遠い太鼓 (講談社文庫)

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  • 講談社
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レビュー : 334
  • Amazon.co.jp ・本 (570ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061853829

作品紹介・あらすじ

ある朝目が覚めて、ふと耳を澄ませると、何処か遠くから太鼓の音が聞こえてきたのだ。ずっと遠くの場所から、ずっと遠くの時間から、その太鼓の音は響いてきた。-その音にさそわれて僕はギリシャ・イタリアへ長い旅に出る。1986年秋から1989年秋まで3年間をつづる新しいかたちの旅行記。

感想・レビュー・書評

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  • 村上さんのエッセイを読むのは初めて。
    面白い旅行記ということで紹介を受けて読んでみたところ、これが、とっっっても面白かった!
    1986年からの3年間、イタリアとギリシャを中心に、点々と移転しながらヨーロッパに滞在をした間の記録をまとめたもの。
    村上さんは、この間に、「ノルウェイの森」「ダンス・ダンス・ダンス」と、いくつかの翻訳の執筆をしている。
    小説の執筆がどういうものかを語るところに、小説家の孤独を感じて切ない。

    “朝が訪れる前のこの小さな時期に、僕はそのような死のかたまりを感じる。死のかたまりが遠い海鳴りのように、僕の体を震わせるのだ。長い小説を書いていると、よくそういうことが起こる。僕は小説を書くことによって、少しずつ生の深みへと降りていく。”

    最近読んだたかのさんの「ガンジス河でバタフライ」も面白かったけど、趣は180度逆。
    たかのさんのが興味赴くままに、人との出会いを大切にする「動」の旅行記とすれば、村上さんのは、人々を観察しながら深く静かに思索にふける「静」の旅行記。
    ものすごく人気があるけど、私の頭では理解しがたい世界観だったりもするので、全然別世界の人のように思っていた村上さん。
    でもこの旅行記は、随所に笑いどころがあって、普通の人と同じようにイライラしたり楽しんだりする村上さんの人間味が感じられた。これからは小説を読むのも楽しみになりそう。
    楽しいこと、美味しいもの、出会った人との思い出なんかももちろんあるけど、ギリシャやイタリア(主にローマ)の我慢ならないことを書いているところが一番活き活きとしていて面白かった気がする。
    普通の人なら「イタリアってすっごいテキトーで、もう嫌になっちゃう!」となるが、村上さんの文章はその洞察力と文章力で、そこにイタリアがあるかのような追体験をさせてくれる。
    村上さんが文章がうまいのは当然知っていたけど、真の小説家の書くエッセイだからなせる業(笑)

    イタリア人は脱税とおしゃべりとバカンスと女を口説くのとに力を注ぎ、そのほかに対するテキトーっぷりはものすごい。
    紛失も遅延も日常な郵便事情、おしゃべりとお菓子に余念がなく、計算もできない郵便職員。
    たった5分の間に盗まれるカーステレオ。白昼堂々、たくさんの人が見ているのに見て見ぬふりをされるひったくり。旅行者がたくさん集まる警察署に、治安の維持の役割を放棄し圧倒的にやる気のない警官。数が多すぎて旅行盗難保険の適用外となるイタリア。
    誰も悪びれない、謝らない。

    それでもしめくくりは、
    “イタリアというのは実に神に愛された土地なのだ。暖かく、美しく、そして豊穣である。”
    と褒めて終わってた(笑)。愛すべきイタリア人。

    ヨーロッパの歴史は長いから、こういう脈々と受け継がれてきた国民性はもういかんともしがたいのだろうなぁ。(いやしかし、古代ローマってすごい国だったと思うんだけど)
    一度訪れたい国ではあるが、願わくは、郵便事情と交通事情、それから泥棒事情が、少しでも改善されていきますように。

    • まろんさん
      イタリア!私もよぼよぼのおばあさんになる前に、一度は行ってみたい国です。

      郵便事情、交通事情、泥棒事情(!)が想像を絶する凄さでも
      「神に...
      イタリア!私もよぼよぼのおばあさんになる前に、一度は行ってみたい国です。

