- 講談社 (1994年1月1日発売)
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感想 : 44件
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Amazon.co.jp ・本 (272ページ) / ISBN・EAN: 9784061857988
みんなの感想まとめ
不幸と幸福の関係性を深く掘り下げた作品で、特に「幸福という料理は、不幸というまな板の上で調理される」という言葉が印象的です。登場人物たちの優しい会話や温かい描写は、読者に癒しをもたらし、心に残る余韻を...
感想・レビュー・書評
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“幸福という料理は、不幸というまな板の上で調理されるもの”というあとがきの言葉が印象的でした。
不幸な経験があった方が、幸福をより濃く味わうことができるということかと、この言葉を読んで自分の生き方に安心できるような気がします。
梶井の間違って送った手紙によって、志穂子が奇跡的に病気を治して退院できたこと。聖書に出てくるような話だなと思いました。
宮本輝さんはキリスト教ではなく他の宗教信者さんのようですが、文章の中に信仰が表れてしまうのかも。
文章が優しく、出てくる登場人物の会話が、男性も含めて、優しい言葉に溢れていて、癒されました。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
もと芸能界にいた梶井、そして18年間の闘病生活を送って社会復帰をした志穂子
言葉をうまく伝えられませんが、気持ちのいい作品、
読後感がその余韻に浸っていたいそんな作品です。
恋愛観だけでなく、人生そのものに視点を与えているそんな作品です。
表題が気に入って手に取った作品でしたが、読んでよかったと思える作品でした。
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2025/1/29
読んだ、楽しかった。 -
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「ここに地終わり海始まる」
・・・ポルトガル史上最大の詩人ルイス・デ・カモンエスがユーラシア大陸最西端のロカ岬で詠んだ詩で、地中海に面していないポルトガルは東方貿易に不利だったため、この岬から西に広がる未知なる大海原に乗り出しました。
・・・「陸地が終わってしまったと嘆いてはいけない。船という新しい道具を作って海という新しい世界に乗り出す勇気と柔軟性が必要だ」
宮本輝
1947(昭和22)年、兵庫県神戸市生れ。追手門学院大学文学部卒業。広告代理店勤務等を経て、1977年「泥の河」で太宰治賞を、翌年「螢川」で芥川賞を受賞。その後、結核のため二年ほどの療養生活を送るが、回復後、旺盛な執筆活動をすすめる。『道頓堀川』『錦繍』『青が散る』『流転の海』『優駿』(吉川英治文学賞)『約束の冬』『にぎやかな天地』『骸骨ビルの庭』等著書多数。
ここに地終わり 海始まる(下) (講談社文庫)
by 宮本輝
「霧は? 一寸先も見えない霧のなかを歩いたことは? 並んで歩いている人間の顔も見えないくらいに濃い霧は?」 と梶井は訊いた。 「うん、そんなすごい霧は見たことないわ」 「じゃあ、蓼科か霧ケ峰に行けばいいよ。軽井沢にも濃い霧が出るけど、一寸先も見えないような霧が出るのは、そう多くはないからな」 どうせ疲れて、途中で引き返すだろうと思い、梶井は軽い気持ちで言った。
「すごくセックスがしたい。生理が近いのかな」 と由加はいって、車の窓をあけた。冷たい風が入ってきた。 「気分がほぐれたからだろう。ついでに、写真のことなんか忘れちまえよ」 由加は、それには答えず、 「私、克哉が一番いいわ。自然でいられる。克哉といると、私、ぜんぜん構えないでいられるの。克哉が一緒にいてくれるんなら、私、鄧と別れるわ」 「その結論は、十日ほど考えてからにしたら? 十日間、じっくり考えて、それでも亭主と別れようと思ったら、そうしたらいいよ。俺も由加を好きなんだから」 「私、もう何日も考えたの。何日どころじゃないわ。この二ヵ月間、ひたすら考えつづけたんだもの。あと十日間考える必要は、もうないの」 梶井も、由加といると、自然でいられると思った。少しも構えないでいられる……。 「セックス、したい?」 と梶井は由加に微笑を向けて訊いた。 「うん、したい」 「俺と?」 「あたりまえでしょう」
