時計館の殺人 (講談社文庫)

著者 :
制作 : 皆川 博子 
  • 講談社
3.72
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本棚登録 : 3934
レビュー : 391
  • Amazon.co.jp ・本 (626ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061857063

作品紹介・あらすじ

館を埋める百八個の時計コレクション。鎌倉の森の暗がりに建つその時計館で十年前一人の少女が死んだ。館に関わる人々に次々起こる自殺、事故、病死。死者の想いが時計館を訪れた九人の男女に無差別殺人の恐怖が襲う。凄惨な光景ののちに明かされるめくるめく真相とは。第45回日本推理作家協会賞受賞。

感想・レビュー・書評

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  • 館シリーズ第5作目にして日本推理作家協会賞受賞作である本書は当時全10巻と想定されていた館シリーズの折り返し地点でもあり、それまでの集大成的な趣を備えている。従って前4作を凌ぐ厚さで、内容も濃い。
    まず時計館のデザインからして過剰だ。私は文庫で読んだが、文庫表紙の絵では単純に聳え立つ時計塔が描かれているのみで、学校のような感じを受けた。単に時計塔があるから時計館かと思っていたら、そうではなく、時計をモチーフにした円形の館を取り巻くように階段と廊下があり、「おおっ、やるではないか!」と胸躍ったものだ。さらに館には古今東西から集められたアンティーククロックが設えられているという装飾も物語に異様さを与え、私の本格ミステリ熱を掻き立ててくれた。

    そしてその内容も前作の不満を一気に解消する面白さだった。第1作で登場した江南くんが中村青司が建てた時計館を訪れ、そこで次々と起こる連続殺人に巻き込まれる。そしてなぜか犯人は犯行と同時に館内のアンティーククロックをことごとく壊していく。そしてシリーズで探偵役を務める島田潔は鹿谷門実と名を変え登場するが、なんと彼は時計館ではなく、その外側にて行動しているのだ。

    そして最後に明かされる犯人の動機と時計を壊した意味は、正に私にカタルシスを存分に感じさせる内容だった。「ああっ、そうだったのか!」とこれほど気持ちよく騙される快感もそう味わえない。
    やはり読者が綾辻作品に求めるのは、この過剰さにあると思う。現実の日本とはちょっと位相が違った世界のように感じられる館にて、常識で考えると滑稽だと思われる一風変わった主たちとそれを取り巻く一癖も二癖もある反社会的な人物たち。彼ら彼女らが抱く過剰さと特異な館という異世界の過剰さが読者を異界へといざない、大伽藍を描いてみせる。そんな世界で最後に繰り広げられるのはあくまで地球上の法則・論法に則った謎解き。異界が決して魔法とか奇跡とかで解かれるのではなく、凡人が納得できる一般知識で解かれるところにこの気持ちよさがあるのではないだろうか。そしてそれは世界が過剰であればあるほど、ロジックの美しさを描く、そんな気がする。

    特に本作で印象的だったのは、犠牲者の一人が館を逃げ出そうとして出口を開けたときに遭遇する、ありえない光景を見るシーンだ。このありえない光景は最後で明らかになるのだが、そのとき犠牲者が目の当たりにしたのは正に狂気の世界なのだ。この現実世界で気が狂わんばかりの光景というのはどういうものか、それを実に鮮やかに納得のいく常識的論理で解き明かす。ここに私は綾辻マジックの真髄を見た。
    そしてこの館を覆う大きな仕掛け、つまり館内の時計を次々に壊す理由を知った時、綾辻氏は神ではないかとまで思ってしまった。ネタバレになるので詳しくは書けないが、当時学生だった私は色々世の中について考えを凝らしており、その中で至ったある真理というのがあった。しかしその真理を綾辻氏は操ってしまったのだ。あとがきで作者もこのアイデアの核を思いついたのは正に天啓だったと述べている。天啓という言葉を使うほど、このトリックは神の支配をも超えるすさまじいものだし、私もこのアイデアには恐れ入ってしまった。

    いささか散文的で熱くなってしまったが、当時私が本書を読んで抱いた感慨を文章にするとどうしてもそうならざるを得なかった。『十角館~』という処女作の呪縛を私はこれで氏は超え、更なる高みへ行ったと思ったが、意外と世間の本書に対する評価は冷ややかであるのが不思議だ。しかし私は怖気づくことなく、本書は傑作であると声を高くしてここに断言する次第である。

  • 大慌てで読み、その後バタバタしてたのであまり記憶がないのですが、印象が強かったことをメモっときます。
    時計館の時間についてのからくりは、そのアイデアも動機もロマンチックで夢がある。こういうどこか現実っぽくないところが気にいった。
    ただし、殺人犯の動機はやたら現実的だった。まあ殺人をするほどだから当然だが・・・
    推理小説を読みこんでいるうちに思ったのは、犯行が行われたトリックや手がかりは数あれど、動機というものは少ないのかもしれないということ。
    動機ももちろん気になるけれど、私は「まさか!」とびっくりさせられたいので、今後もぼちぼち推理小説を読んでいこう。

  • 館シリーズ5作目。
    登場人物皆殺しの勢いでばったばったと人が死にます。江南君頑張ったね…!と言いたくなる一冊。島田さんが助けに来てくれたシーンは何度読んでもじーんと来てしまう。所々江南君が十角館を思い出すのが切ない。瓜生君がエラリィとキャラ被りすぎてるのがいけないんだ…。
    時計館は舞台設定が幻想的でいいですね。ラストのシーンも美しい。シリーズいち大掛かりなからくりではないでしょうか。この話を読むとどうして谷山浩子さんの「王国」をイメージしてしまう。

