頼子のために (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (348ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061854017

作品紹介・あらすじ

「頼子が死んだ」。十七歳の愛娘を殺された父親は、通り魔事件で片づけようとする警察に疑念を抱き、ひそかに犯人をつきとめて相手を刺殺、自らは死を選ぶ-、という手記を残していた。手記を読んだ名探偵法月綸太郎が、事件の真相解明にのりだすと、やがて驚愕の展開が。精緻構成が冴える野心作。

感想・レビュー・書評

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  • 頼子のためにかぁ。恐ろしい話だった。

    最初は溺愛する娘を亡くした父親の独白から始まり、このまま復讐劇でラストまでいくのかと思いきや、推理作家、法月綸太郎の登場から物語は一変。このどこにでもありそうな事件が違う顔を見せ始める。

    楽しく読めたが、頼子が浮かばれず、読後感はサッパリとはいかない。

  • デビュー作からの4作品、全く作風が違う。
    だが、ユーモアのある端正な文章、雰囲気はやはり好き。法月綸太郎の探偵としての変化も描かれている。

    本作は『雪密室』、『誰彼』とは違ってパズラー要素はほとんどない。
    日記の長さの違い、推理があまりにも当たりすぎているという不自然さ、「一昨々日」という書き間違い、といった要素から推理しているわけだが、やや強引さは見られる。
    まぁそこに重点を置いているわけではないので問題はないが。

    父親が実は頼子を愛していなかった、という事実にも驚いたし、
    「実の娘と体の関係を持ち、終いには殺してしまった酷い父親」という姿を隠すために、柊に悪役を押しつけ、自分は「愛する娘の敵を取った父親」を演じる、という動機も面白い。

    ラストに明かされる真実は予想の上を行くものであり、このドロドロとした読後感も自分は好み。
    実は真の黒幕が操っていた、というのは他の作品でもよく見るが、あまり好きではない。
    だが、この作品ではなぜか抵抗を感じなかった。

    自分の好みのタイプの作品ではないが、思っていた以上に面白かった。

  • 高校生の娘を殺された父親の手記から話は始まる。

    25年前に書かれた小説だという事だけれど、古さは余り感じず。
    堅苦しい感じもなく読みやすい一冊でした。

    あとがきなどを読むと作者は何だかナイーブな印象を受けました。逡巡していると言うか。
    更に解説で『探偵、法月倫太郎は好きではない』と
    ズタボロに言われていて思わず笑ってしまいました。
    まぁ、先輩の激励と言ったところなんでしょうが。

    『新本格』というジャンルが出来た頃、大御所からバッシングを受けやすい年代だったのでしょうか。
    そんな時代背景ありきで作者を見てみると、逡巡している作者にかなり好感が持てます。
    シリーズものみたいなので他の作品も読んでみよう。

  • 〇 概要
     「頼子が死んだ。」17歳の愛娘を殺された父親は,通り魔事件で片付けようとする警察に疑念を抱き,ひそかに犯人を突き止めて,相手を刺殺,自らは死を選ぶ―という内容の手記を残していた。政治的な思惑から,「名探偵」法月綸太郎に捜査が依頼される。「対スキャンダル用の緩衝装置とは!」。法月綸太郎は,全く気のりをしないで,手記を読むが,手記に違和感を感じ,捜査に乗り出す。その裏には驚愕の真相が…。

    〇 総合評価 ★★★★☆
     まれに見るほど,ひどいプロットの話である。妻を愛するがゆえに,妻が交通事故に遭う原因になった,娘を愛することができず,娘が父をだまして父の子を妊娠したと言い,そのために娘を殺すというのがプロット。そして,最後に父は自殺し,裏で糸を引いていたのは妻だと推理する名探偵…。いやはやひどい。しかし,人間がさっぱりかけていないので,あまりえぐさを感じない。それが救いになっているかも。人間が描けていたら…トラウマになりかねないほどの作品。ミスディレクションがほとんどなく,名探偵が出てくる作品である以上,犯人となり得るのは頼子の父である西村悠史しかいないのである。それでも驚けるほど,この作品のプロットは見事である。それだけに,人間が描けていないのが惜しいような…これでよかったような。ミスディレクションがもっと巧妙で,ミステリとしての技術があれば,また違った傑作になっただろう。そういった意味では究極に惜しい作品のような気もする。★4で。