      郵便事情、交通事情、泥棒事情(!)が想像を絶する凄さでも
      「神に愛された土地」・「豊穣である」としめくくる村上さんの、お人柄が偲ばれます♪

      「とっっっても」の、かわいく3つ並んだ「っ」に、
      マリモさんのこの本への愛情が溢れていて、私まで幸せな気分になりました(*^_^*)
      2012/10/04
    • マリモさん
      まろんさんこんにちは♪
      最近は旅行記を色々読んでるのですが、この本は旅行記としてはちょっと異色な感じで、興味深く読めました♪
      村上春樹さんと...
      まろんさんこんにちは♪
      最近は旅行記を色々読んでるのですが、この本は旅行記としてはちょっと異色な感じで、興味深く読めました♪
      村上春樹さんと奥さんとのやりとりも、なんだかほのぼのしてて楽しめますよ(笑)

      村上さんいわく、イタリアはもう住みたくないけどまた行きたい国だそうです(笑)。
      泥棒事情はすさまじいですが、それでもなお行ってみたい魅力的な国であることは違いないですね!
      2012/10/04
  • 村上春樹の紀行文。以前これを読んだのが確か学生の頃だから、約20年ぶりに読んだことになる。僕がまだ若かった頃はあまり強い印象を受けなかった本だが、40に近くなるとちょっとだけ印象が違っていた。
    面白いね、この本。

  •  エーゲ海の島特有の白すぎるほど白い塀の上で、小さな黒猫が思いっきり反りかえって背のびをしている。突き上げられたお尻の先の黒い尻尾がまたかわいい。家に無料で届く『アゴラ』というJALの広報誌でのことだ。村上春樹が「ギリシアの二つの島」という短文を載せていて、それに添えられた写真がまず私の目を引いた。
     25年ぶりに訪れたスペッソス島で村上春樹が猫の背を撫でている。島中に猫が溢れる島で、彼は猫好きを自称している。『ノルウェーの森』を書いていた四半世紀前、初めて来た時と比べ、わずかには観光化が進みはしたもの、あいかわらず程良く寂れ人の気持ちも変わりないことにほっとする彼だが、唯一、「しかし昔に比べると、猫がみんな小奇麗になっているように思えた。かつては傷だらけの、耳が半分ちぎれたような汚い野良猫があちこちうろうろしていたんだけど、今はそういう猫はほとんどみかけない。驚くほど毛並みの良い、美しい猫たちが通りをすらりすらりと歩いていた」という。
     当時「若手作家」だった彼は、「ある理由」があって日本を離れヨーロッパを転々としながら書いていた。「ある理由」とは何なんだったのか、多くは語らない彼が、傷ついてみじめな野良猫だった自分を、世界的ベストセラーライターとなった今振り返っているかのようなこの短文は、私にとって「発見」であった。その発見を深め、「ある理由」とはなにかをしっかり掴みたいとおもって読み始めたのが、当時の事情を記した『遠い太鼓』であった。

     発見や発掘は好きだが追従は好きではない。だから私は村上春樹の作品はほとんど読まない。『ノルウェーの森』も『1Q84』も、気がつくと既に書店に山積みにされ、高い評価がすでに定まっていた。こういうものに対して偏屈な私の触手は全然のびない。
     今回はどうして違ったのだろう。
     無料の広報誌みたいな、文芸誌や単行本とは違うどこか正式ではない冊子の中に見出した短文だったから、かもしれない。
     近頃私は、こういう冊子の類に一目置いている。というのは、須賀敦子に嵌りまくっている私は、彼女の書いたものは何から何までとことん読み尽くそうと試みているのだが、「これは」と思える名文の初出が食品問屋の店頭配布冊子だったり、観光バスの車内備え付け冊子であったりすることに小さな感動を覚えているからだ。
     戦後まもなく、同居する芦屋の家の庭にひっそりアスパラガスを植えていた保という叔父と、ミラノでいつも収穫したアスパラガスを届けてくれた義理の従妹のアドリアーナの思い出を細やかな心遣いの籠った端正な日本語で綴った「アスパラガスの記憶」は、明治屋の店頭配布冊子『嗜好』に寄せられた一文だった。欧州産の野菜の缶詰も扱うこの店の求めに応じ、しかし手抜きがないばかりか珠玉といってよい名文を寄せた須賀敦子とは、万事がそういう人だったのかも知れない。その彼女自身が「一番好き」と語った「霧の向こうに住みたい」は注文住宅メーカーの広報誌の連載であった。私が秘かに須賀文学の精髄が込められていると信じる「隣町の山車のように」は観光バスの車内誌が初出であった。
     JALの『アゴラ』が届いたとき、たまたま家人が留守で一人だったこともあり珍しくじっくり目を通したことも、写真が目を引いたことも、きっかけ、であったかもしれない。

