四千万歩の男(五) (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
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本棚登録 : 159
感想 : 14
  • Amazon.co.jp ・本 (712ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061853409

作品紹介・あらすじ

青年二宮金次郎と“百姓論語”を闘わせ鰹節騒動では危うく情事の罠に。とかく学問より俗事に心奪われる伊能隊、再三の“測量中止”の危機を脱し、有望な孤児や人気女形をお伴に江戸へ。忠敬が“人生二山”を生きた江戸後期の、新しい文化の旗手を多士済々に登場させ、人間忠敬とその時代を縦横に描く大作、完結。(講談社文庫)


青年二宮金次郎と“百姓論語”を闘わせ鰹節騒動では危うく情事の罠に。とかく学問より俗事に心奪われる伊能隊、再三の“測量中止”の危機を脱し、有望な孤児や人気女形をお伴に江戸へ。忠敬が“人生二山”を生きた江戸後期の、新しい文化の旗手を多士済々に登場させ、人間忠敬とその時代を縦横に描く大作、完結。

感想・レビュー・書評

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  • 20年ぶりに再読しました。
    伊能忠敬の地図作り旅の最中に、次々と事件を盛り込み、弥次喜多珍道中や水戸黄門のように仕立て上げたお話ということは覚えていたのですが、内容はきれいさっぱり忘れていたので、まるで初めて読むように楽しめました。まさか、あんな終わり方をしていたとは…
    文庫5巻3000ページオーバーのボリュームで、読み応えたっぷりですが、文庫(5)の終わりにある井上ひさし自身による年譜も興味深いです。
    また20年後に再読し楽しもうかな(^^)

  • 2回目読了。
    志の輔らくご「大河への道」、映画「大河への道」と合わせ伊能忠敬の偉業とその人間像にあらためて感動。
    小説は水戸黄門漫遊記か東海道中膝栗毛を思わせる挿話の連続であるが、その中にも井上ひさし氏による奥深い史実が盛り込まれ大変興味深く読んだ。勉強になりました。

  • シリーズ最終巻。

    根府川の関所では、忠敬の偽物が現われたために本物の忠敬が偽物と間違えられ、足止めされることになります。さらにこの事件のなかで、忠敬はいまだ若輩の二宮金次郎と出会い、その農政観について彼の語るところに耳を傾けます。

    その後もさまざまな事件に巻き込まれながら、忠敬一行の旅はつづき、ようやく伊豆・相模の測量を終えて江戸にもどります。そんな忠敬の前に、家を出たお栄の影がちらつきますが、けっきょく二人は再会にいたることなく、物語は結末を迎えます。

    ともあれたいへんな長編小説ですが、大団円とはならず、とりあえず区切りをつけたといった感じの結末には、最初からわかっていたこととはいえ、不満も感じました。

  • 思ったより時間がかかった。昔とは物の単位が違うからイマイチ実感が湧かなかったが大変な手間と時間がかかったものだったんだなと感じた。
    そして、その精度の高さから考えると、拍子抜けする位単純な方法で測量していたことを知って、けっこう驚きだった。