    〇 サプライズ ★★★★☆
     西村悠史が自分の娘である西村頼子を愛していたのではなく,憎んでいたという点はかなりのサプライズである。そのくらい,最初に描かれている手記のミスリードは確かなものだし,「親は,子を愛するもの」という思い込みは強い。頼子を殺した犯人が,父である西村悠史であるという真相は,これが本格ミステリである以上,それ以外に驚愕の真相がないというメタ的な読み方をしたとしても,それでも,驚ける。その上で,この一連の事件を裏で操っていた,心理的な意味での真犯人が母親の西村海絵だというのは…。もう少し,ミスディレクションがあれば,もっとサプライズはあったと思う。そういった意味ではちょっと惜しい。

    〇 熱中度 ★★★★☆
     最後まで一気に読めた。読みやすく,熱中度は高い。人間が描けていない小説は,読みやすいという傾向があるかもしれない。読解力がいらないというか…。ただし,捜査の経緯が少し冗長に感じる部分がある。その点は割引き。

    〇 インパクト ★★★★★
     父親が,愛する妻のために娘を殺害であり,インパクトは抜群である。法月綸太郎の存在価値も独特。全体を通じて,この作品を忘れることはなさそう。インパクトは文句なしの★5。

    〇 読後感 ★★★★☆
     悪い。父親が娘を殺す話なので,読後感がいいはずがない。最後に,犯人に探偵が自殺を進めるというのも…。ただし,いつまでも心に残るような嫌さがない。それは,人間がさっぱり描けていないからだろう。犯行を裏でコントロールしていた心理的な意味での真犯人が母である西村海絵であるというのは,インパクトはあるが,海絵がそのような人間に描けていないのが致命的。頼子の存在も希薄。犯人である西村悠史すら,あまり人間が描けていない。話としては最悪の読後感なのだが…。★4どまり。

    〇 キャラクター ★★☆☆☆
     人間が描けていない。プロットとしては,最低のデキなのだが…。相沢紗呼とか,島田荘司とか,米澤穂信とかが書いていたら,もっとえぐい話になっていたと思う。まぁ
    ,あまりにひどい話なので,人間が描けていないという点が,逆に救いとも思えるが…。

    〇 希少価値 ☆☆☆☆☆
     法月綸太郎の初期の代表作だし,法月綸太郎が,人気作家になっていることもあって,希少価値はない。

  • 『これを書き始めた最初の夜から、こういう結末になることはある程度決まっていたような気がする。だから私はおまえのために全てを書き残しておかなければならないと考えた。

    ここにあるのは私という矛盾に満ちた人間の総体だ。私の哀しみ、私の怒り、私の苦しみ、私の決意、私の欺瞞、私の愛、私の罪悪感、そうした私の心のあらゆる葛藤をおまえに知ってほしかった。私がおまえにしてやれるのはせいぜいこれぐらいのことしかなかったのだ。』

    “犯人の手記もの”というジャンルがあれば、これは最高傑作。面白かったなぁ〜。

  • 今までの法月作品の解説に頻繁に出てきていたのが本作のタイトル。どの書評家も法月氏といえば本作を俎上に上げていた。そこで目にしたのは「ロス・マクドナルド主題によるニコラス・ブレイク風変奏曲」、「法月綸太郎4作目にして早くも後期クイーン問題に直面」という、ミステリマニアならではの表現。ロス・マクドナルドもニコラス・ブレイクも、そしてクイーンさえも当時読んだ事の無かった私にはどんな物かも想像もつかなかったが、なにやら面白そうな匂いはプンプンしていた。
    そんなことから期待して読んだ本書だが、読後、これは確かに傑作だと思った。

