晩年の子供 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
3.61
  • (172)
  • (199)
  • (454)
  • (18)
  • (4)
本棚登録 : 2112
感想 : 197
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (222ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061858299

作品紹介・あらすじ

メロンの温室、煙草の畑、広がるれんげ草の群れ。香り高い茶畑、墓場に向かう葬列、立ち並ぶ霜柱など。学校までの道のりに私が見た自然も人間もあまりにも印象的であった。心を痛めることも、喜びをわかち合あことも、予期しない時に体験してしまうのを、私はその頃知った。永遠の少女詠美の愛のグラフィティ。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • すっごく好き。軽々しく感想を書きたくないくらい。自分の人生のどこかに、登場する主人公のような気持ちになった瞬間があったような気がする。子どもはまだそれを表す言葉を知らなかったとしても、子どもなりに色々感じ、考えている。そんな儚い瞬間をこんな風に表現し、物語にするなんて凄まじい才能。
    子どもの頃は夢と現実の境が曖昧だったり、些細な出来事が大きな勘違いに発展したりもするんだけれど、それを「馬鹿らしい」とか一蹴するんじゃなくて、『堤防』に出てくる父や『桔梗』の美代さんのように、敬意を持って対等な目線で向き合える大人になりたいと思った。何度も読み返したい一冊。

  • 「晩年の子供」山田詠美◆狂犬病で死ぬまでの半年間、小川を流れていった桔梗の花、家に帰れない夕暮れ…天真爛漫無邪気ばかりが子供じゃない。大人から見ればくだらなくても、子供は子供の世界で、視点で、全力で絶望し、悟り、残酷さを発揮する。この感覚を大人になってから書ける山田さんはすごい。

  • 最初の前半だけの感想。


    【晩年の子供】
    主人公の私が可愛すぎる。撫でてあげたくなるぐらい、純粋で可愛い。人って変われるって改めて思えた。生死観って、人それぞれあるよね〜。生きるより、死ぬことにフォーカスを当てて生きる。っていう考えは私にはなかった。それも大切なのかもしれない。

    【堤防】
    堤防好き〜!運命に則ってふわふわ生きる運命論者の主人公。友達の自殺未遂によって、人生観が変わる。友達の京子がいい奴なんだよ〜。家庭を持つ男との間に、子どもを身篭るんだけど、妊娠しちゃったのにタバコ吸っちゃってるところも好きだよ〜!産めない、悲壮感が滲み出てて、いい。
    主人公の運命と、人生に対しての考えが素敵だった。運命論も悪くないね笑

    【花火】
    お姉ちゃんが色気ムンムンでかっこいい。私もこんな大人になれるかな〜。恋に落ちるって本当に人を輝かせるよね。キラキラしてる。結局、否定し続けた妹もお姉ちゃんが言う恋に落ちるの意味が分かったのかもしれないね。大人の女万歳。余裕がある女万歳!!!!

    【桔梗】
    儚い物語だった。美しいものは儚いね。色と自然がマッチしてて、綺麗だった。美代さんを女として憧れを持つ私。
    写し絵を貼る美代さん。最後の足掻きだったのかな。
    私がいた証を…って。忘れないでねって。消えないでねって。決して美しい恋じゃないし、美しい終わり方ではないけれど私からしたらそんなの関係なくて。美代さんっていう存在に惚れてしまったんだよね。
    桔梗の花言葉:「永遠の愛」「変わらぬ愛」「気品」「誠実」

    【海の方の子】
    転校が多い私は、周りから嫌われないように必死で、偽善者のような子だった。でもわかる。私も、高校生の時そうだった。それが大人、大人の対応だと思ってた。哲夫みたいにストレートに自分の考えをしっかり持ってて、人に言い切れるのは強いよね。自分自身をしっかり受け入れてる。そりゃ、惹かれるよ。だって、気を遣わなくていいんだもん。泣いてもいいんだもん。最終的には、私は転校しちゃう。けど哲夫とはまた会えそうな気がする。最後も良かった。哲夫は塩味が好きなんだよね。

    【迷子】
    これまた、いい話。この話を読む前に真梨幸子の本を読んだから、まさか…って思ったけどちゃんと最後、ほっこりできてよかった笑隣のお家のことなんて、知ったこっちゃないけど、知ってしまったら、疑問に感じてしまったら、やっぱり気になるよね。特に思春期の女性なら。

    【蝉】
    やらしいね。夏も蝉も、父も母も男も女も。
    みんな、やらしい。夏は人をおかしくさせるんだよ。蝉の鳴き声に惑わされて隙を与えてしまうんだよ。自分を見つめてしまう隙を。私も、小学校の時、ゴスペルの体験に行ったことがあったけど、夜の町田はすごく嫌いだった。気持ち悪かった。薄着な男と女がねっとりとした夜に捕まっているような。

  • 普通夏と言われると明るく爽やかなイメージを抱きがちだけど、この本は夏の気だるい部分とかなぜか秋とか冬よりも少し寂しくなる雰囲気とか存分に感じた。死とか性っていう人間が抗うにはあまりにも漠然としてて当たり前で遠いことが少し斜めから切り取られててすき。夏休みもう一回読みたいー