  • (*01)
    テクストが重層する。
    原基のテクストに忠敬の日記がある。第二に忠敬の時代のテクストがある。第三にこれら二つに解釈を施した井上のものと他の史学者らが記したテクストがある。第四にこれら三つを踏まえた上でこれら三つに記されなかった部分を井上が創作したテクストがある。第五にまえがきやあとがきとなる第四までの創作を記しての自己批評的であり私事的なテクストがある。
    第一と第二の関係は、正統的な歴史理解と照らし穏当に読むことができる関係にある。歴史物として、忠敬周辺と近世後期に現われた新たな経済関係や文化諸相に対する知識を深めてくれるもので、コンテクスト-背景として読めるものでもある。
    厄介が生じるのは、第三と第四のあたりで、井上の主観やそれに基づく創作が混じり、第一第二が正典ないし聖典となり遊びの余地を孕まずにカテキズムとして作用した反動として、物語と堕する。戯曲をよくする井上としての真骨頂はこの物語パートであり、固定化された正典を脇に置きつつ遊んだ結果のテクストともいえる。
    ただし、現代感覚からすると、この物語は黄門的であり、やや近代的な苦悩が絡んだ漫遊記の様にも読める。つまりは、この物語部分は普通に読むと、安定的につまらないものである。事件がある、陰謀がある、色や女がある、孝行がある、忠義がある、貧富がある、しかし、それらの物語は、定めし平板である。
    中盤の蝦夷の道のりは長く、アイヌと和人との交易やいざこざ、ひっくるめて未開と文明のコミュニケーションの問題に、創造の翼を広げて筆を大いに振っている。これは当時のアイヌに関する記録、北辺北方に関する資料が、化政文化や地方資料などに比して少ないため、創作の余地が生まれたと解することができよう。
    それにしても、当時の文化の交差点として歩き続ける男忠敬を配したのは面白い。山東京伝、松平定信、山片蟠桃、菅江真澄、木食上人、間宮林蔵、平山行蔵、十返舎一九、葛飾北斎、二宮尊徳、鶴屋南北といった多士済々が、虚実はともかく、忠敬の旅程で交錯する。また、街道の宿場、後背地/搾取地としての農地、漁船や通商船が行き交う沿岸、こうしたそれぞれの場を舞台として、経済を営む民、そして徳川政権を筆頭とする権力としての武家などがしっかり描かれており、やがて近代を迎える、あるいは近代化を遂げつつある総体としての社会を読み物として学びとるテクストとしても有用である。
    もちろん、忠敬の晩年に専門とした星学とその応用である測量と地図のあれこれについても教えられる。忠敬の一歩一歩と四千万歩は、地球における国土の相対的な位置を読み取り、歩測により正確に国土の姿をとらえる行為であった。地をテクストとして、忠敬は歩により読んでいたことになる。伊能地図とは表現である前に、読みであった。
    私たちは地図を読むことはできるが、地を読むことのできるほどの学を修めていないし、一字一字一歩一歩読んでいる暇もない。伊能忠敬の偉業は、地図を表したことの前に、地を読んだことにあった。
    本書を読むことの意味はそこにある。井上は伊能に習い、忠敬の一歩一歩を読みつつ、読み物としてのテクストに表したかったのだろうと思う。果たしてその試みは、自称するところ、1/7で頓挫してしまった。
    井上に継いで、この先の伊能忠敬の足跡を読み著す者がいつかは現われることと思う。伊能忠敬の一歩一歩は詰まらないが、一歩一歩が紡いだ全体の図像と物語には読み解くほどの価値がある。

  • 既に読友の方々のご指摘にもあるように、本書は忠敬の事績の7分の1を終えたところで頓挫してしまった。「お読みいただいた後に」によれば作者の「個人的な事情」であるらしい。そして、「やがてそのうちにこの小説をふたたび書き継ぐ」といいながら果たされなかった。でも、許す。そもそもが、遅ればせながら井上ひさし追悼の気持ちで読み始めたのだから。「伊能図は開国を予告していた」のは、まさにその通りだろう。長い江戸時代も末期にはその崩壊の予兆と新時代を予告するものは多々あった。伊能忠敬の意味はまさしくその一つだったのだろう。

  • なんだか読み終わってしまうのがもったいなくて、最後の1巻を読むのを随分後回しにしていた。
    伊能忠敬が気になって読み始めた本だったけれど、
    最後は井上ひさしのとりこである。

    小説としての面白さは夜更けの挿話。
    史実を曲げずに書きたいという著者の工夫から事件、事故などは夜更けにおこる。
    そういうところが面白い。
    最後まで読むと、まだまだ続くはずの小説であることを感じてしまい、
    その先をもう読めないということが残念。
    実際の伊能忠敬はまだこれから3年がかりの測量旅行に出かけるのだから、
    きっとそれも構想としては入っていたのだろう。

  • 地味で地道な計測旅行を 事件と滑稽にあふれた珍道中に書き換えた作者の手腕に敬服。 ある意味、作者の集大成的な大作だが、 この人の作風を了解していない一見さんには??かもしれない。

  • ようやく読み終わった.正直なところ,長すぎて最後の方は惰性で読んでいた.伊能忠敬の実像を知りたくて読む本ではない.きっと彼は実直で小説になりにくいひとだったのだろうと想像する.

  • 五巻まで3カ月かけてやっと読み終わりました。途中、作者が亡くなってしまいました。小学校5年生のころ、「ブンとフン」を担任の先生から勧められて読み出し、それまでの児童用の読書から大人用の読書に導いてくれたのが井上ひさしでした。
    あとがきによると、構想の1/7しか完成していないそうです。構想通り忠敬の人生を網羅すると35巻!最後まで読みとおしたかった小説です。もう亡くなりましたが父が入院中この本を読みたがっていたのを思い出して読んでみました。父にも読ませたかった思いがいっぱいです。

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著者プロフィール

1934-2010年 
山形県東置賜郡小松町(現・川西町)に生れる。上智大学外国語学部フランス語科卒業。放送作家などを経て、作家、劇作家。1972年、『手鎖心中』で直木賞受賞。小説・戯曲・エッセイなど幅広い作品を発表する。著書多数。

「2022年 『熱風至る』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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