    物語は娘頼子を亡くした父親の復讐譚という手記で始まる。これがなんとも重い話だ。警察の捜査に納得いかない父親が高校生だった娘の死の謎を探り、それが担任教師との肉体関係にあることを突き止め、彼を殺害し、絶望して自殺を図るが未遂に終る。これだけでも重いが、この真相はさらに重い。学校からスキャンダル隠しのため、父親の警視経由で事件の調査を依頼された探偵法月により、愛憎が入り混じった家庭内の悲劇が暴かれる。どの家庭でも起こりそうなよくある事件が、頼子の家庭に落とした翳が、それぞれの心に渇望感を与え、愛を歪めた結果、悪夢のような結果を招く。
    しかし本作の悪夢とは実は別にある。それは最後に判明する、ある人物の怖さだ。観念の化け物と、確か表現されていたと思うが、まさにその言葉どおり。その人物が見せる情念の恐ろしさに最後、探偵法月は鋒鋩の体で逃げ出す。ここには居たくない、この人の前から早く消えてしまいたいという本能的な恐怖、それを私も実感した。小説を読んでこのような恐怖を感じたのは初めてだったし、またこの人物がこれほどまでに恐ろしい人物だったと知らされる意外性が強烈で、それがゆえに本作は私の中でも記憶に残る傑作として位置づけられている。

    昨今の読者諸氏の感想では、あまりに都合的すぎて、しかもなんだか理解できないところが多い、法月は探偵として力量不足だ、などという批判的なコメントをよく目にするが、私はそうは思わない。無論、本作を読んだ時期は私がまだミステリ読者としてそれほどこなれていなかったせいもあるのだろうし、もし今再読すれば、ところどころに粗が見えて、以前よりも素直に賞賛できないかもしれない。しかし、私は当時の読後感を尊重したい。私は本作で新本格という言葉を意識した。確かにコレは新しい本格だなと。

    しかし数年後、私はロス・マクドナルドの諸作を触れるに至り、この認識が過ちだったことに気づく。私が新しい本格だと思った事は既にロスマクによってなされていた。そしてロスマクこそはハードボイルド作家ではなく、本格ミステリ作家なのだという思いを強くする。
    しかし本作が法月氏のターニングポイントであると云われているように、私にとっても本作がターニングポイントであった。本作がなければ、私は彼の作品を読み続けようと思わなかっただろう。

  • ずいぶん前に買っていたのに何故か放置かましていた本書をようやく読了。
    冒頭の手記の吸引力は凄まじく、この悲壮感だだよう物語を著者は20代にして紡いだのかと驚きました。
    やがて探偵が捜査に乗り出すのですが、名探偵法月綸太郎初出の『雪密室』を読んだのはずいぶん前のことでいろいろと忘れていました。なんとか記憶を掘り返しつつ読んでいくといつの間にか終盤に。そこで明かされる真相は、なんとも形容し難い物悲しいものですが、本格ミステリに情熱を注ぐ著者らしい仕掛けや伏線、エピローグでの示唆などとても楽しめました。

  • 14年前のある不幸な事件から始まった、
    悲しき家族とその周りの人々の物語。

    男は愚鈍、女は狡猾。
    人間美しいばかりではないのだな。

    分かってはいるけれど、
    やっぱり救いを求めちゃうのが人間なのだと。

    残された人たちに光あれ。

  • 2017年62冊目。
    法月綸太郎作品は「一の悲劇」に続いて2作目。
    決して気分のいい話ではないのに、爽快に騙されてめっちゃ面白かった。
    手記のミスリードには完全にやられた。知らず知らずにそう思い込まされてたから、後半のどんでん返しには思わず叫んでしまった。
    1993年に書かれた作品なのに全然古さを感じなかった。
    描写の中でちょいちょいクスリとさせられるのも好き。
    法月綸太郎作品、もっともっと読みたくなった。

  • シリーズの続き。
    途中で「実はこうなのでは…」と思ったことと事実としては同じだったのだけど、真実はもっと重くて深くて怖いという…。可哀想でした。いずれにしても理由は愛だもんね。

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著者プロフィール

1964年島根県松江市生まれ。京都大学法学部卒業。88年『密閉教室』でデビュー。02年「都市伝説パズル」で第55回日本推理作家協会賞短編部門を受賞。05年『生首に聞いてみろ』が第5回本格ミステリ大賞を受賞し、「このミステリーがすごい! 2005年版」で国内編第1位に選ばれる。2013年『ノックス・マシン』が「このミステリーがすごい! 2014年版」「ミステリが読みたい! 2014年版」で国内編第1位に選ばれる。

「2023年 『赤い部屋異聞』 で使われていた紹介文から引用しています。」

法月綸太郎の作品

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