     いづれにしても、私ははじめて、私だけの村上春樹を「発見」した気でいる。

  • 9月から、慌ただしかったな。
    10月はいつも、本をたくさん読む月だったのだけど、

    今年はやっぱり本をあまり読めていない。
    良くないなぁ。

    というか、読んだ本について語れるような人も、今の私の周りにはいない。

    国語の先生たちとお茶をしても、私の読む類の本を読まれている先生がいらっしゃらなかったので、残念。

    「文学少女って感じよね。」そう言われたっけ。
     少女じゃないですけど、

     世の中には、「その一言で終わってしまう言葉」というのが、あるのだなと、思ったりもします。
    「本をよく読むあなたを私は認めています」という通告により、それ以上の言葉を求めないでくれと、
    言われているような。


    いやいや、考えすぎかもしれない。


    遠い太鼓。

    海外に住むための準備で心が疲弊してしまった村上さんの頭を、蜂のジョルジョとカルロがぶんぶんと飛び回る。


    なんか、分かるなぁ、と思った。


    小説を書いている間に、心が冷たくなってしまっている状態だとか、

    心が疲弊してしまっているときの表現だとか、


    じっと回復する様子を待つ感じだとか。


    決して同じじゃないんだけど、もしかしたら、こんな感覚に近いのかもしれない。

    私は以前付き合っていた人に、とても身勝手な言葉を吐いていました。


    「ごめん、私今、頭がお留守なんだよ。」


    絵をよく描いている時期は、総じてそうなります。
    彼のことを嫌っているわけでは全くない。
    ただ、彼に神経を向ける余裕が、全くない。
    付き合っているから、無理にでも会って、「付き合っていること」を確認しなきゃと、頑張って会う。

    会って時間がたてば、社交性が戻ってくるけれど、
    会ってしばらくは、わたしは表情すら作ることができない。久しぶりに会えたのに、にこやかな歓迎ができないで、「あなたを迎え入れることのできる状態ではない」私と私の空間に、彼を招き入れる。


    結局私は、それに耐えられなくて…つまり人のことを第一に考えらない自分の身勝手さに耐えられなくて、6年付き合って昨年別れた。

    一緒になるって、話もした。
    彼なら許してくれるような気がした。
    でも結局のところ、私はそんな許し、欲しくないんだと思った。

    自分の我儘さと身勝手さを、私は誰にも許されたくなんか、ないのだと思った。面倒くさい話だが、私は自分の身勝手さで彼が犠牲にしてる何かがあるのだということに気付けないほど、身勝手になり切れなかったのだと思う。「それでもいい」と言われるのが、何よりもつらかった。


    私は多分、これからも一人で、この矛盾と面倒くささと、自ら引き起こした孤独を抱えて、生きていくんだろうと思う。


    それならば、もっと一人を楽しまなきゃなぁ。
    今、そう言い聞かせ、心が冷たさを失っていくのを、ある日立ち止まって動けなくなってしまった場所で、私は待っています。あと、少しだけ、もう少しだけ、時間がかかりそうです。