志穂子は、そんなことを考えているうちに、強い絶望感に襲われた。そして、いっときも早く、何か手に職をつけなければならぬという焦りにかられた。 誰の迷惑にもならず、ちゃんとひとりで生きていけるために、何か手に職をつけなければならない。でも、自分にいったい何ができるだろう……。 どんな仕事でも、本気で取り組めば、心身を酷使しないわけにはいかない。仕事に、らくなものなんて何ひとつない。だけど、こんな自分みたいな女にもできる仕事が、何かひとつくらいはあるのではないだろうか……。
「お父さんの会社の札幌支社に、学生のころ肺結核にかかって、八年間も入院してたって人がいるんだ。その人は、もうじき五十歳だけど、三十五歳のときに、うちの社に中途採用で入社して、それ以来ずっと札幌支社で働いてる。その人が、こう言ってたよ。病巣が本当に固まるのに、七、八年かかったような気がするって。退院して七、八年たって、やっと自分の体に自信がついてきた。でも、そのころ、三十歳をとうにすぎてたから、自分の将来について考えることといったら、とにかく暗いことばっかりだった。いま思うと、どうしてあんなに焦ったのかって考えるけど、それが人間というものだろう。だから、自分の人生は三十五歳のときから始まったんだって、いまは思える。三十五歳で始まっても、少しも遅くはないんだってことも、五十をすぎてやっとわかったって」 そして父は、珍しく厳しい表情で志穂子を見つめ、 「志穂子の本当の人生が、十年後の、三十四歳で始まったって、少しも遅くはないじゃないか」 父の言葉に、志穂子は、生まれて初めて、強く歯向かった。 「遅いわ。三十四歳から始まるなんて。あんまりにも遅すぎるわ。六歳のときから十八年間も病院にいて、まだあと十年も、我慢しろなんて、あんまりだわ。そんなことは、あんまりだわ。私の身にもなってよ。私はいったい何のために生まれてきたの? 私は、病気をなおすだけのために生まれてきたの?」
「この道、何回、来たかな。十何年間、通いつづけた道だな。夏は、もうこのあたりから車が混んで、軽井沢をすぎるまでノロノロ運転でね。いつも、朝の四時に家を出たよ。それでも、志穂子の病院に着くのは昼すぎだ。九月に入ると、急に車が少なくなって、十月の末には、軽井沢中の見はらしが良くなるんだ。木の葉がほとんど落ちてしまうからなんだな。十一月に入ると、軽井沢は 深閑 としててね。俺は、冬の軽井沢が好きだな。それも、雪の降る前の軽井沢がね。一度、そんな時期の軽井沢で一泊してみたいと思ってたんだ。志穂子が元気になったら、家族全員でそうしようと決めていたんだ。夢が叶ったよ」
それなのに、志穂子は、江崎万里に刺された日以来、梶井との生活を夢想するようになった。そんな自分が馬鹿らしくて、志穂子は、ふいに生じた愚かな夢想を追い払おうとしたが、そうすればするほど、梶井への恋情はつのっていくのである。 たしかに、志穂子にとって、尾辻玄市は、非の打ちどころのない男性だった。彼の優しさや正直さ、そして大きさを、志穂子は、類のない美点と感じたし、単なる好意以上のものを抱いてもいた。にもかかわらず、志穂子のなかでは、梶井の噓や弱さを包んでしまいたい衝動が絶えず火花を散らし、それはついには、明確な恋心となって、志穂子の心に居座ってしまったのである。 でも、梶井のことは忘れなければならないと志穂子は自分に言い聞かせ、路面の光を、うなだれて見つめた。梶井は、由加と結婚するのだ……。あの美しい由加と……。
「どんなに健康な人でも、なぜか不思議に子供ができないってケースは、とても多いよ」 とだけ言って、浦辺先生は、とくに志穂子へのなぐさめの言葉は使わなかった。
