雁金屋草紙 (講談社文庫 と 31-1)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (295ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061854901

作品紹介・あらすじ

奈津が奉公先雁金屋の次男光琳と出会ったのは光琳八歳、奈津十歳のときだった。早くも逸材の片鱗を見せる光琳に奈津は胸をときめかすが、それは果たせぬ恋の始まりだった。尾形光琳・乾山兄弟の間で揺れる女ごころ。京の大呉服商雁金屋を舞台に展開する絢爛豪華な時代絵巻。第一回時代小説大賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • (2005.11.12読了)(2005.07.02購入)
    この本が出版された時、尾形光琳を描いた小説が出たということで、そのうち読もうと思っていたのですが、いつの間にか忘れていました。
    最近思い出して、購入し、積読中だったのですが、根津美術館の「特別展 国宝 燕子花図」で、光琳の絵をまとめてみることができたので、この機会に読んでしまうことにしました。
    物語は、光琳を直接描くのではなく、奈津という光琳より2歳上の女性の目を通して描いている。雁金屋は、呉服商である。初代の道柏の妻は、本阿弥光悦の姉である。光琳の父は、雁金屋の4代目・宗謙である。光琳は、その次男で幼名は市之丞なので、小説の中では、「市さま」と呼ばれている。光琳の弟は、乾山であるが、幼名は、権平である。
    雁金屋の4代目・宗謙の母・一樹院は、奈津の大伯母に当たる人だったので、そのつてで、雁金屋へ奉公に出され、市之丞や権平と兄弟のように過ごした。奈津は10歳、市之丞8歳の時である。権平は、3歳であった。奈津は、一樹院の身の回りの世話をしながら、しっかりしつけられ育った。
    16歳の時、筆問屋、竹屋孝三郎に嫁いだ。雁金屋の贅を尽くした生活に較べ、竹屋は万事質素であった。
    「竹屋に嫁いで日も浅い頃、奈津が居間で手習いを始めていると、古くからいる女子衆等が、「女子はんやのに、あんなことしはって。紙も時間ももったいのうおすなあ」と聞こえよがしに話すのを耳にした。庭の草花を切って活けようとすると、「どなたはんか、お客さまどすか」と聞きかれ、季節にあわせて床の間の軸を架けかえようとすると、「他のお軸も傷みますよって」と、年長の女子衆がしたり顔に言い、夫の孝三郎も、「まあ、そう気張らんでもええがな」と笑う。」(78頁)
    奈津が竹屋に嫁いで、一年後火災があり、夫の孝三郎は、母親を助けようとして死亡してしまったので、雁金屋に戻った。一樹院が亡くなった後だったので、奈津は、雁金屋の奥を任されるようになった。「日々のお菜のことから、家族全員の衣替え、夜具の手入れ、節句や庭師のこと、奥向きの付合い、法事のことなどにも気を配り、奈津は、もはや雁金屋になくてはならぬ存在となっていた。」(88頁)
    「この頃、市之丞は能一筋で、離れの能舞台で稽古に励むか、さもなければ自室で静かに花伝書などを筆写していた。権平の方は鷹ヶ峰の屋敷に泊まり込んで、光悦の孫、空中斎光甫に陶技を習い始めていた。」(89頁)
    宗謙は藤三郎を雁金屋5代目にし、市之丞、権平にも財産を分与し、67歳でこの世を去った。「この時、市之丞は既に30歳、権平は25歳になっていた。権平は父親の死を機に、深省(しんせい)と改名し、読書を好み、深く隠士の道に憧れる日常は、以前にも増して静かなものとなった。一方、市之丞は、絵画の師山本素軒が法橋を与えられたことに発奮してか、絵筆を握る日が多くなった。」(109頁)
    「深省の手引きで、藤三郎と共に二条綱平に接見を許された市之丞は、卿にいたく気に入られ、近頃では深省と同様にお伽衆の中にも入れられ、絵画を頼まれたり、能を舞ったり、三日ほど前にも、治太夫という浄瑠璃語りを呼んだ後で、夜食をともに許されたのだという。そして、父宗謙の号の浩斎の一字を取り名を、浩臨(こうりん)と改めたとも言う。」(123頁)その後、「友人の暦算学者中根元圭に文字考を頼み、浩臨を光琳と改名した」
    「人間的に見れば深省は誠実、廉潔で、思慮も深く、その教養も確かなもので、何よりも心根が優しい。が、光琳は外面はよいが、見え坊で利己的で斑気、比べて見れば見るほどに苦笑するしかない。」(139頁)
    光琳の絵を深省は「頭で細こう計算してはるんやのうて、魂全体で、無意識に人生の絵筆をとってはるようななんや、自然の力を己れの中に取り込むような、強さを底に感じるんどす」と評している。(140頁)