  • 館シリーズ前作の人形館でだいぶ変化球が来たのですが、この時計館の殺人はド直球の謎解きでした。

    これぞ館シリーズ。面白かったです。
    館にきちんと存在感があり、かつトリックの主役になっている。伏線の素晴らしさ、犯人の動機、トリック、時計館の謎、過去と現在がうまく絡み合って、最後の章で一気に謎が解け、物語が終わります。
    仕掛けが盛りだくさんで、読後感のカタルシスが半端ないです。

    犯人は目星がついても、このトリックが解ける人はそうはいないのではないでしょうか。時計・時間を使ったトリックだろうなあ、とは誰もが思いますが、これは思いつかなかったなあ。

    それにしても、大勢死にましたね〜。過去と現在合わせて1番多いのでは。あまりにテンポよく死んでいくんで、誰もいなくなっちゃうんじゃないかと思いました。

    時計館という舞台も、美少女が変死した過去も、かなり怖くて、ゾクゾクしました。
    水車館が1番怖かったのですが、それに次ぐおどろおどろしさ。旧時計館の章では河南の視点で話を読むことが多いので閉鎖された空間で1人、また1人消えていく恐怖をたっぷり味わいました。

    講談社ノベルス版を読みましたが、綾辻さんのあとがきが最後にあります。綾辻さんってだいぶ軽妙な文章をかかれる方なんですね。本編との違いに驚き、素の文章も読んでみたくなりました。

  • すごくいいトリックでした。

    伏線はいろいろとあったけど、何気に時計が108個もあると言われてたのが、このトリックに気づけない心理的な壁になっていたような気がします。

  • トリックはお見事としか言いようがない。


    ただ、犯人が単独で多くの被害者を殺せるものなのかは疑問が残る。

    凶器や犯人自体の館間の移動、死体の移動など、犯人の年齢や体力でできたのかといえばどうなんだろう。

    それと、盗聴器の電波は、通じたのであろうか。

    最後に、どうしても館シリーズは隠し扉や隠し階段があるので、クローズドサークルの魅力は半減しちゃうかな(本作では容疑者が鍵を持ってるので完全なクローズドサークルとはいえないかもしれないが)。

  •  他のかたのレビューを見ると、最初のほうは特に何も起こらない、退屈、てあるんだけど、意外と私はそうも感じなかった。
     最近読んだ法月綸太郎さんの「生首に聞いてみろ」は、まさに前半に展開が少なすぎて退屈…て感じだったんだけど、そういう感じにはならなかった。

     どんでん返しがあると思って読んでたし、いろいろと分かった時点でまだページ数があったから、それによって犯人は分かったけどね。
     いや、殺人事件が起こる、ということが分かっている神の視点たる読者の立場だから言えるけど、最初から行動がちょっとアレだったよね、犯人。

     それにしても、特にその行動が犯行や推理に全然関係ないにも拘らず、やたら喫煙シーンが出てくることに時代を感じる…。

  • 館シリーズ最長の作品。一般の評価はかなり高いのだが、自分は序盤の展開がのんべんだらりとしていて、長さを実感してしまった。トリックもなんとなくだが想像がつき、さしたる衝撃はなかった。いわゆる「中」と「外」でシーンが別れる綾辻作品を続けざまに読みすぎたせいかも?

  • この年(60オーバー)だと和洋話題作有名作その他コミック含めて大抵は作家名や作品名は見覚えがある。10年チョイ前一番多忙なのと精神世界系の本に興味があったのでエンタメ系の話題作品に触れる機会が少なかった。本のオビに「絶賛のトリック」とか「驚くべきラスト」とかのキャッチと作者のプロフィールに惹かれて購入した。
    その時はこの作家については初読だった。
    殆ど出尽くしたと思ってたのでとにかくこれはビックリ。
    まだストーリーも知らず未読の方はプレヴュー等観ずに一読をおススメする。
    勿論結末が分かっても作品自体のクオリティーには何の影響も与えないが、
    ネエ・・・やっぱり本格モノは最後のドンデン返しで「あっ」やられたってのほうがイイに決まってる。ジックリとお時間のある時に活字好きミステリー好きの方の至福のお時間を。
    この後この作者の館シリーズを全部購入一気読み。

  • 館シリーズの5作目、やはり中村青司の建設した館ということで、隠し部屋や通路があるのは織込み済みということになってしまう。久々に江南の登場があり時間トリックはあったが、犯人は一番それらしくない者というお決まりはそのままに、あとは動機を無理やりつけたという感じ。このシリーズもちょっとパターン化してしまったようである。

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著者プロフィール

綾辻 行人(あやつじ ゆきと)
1960年京都市生まれ。京都大学教育学部在学中、京大推理小説研究会に所属。研究会同期に、後に結婚する小野不由美がいる。1982年、同大学大学院教育学研究科に進学。1987年、大学院在学中に『十角館の殺人』で作家デビュー。講談社ノベルス編集部が「新本格ミステリー」と名付け、その肩書きが広まった。1992年大学院を卒業後、専業作家に。
1990年『霧越邸殺人事件』で「週刊文春ミステリーベスト10」1位。1992年『時計館の殺人』で日本推理作家協会賞長編部門を受賞。2011年『Another』で「ミステリが読みたい!」1位。2018年第22回日本ミステリー文学大賞を受賞。
主な代表作として、デビュー作『十角館の殺人』以来続刊されている、長編推理小説「館シリーズ」。

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