「動物は、みんな子供を産むために結婚する。 種 の存続のためにね。人間もきっとそうなんだろう。でも、人間は、そのためだけに結婚するんでもない」 梶井の言葉で、志穂子は視線を海から梶井の横顔へと移した。 「きのう、俺は結論を出した。ひょっとしたら、とりあえずの結論かもしれない。でも、俺は、志穂子さんを好きで、志穂子さんと家庭を築きたいって思うのなら、俺も子供をあきらめるのが当然だって……。俺は、男として、最初からそれを覚悟して結婚できるだろうか……。そんなことを考えているうちに、俺は、志穂子さんの部屋に行きたくなってね。そういう自分を抑えるのに苦労した」 梶井は、ハンドルを握って前方を見つめたまま、何のてらいもない求婚の言葉を述べた。 志穂子は、なぜか驚かなかった。驚かなくてはならない状況なのに、志穂子は、まるで予知していたことが自然に起こったような心持ちになっていた。 「私みたいに平凡で、体の弱い、何の取り得もない女が、こんなことを言うのは、随分身の程知らずでなまいきだって思うでしょうけど、怒らないで下さい」 そう前置きし、志穂子は、なぜ自分はこんなにも落ち着いているのだろうと思った。 「私、やっぱり、梶井さんを好きなんです。だから、梶井さんに、そんなふうに思っていただいて、本当は夢みたいな気持ちなんです。でも、お返事は、一年間待って下さい」
幸福という料理は、不幸という 俎板 の上で調理されるものなのだと、私はいつも思っています。 〈ここに地終わり 海始まる〉の若い主人公を、幼児から十八年間も結核という病気で封じ込めたのちに、大都会の汚濁の渦に放り出したのは、私が、この小説の主人公を豊かな人格を持つ幸福な女性にしたかったからなのですが、はたして、彼女が幸福になったのかどうかは分明ではありません。 なぜなら、私は彼女を〈過程〉、もしくは〈途上〉で置き去りにして筆を 擱 いたからです。幸福を願いつつ、小説の幕をおろしました。
ポルトガルのロカ岬はヨーロッパ最西端の地なのですが、そこに〈ここに地終わり 海始まる〉という碑文が刻まれていて、私はこの文章になぜか烈しく心を揺すられました。どうしてなのか、私にはよくわかりません。ですが、私はこの言葉をそのまま小説の題にさせていただき、地方新聞十数社で二百十回にわたって連載しました。 -
初めての宮本輝作品。
優しくて温かい文章構成で、一気にファンに。
結核を患い長年入院生活を送ってきた主人公。二人の男性と出会い、揺れ動く女心がとても繊細で純粋でとてもチャーミングで可愛らしい女性にキュン。 -
完全な終わりはなく、そこからまた何かがはじまる。人生も、時間も。句読点の連続ですね。
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もうだいぶ読んだ筈なので、古本屋さんでまだ読んでいない宮本さんの作品があることに気づいた時は嬉しかった。
この作品は終わり方がいいですね。
新聞小説だったらしく、かなり小刻みに状況が動いて行くけれど、リズム良く読ませるのは宮本さんの筆力だと思います。
ともあれ、質の良い時間を過ごせました。
この分量だったら上下巻にわける必要はないように思うんだけど、例によってオトナの事情ってやつでしょうか。 -
〈再読〉久しぶりに読んだが、やはり宮本輝の作品だなあ、という感じ。挫折があって、そこから周りの人との関わりあいを通して再生が見えてきたところでラスト、という慣れ親しんだ展開。個人的には、尾辻とダテコがちょっぴりかわいそう。
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(上)を読み終え、(下)を読む気になれなかったけれど、何となく読んでしまいました。宮本さんらしい不幸からの、でした。梶井の人間性は最後まで腹立たしく、読後感は今一かな。
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ロカ岬
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誠実で、実直で、ラガーマンの尾辻。
軽薄で、その場しのぎで、フラフラする梶井。
尾辻と梶井は、親友であるが、なぜ親友と言える間柄か、
よく見えない。
志穂子は、二人の間を揺れ動く。