    奈津が「いつどしたか、深省様も云うてはりましたえ。光琳様には人並みすぐれたもんが、ぎょうさんおありやから、それで苦労しはるんや云うて。ほんまに、茶の湯の宗匠かて、能役者かて、絵師、書家、染物師かて、これ一つと決めはったら、どの道かて大成しはる思います。」というのに対し、「雁金屋の図案描きに、深省とこの絵付け、蒔絵の下絵に、扇や団扇、枝や幹や判らんが、これがほんまの浮気性云う奴やなあ」と、光琳は声高く笑った。」(144頁)
    元禄10年、光琳四十歳の時、上層町衆吉田八兵衛の娘、多代33歳と祝言を上げた。
    その後、光琳には、二条綱平のほかに、銀座役人の中村内蔵助が後楯となってくれ、蒔絵や屏風絵で人並の生活ができるようになった。光琳梅、光琳松、光琳波、光琳桐、と呼ばれるような図案も考案している。深省は、鳴滝の窯が都の乾(いぬい)の方角にあるので「乾山」と名乗り、焼き物は、乾山焼きといわれる。
    元禄14年、「2月27日、光琳が法橋に叙せられ」た。「法橋は法印、法眼に次ぐ、地下四位諸大夫に準ずる高位で、武士ならば大名格である。」(171頁)「光琳が絵師として世に立つ決心をしてから、四年目のことである。二条綱吉の推挙のおかげであろうし、中村内蔵助ら銀座役人の援助もあってのことであろう。」
    ●東山の衣裳比べ(173頁)
    何でも、光琳の後ろ盾になっている銀座の年寄り中村内蔵助の妻女が、東山で名立たる京の富豪の妻女達の集まりに出た折りのこと、あらかじめ衣裳比べになるのは必至と、内蔵助が光琳に相談したと云う。やがて当日、様々の趣向で着飾った名家の妻女達は、侍女にもそれぞれ美しく装わせて連なったが、内蔵助の妻女はなかなか現れない。いかにしたことかと話し合っているところに、しずしずと内蔵助の妻の乗り物が入って来、姿を見せたその衣裳は、意外にも、黒羽二重の打掛であった。そしてその下に、白無垢の重ね、帯は古渡り金襴。きらびやかな色の氾濫する中に、漆黒の深夜に雪明りの清浄、人びとは固唾を呑んだと云う。
    ●燕子花の屏風(191頁)
    金地に濃淡二色の群青の燕子花、葉は緑青一色。燕子花の群れは八つに分けられ、右から左へ、高く高く低く低く高く高く低く低くと流れて行く。その中の二つの群れは反復を強調するように、全く同じものが高低の差をつけただけで、繰り返し描かれている。紫の調べが、小川のせせらぎのように響く。明るく、きらきらとして、爽やかに、しかも力強く。金地を背景にして、明快な喜びを奏でるその六曲一双の燕子花は、まさに、光琳の自信が迸るように輝いていた。(燕子花の屏風は、西本願寺に納めた。)
    宝永元年、光琳は江戸在番となった内蔵助の後を追って、突然江戸に下ったのである。(204頁)宝永6年春、光琳は江戸を引き上げ、京に帰ってきた。足掛け6年の江戸暮らしであった。この年、華やかに元禄の花を咲かせた将軍綱吉が死去。徳川幕府は6代家宣の時代となる。(222頁)
    ●紅白梅図(273頁)
    金箔の上に、向かって右に紅梅、左に白梅が力強く根を張る。その間を中央に、早春の雪解け水を集めて、銀地に群青の水流がえも云われぬ迫力でうねり流れる。そのうねりに負けじと、左から右から白梅の老樹が紅梅の若さが存在を競う。白梅の幹の確かさ、紅梅の枝の鋭さ、水流の豊かなうねり、水紋の激しさ、一つ一つが己れを主張しながら、いつしか、紅梅、白梅、水流は自然に一体となって見る者を唸らせる。たらし込みの技法で描かれたあくまでも写実的な紅白梅図に、図案化された水流が、互いに効果をあげて迫り、その中に、紅梅白梅の花弁がやさしさを誇る。(右に青々光琳、左に法橋光琳と署名してある。)

    著者 鳥越 碧
    1944年 福岡県北九州市生まれ。
    同志社女子大学英文科卒業。
    1990年 『雁金屋草紙』で第一回時代小説大賞を受賞

    (「BOOK」データベースより)amazon
    奈津が奉公先雁金屋の次男光琳と出会ったのは光琳八歳、奈津十歳のときだった。早くも逸材の片鱗を見せる光琳に奈津は胸をときめかすが、それは果たせぬ恋の始まりだった。尾形光琳・乾山兄弟の間で揺れる女ごころ。京の大呉服商雁金屋を舞台に展開する絢爛豪華な時代絵巻。第一回時代小説大賞受賞作。

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著者プロフィール

1944年、福岡県北九州市生まれ。
同志社女子大学英文科卒業。商社勤務ののち、90年、尾形光琳の生涯を描いた「雁金屋草紙」で第一回時代小説大賞を受賞。
主な作品に、「あがの夕話」「後朝」「萌がさね」「想ひ草」「蔦かづら」「一葉」「漱石の妻」などがある。
また、近著の「兄いもうと」では、妹・律の視点から正岡子規の壮絶な生涯を描き切り、子規の解釈にも一石を投じた。

「2014年 『花筏 谷崎潤一郎・松子 たゆたう記』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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