魔球の伝説 (講談社文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (254ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061856042

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  • プロ野球に関するエッセイや評論、ノンフィクションは星の数ほどあるし、僕も山ほど読んでいる。

    だけど、その中で本当に印象に残っている本というのは数少ない。
    本書は、その数少ない中の一冊だ。
    それもトップクラスの。

    僕はこの本で“シューレス”ジョー・ジャクソンの物語を知り、サチェル・ペイジのことを知り、ジョシュ・ギブソンのことを知った。

    沢村栄治の伝説の真実も、山口高志という投手の本質も、すべてこの本で知った。
    この本には日米のプロ野球史を紐解いたとしても、そこには決して読むことが出来ない物語が書かれている。

    プロ野球を愛する人々に、ぜひ読んでもらいたい一冊だ。

    たとえば、こんなことが書かれている。

    沢村栄治について語られる時に、必ず引き合いに出されるのが、1934年11月10日、静岡草薙球場でアメリカ大リーグのオールスター・チームを相手に被安打5、失点1の快投を演じたというエピソードである。この時に対戦した打者はベーブ・ルース(終身打率.342、生涯本塁打714)、ルー・ゲーリッグ(終身打率.340、生涯本塁打493)、チャーリー・ゲリンジャー(終身打率.325、生涯本塁打534)といったメンバーであるが、実は沢村栄治のピッチングが通用したのは、このたった1試合だけであった。
    10日前の神宮球場における初顔合わせでは、12安打を浴びせられて10対0で惨敗、同月28日の出身地京都では14対1、12月1日の宇都宮での試合では14対5(いずれも途中降板)で、試合の体をなさないほどに打ち込まれている。しかもよく言われるベーブ・ルースを相手に投げた話も、当のルースが翌年28試合に出場しただけで引退しているので、つまりは廃業寸前の横綱を稽古で土俵の外に押し出したことがある、という程度の話でしかない。


    沢村という投手についてここまで赤裸々に書かれた本は見たことが無い。

    他にも、こう、だ。


    シリーズ中の打率.375、打点6、得点5、刺殺16、捕殺1、無失策。これがジョー・ジャクソンの成績だった。この活躍ぶりを見るかぎり、彼が八百長に加担したとは思えない。
    (中略)
    本当に八百長に加担していたかどうかという事実の検証よりも、彼がいかに無学であるか、満足な教育を受けていないかといった点が、強調されたのだった。片田舎の貧しい家庭に生まれ、学校で過ごす十分な時間を持てなかったことが、それ自体、犯罪の証ででもあるかのように非難された。


    Say it ain't so, Joe.
    うそだと言ってよ、ジョー。
    少年の悲しいまでに切実なる言葉をジョー・ジャクソンはきっと忘れなかっただろうし、歴史もおそらくそれを忘れない。
    彼の記録したヒットの数、1774本というのはメジャーの長い歴史の中では、たいした記録ではない。
    だが彼がいつまでもその名を歴史に残しているのは、ブラックソックス・スキャンダルによってではなく、少年が悲痛な叫びをあげるほどに素晴らしかった彼のプレイと、その可能性によってだと信じたい。

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