梶井が絵葉書で送ったロカ岬の言葉が、志穂子を再生させた。
子供が、産めないということが、わかった志穂子は、決断する。
じっと、見守る父親が、いじらしく、切なく、愛に満ちている。
この物語の良さは、父親の態度に尽きる。 -
ヨーロッパ最西端ポルトガルの「ロカ岬」にある碑文「ここに地終わり海始まる」。昔訪れた時に、その崖の上で荒々しい海をみた時に「この先にもう陸はない」という不安感のようなものを感じたことを思い出した。
結核に侵されて6歳から18年に及ぶ療養生活を経て奇蹟的に回復した「志穂子」.。生きる希望をあきらめていた志穂子に奇跡を起こしたのが、「梶井」という知らない男の「ロカ岬」から届いた恋文に等しい絵葉書。その絵葉書は実は別の女性に宛てて出されたものだった。いつもどこかに逃げ場ばかり捜す「梶井」。生まれて初めて療養所以外で社会生活を始めた「志穂子」に先に道がない新しい人生が始まる。「志穂子」.がすべてをあきらめた状態、隔離された無菌室から、少しずつ色づき意思を持っていく。
結核の体験を持ち生を見つめてきた宮本輝だからこそ書ける世界か。 -
宮本輝はよい。彼の小説に登場する人々は、不器用で滑稽で、そして、力強い。
小説の根底に『再生』が流れている。人間って、捨てたもんじゃない。そう感じさせる。 -
いい子すぎる主人公が最後まで好きになれなかった。でも、感情を表に出さずにいた主人公が泣いたり、怒ったり、少しづつ変化してくところがいいのかも。人間としてずっと出来てる尾辻よりも、ダメ男の梶井にひかれる気持ちは分からなくもない。(けど長い目で見ると尾辻にしといたほうがいいような気もする)
ポルトガルのロカ岬と福井の越前岬、長野の軽井沢と蓼科に行ってみたくなる本。 -
今年に入ってから何度となく図書館に本を借りに行き
マイブームとなった読書も就職前くらいから
そろそろと翳りを見せておりましたw
以前、ブログにも書いたのですが宮本輝氏の「五千回の生死」を
借りて読み、その影響でいとこが宮本輝氏の本を
貸してくれておりました。
随分長いことほったらかしになっており
(返却期限がなければ人間こんなにいい加減になるものなのか…)
その本のうちの一冊をつい先日から読み始めて…
読み出すと面白くなって一気に読んでしまいました。
(よくあるパターンw)
「ここに地終わり海始まる」というタイトルで上下巻の二冊。
長編小説はなるべく避けている私でしたが(笑)
今年初の長編小説だったかもw
大抵は話を読み進めながらその小説のテーマを探してしまうのが
私の読み方の癖なのですが、
この小説は作者の言いたいこと…というよりも人間というもの、
小説に出てくる登場人物ひとりひとりの持っている違ったカラーや
人間臭さ、本能、本性、それらが絡み合っていき
ほどけあっていく様を描いた作品だと思う。
主人公は六歳の時から結核を患い十八年間も療養所生活を続けた
二十四歳の女性。
彼女の結核はある出来事をきっかけとして
奇跡的に回復し退院する。
十八年間も闘病生活を続けてきた彼女は
その十八年を取り戻そうとし
「世間知らず」を解消しようとするが、
病院の中という濃縮された社会で
人間というものの裏表を見て育った彼女は
精神的に大人すぎるくらいもうすっかり大人だったのだ。
彼女が出会う人々を通じて彼女のいろいろな感情の芽生えや
それに伴う変化、反対に彼女と知り合うことで周囲が受けた影響が
そこには描かれている。
最初は消極的で欲しいものを自ら欲しいと言えないような
彼女だが、世間というものを知り人間関係の中で
急激に逞しくしたたかな女性になっていく。
それは決して悪いことではなく、
生きていくために当たり前のことなのだが…
この物語はあえて最後をハッピーエンド、アンハッピーエンドで
締めくくっておらずその後の事は読者それぞれの想像に
ゆだねられているのだと思うので
この話の続きをあなたなりに想像してみてはいかがですか? -
この本を読んだ後すぐ、「深夜特急」を読んだので、
ポルトガルまで行ってしまいました。
10年以上前ですが・・・。
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宮本輝の作品