    なにはともあれ、このエッセイを読み、村上さんの創作に没頭する時の心理状態を垣間見ることができて、少し嬉しかった。

  • 村上春樹ワールドは私には理解しがたいことがほとんどなのだが、これはとても好き。
    ギリシャに行ってみたくなる。
    そこで流れている空気に触れてみたくなる。

  • 村上春樹の旅エッセイ、また読んじゃいました。
    今回はイタリア・ギリシャを3年かけて旅した記録の本です。(何度か拠点は移してるけど3年もいるから旅っていわないかな?)
    彼の見てる視点や感性が面白いし、ユーモアもあってくすっと笑わせられる文章のセンスも軽快さもいい。とても面白かったです!

    私はハルキストではないのだけど、それでも、この旅の間にノルウェイの森が生まれたんだということも知ってなんだか感慨深かったです、って20年以上前の話なんだけどね
    それから、当時の原稿は全て手書き、出来上がった原稿は編集者に紙で渡す、これ以降の原稿はだんだんワープロを使って、という時代の流れもみえて、そういうのも面白かった。昔は今と比べ物にならないくらい大変だったのねー

    それと、今、債務危機で世界を揺るがしてる両国について、なるほどね、やっぱりね、とうなずけちゃうお国柄、というかお人柄が見え隠れして、そういう意味ではタイミングよくこの本読めたかなって思いました(笑)

    2冊続けて彼のエッセイを読んだら、ちょっと彼のファンになってしまった☆

  • 高評価のレビューに惹かれて読んでみましたが、流石はベストセラー作家です。どっぷりと春樹ワールドに浸かれました。鞄に入れて旅行に行きたくなる気持ちがよくわかります。

  • 村上春樹の3年間に渡るヨーロッパ滞在記。
    この間に彼は『ノルウェイの森』などを執筆。
    ギリシャやイタリアの人々の気質を独特の口調で語るのを読むと、まるで自分がハプニングだらけの旅に出ているよう。
    じっくりと時間をかけて読むといいと思います。

  • 旅に出たくなります。
    村上春樹みたいに小説家になって外国に住みたくなります。

  • とにかく大好きな本。
    どれをとっても印象的なエピソードばかり。イタリアの天気予報士の話が一番好き。ギリシャ行きたーい!

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著者プロフィール

村上春樹(むらかみ はるき)
1949年、京都府京都市伏見区生まれ、兵庫県西宮市芦屋市育ち。早稲田大学第一文学部映画演劇科卒。大学在学中にジャズ喫茶「ピーター・キャット」を国分寺・千駄ヶ谷に開店していた(1981年、店を人に譲渡)。1979年にデビュー作の「風の歌を聴け」で群像新人文学賞を受賞。谷崎潤一郎賞、読売文学賞、朝日賞など数々の受賞歴がある。2006年にフランツ・カフカ賞、2009年にイスラエルのエルサレム賞受賞。ノーベル文学賞に最も近い作家の一人と言われており、毎年発表時期に日本国内でニュースになる。事実、村上春樹作品は全世界で翻訳されており、アメリカ・アジアでの評価がとりわけ高い。フィッツジェラルドやレイモンド・カーヴァーなどの作品の翻訳も手がけ、翻訳家としての仕事も高い評価を受ける。翻訳と創作活動を交互に行うことで、作風を変化させ、作家としての成長を続けている。新作が発表されるたび大きな話題となるが、近年は特別番組「村上RADIO」にてラジオDJも務め(不定期放映)、数々の名言も注目を集める。代表作に『風の歌を聴け』『羊をめぐる冒険』『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』『ノルウェイの森』『ねじまき鳥クロニクル』『海辺のカフカ』『1Q84』『騎士団長殺し』。2019年7月31日に『神の子どもたちはみな踊る』が舞台化。2019年8月7日発売の『文学界』でロングインタビュー「暗闇の中のランタンのように」掲載。アメリカのサックス奏者スタン・ゲッツの伝記翻訳を2019年8月末に刊行予定。

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