ミステリとしてはどうかというと名作の誉れ高い『黒いトランク』のようには巷間の口に上るほどのものでもないというのが率直な感想。しかし牛越刑事の愚直なまでに直進的な捜査は読み応えがあり、その過程を楽しむだけでも読む価値はある。島田氏の登場人物が織り成す彼の作品世界を補完する意味でも読んで損はない作品だ。

  • 異常な設定で幕が開く事件、やがて明らかになる不可能犯罪・・・これは島田作品独特の展開だが、この作品も例外ではない。今回はアリバイトリックなので犯人の特定に時間はかからないが、ただ文字を追っていただけでは途中で必ず脱落する。時刻表は苦手な分野だが、少しずつ明らかになる犯人の意図と、その真意を読み取ろうとする刑事の執念が巧く描けているので、苦手意識は全く感じなかった。それにしても、伏線の張り方に無理がないなぁ・・・

著者プロフィール

1948年広島県福山市生まれ。武蔵野美術大学卒。1981年『占星術殺人事件』で衝撃のデビューを果たして以来、『斜め屋敷の犯罪』『異邦の騎士』など50作以上に登場する探偵・御手洗潔シリーズや、『奇想、天を動かす』などの刑事・吉敷竹史シリーズで圧倒的な人気を博す。2008年、日本ミステリー文学大賞を受賞。また「島田荘司選 ばらのまち福山ミステリー文学新人賞」や「本格ミステリー『ベテラン新人』発掘プロジェクト」、台湾にて中国語による「金車・島田荘司推理小説賞」の選考委員を務めるなど、国境を越えた新しい才能の発掘と育成に尽力。日本の本格ミステリーの海外への翻訳や紹介にも積極的に取り組んでいる。

「2023年 『ローズマリーのあまき香り』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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