  • 「ひよこの眼」が教科書に掲載される国語教育の豊かさ。誰もが子供の頃に経験する「私だけが分かっている、私には事の裏側が分かる」という優越の愚。夏のどうしようもなさ。

  • 完璧な短編集。どの話も忘れることのできない衝撃な内容になっている。子供の頃の夏休みは特別だったことを、ぼんやりと思い出させてくれる。
    私自身はこんなに晩年の子供ではなかった。
    でもなんとなくだけど、色々なことを、こうやって考えたことがあったんじゃないかな?
    子供の頃の夏を想うと、懐かしくて胸が痛む。でも心地良い痛み。こうやって当時の夏を慈しめるのも大人の醍醐味なんだなあ。

  • 内容は作り物にしても、その中で情緒をこれほど豊かに表現できる著者の表現力に対して、惹かれた。幼い頃の情緒は、それが何ものなのかをまだ知らず表現も出来ない内に時間の経過を経て簡単に流れてしまう。大人になってからは意識したって立ち止まることさえできない類のもの。しかしそれは大人にとっては小さいが、子どもにとっては重大なもの。
    この本ではそれを文章で的確に表現しており、更に著者の高い感受性でより広げられていると感じた。子どもの目線ではあるが経験豊富な死に面したご老人の思考も感じさせる文章に、少し混乱させられる。

  • なんと評価したらよいか。
    いろんな場面で衝撃的な小説。
    少女から見た男と女の世界、死に対する思い、客観的に見る自分。
    その時代の少女時代の山田詠美の感性は、通常の人の何十倍も研ぎ澄まされていた。
    普通では見過し忘れていくものまでもが記憶されていた。
    全ての短編が心に残るが、「花火」は、特に記憶に残る物語。
    二十八で人を本当に愛し、終わりがこないように演技する、女としての能力(感性)。女性の謎。

    男と女、恋、愛、性について山田詠美は書き手として表現している。
    読んでいて飽きない。
    山田詠美、もっと読んでみたい。

    • 9nanokaさん
      素敵なレビューですね。女性と男性は全然違うんだなあと感じました。
      女性が自然と身につけていくようなこと、しかし少女時代には身につけると思い...
      素敵なレビューですね。女性と男性は全然違うんだなあと感じました。
      女性が自然と身につけていくようなこと、しかし少女時代には身につけると思いもしなかったようなことを手に入れる瞬間を描いている感じがします。なので女性からするとちょっと痛くて気まずい感じです。
      読んでくださりありがとうございました(^^)
      2014/08/23
  • 8編の短編小説が収録された『晩年の子供』。表題となっている『晩年の子供』も「そう来たか」ととても面白いのだが、その次にくる『堤防』がイチオシ!

    【『堤防』の冒頭】
    「私は、自力で何かをするという才能に恵まれていない。それが私の劣等感を形作っている。そして、私は、その劣等感の存在を認めつつ今日まで来てしまった。」

    ↑上記から始まる物語は、読者の予想として自己評価の低い冴えない子の話なのかなと思うのだが、そうではない。“なにものにも囚われていない少女”なのである。そして彼女は運命論者。何でも運命と捉えて、何かにしがみつくことや焦ることはしない。先生にも逆らうので(本人はそんなつもりはないが結果的にそう見える)、友達からも人気者。冒頭の暗めの入りに対する読者の予想と、実際のキャラクターのギャップが面白いポイント!

    【ここが好き!】
    ①お父さんのセリフ
    P.43「その瞬発力を運命のエネルギーが押し出させると思わないのは、おまえにしちゃ不思議だね」
    ⇨まず高校生の娘が話す運命論を最後まで聞き、自分の意見を返すお父さんの姿勢が素晴らしい!そして、答えを言わずにヒントを言っている気がするところも。教育者として素晴らしいなと思います。

  • 山田詠美の言葉選びは、やはり唯一無二だと感じる。難しい表現や言葉は使っていなくとも、ある「うまく言えない」感情や情景の描写に、惜しげもなく文才を発揮させていると思う。この名詞を、この形容詞とともに、こんなリズムで言い表すのか、と息をのむ瞬間が多かった。

全197件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1959年東京生まれ。85年『ベッドタイムアイズ』で文藝賞受賞。87年『ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー』で直木賞、89年『風葬の教室』で平林たい子文学賞、91年『トラッシュ』で女流文学賞、96年『アニマル・ロジック』で泉鏡花文学賞、2000年『A2Z』で読売文学賞、05年『風味絶佳』で谷崎潤一郎賞、12年『ジェントルマン』で野間文芸賞、16年「生鮮てるてる坊主」で川端康成文学賞を受賞。他の著書『ぼくは勉強ができない』『姫君』『学問』『つみびと』『ファースト クラッシュ』『血も涙もある』他多数。



「2022年 『私のことだま漂流記』 で使われていた紹介文から引用しています。」

山田詠美の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
4U
山田 詠美
吉本ばなな
山田 詠美
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×