スミヤキストQの冒険 (講談社文芸文庫)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (478ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061960060

作品紹介・あらすじ

そこは悪夢の島か、はたまたユートピアか。スミヤキ党員Qが工作のために潜り込んだ孤島の感化院の実態は、じつに常軌を逸したものだった。グロテスクな院長やドクトルに抗して、Qのドン・キホーテ的奮闘が始まる。乾いた風刺と奔放な比喩を駆使して、非日常の世界から日常の非条理を照射する。怖ろしくも愉しい長編小説。

感想・レビュー・書評

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  • 本来なら35年くらい前に読んでても不思議ではない本。
    (読んだ気もしたけど読んでなかった(^^;))

    もっとも、当時読んでも猟奇系サイドカルチャー小説くらいにしか思わなかったかも知れないので、結局本というのは「読んだ時が旬」でいいんじゃろうね。

    1970年の安保闘争の前年、國民(年若い学生が主だったろうが)がまだ政府フザケルナと怒る根性を持っていた頃に書かれた小説。

    スミヤキ党の「密命」を帯びてある島に降り立ち、その島にある「感化院」に潜入したスミヤキストQ、の冒険譚、である。

    密命とは、その島での低層階級である「雑役夫」や「院児」を組織して「院長」ら権力層を殲滅することらしいのだが、Qが自己の劣情や奇怪な登場人物たちに絡め取られ、モタモタしているうちに、却って自身が殲滅されそうになるという話である。

    閉塞状況の中で行き場を失うということではカフカの「城」とか安部公房の「砂の女」などを思い出すが(ちゃんとは思い出せないが(^^;))、あちらの(確か)静謐と諦観の漂っていた世界とは異なって、こちらの世界はエネルギッシュに飛散する言葉の横溢で埋め尽くされている。饒舌なのだ。

    その閉塞状況の中の闘いで描かれるのは、宗教であり、セックスであり、食人であり、差別であり、文学であり、ギャンブルであり、そして(虐げられた者のハケ口としての)革命的思想であり…といった人間の最暗部にうごめくドロドロしたもの、要するに現代社会の似姿なのである。

    その頃…高度成長期の國民の心のありさまを映しとり、当時人気を博した(というより物議を醸した)小説のひとつであろうけれども、社会が本質的に内包する「閉塞状況」を描き出したという点では(舞台設定も登場人物たちの思考も基本的にはピンと来ないが)、今に通じる普遍性は持っているように思われた。

    …なんつーことを考えていたら、他者による評論の形を借りたあとがきで著者に、

    この物語からなんらかの意味を読み取ろうとするのは「旧人類インテリの悪い癖」

    と、バシっと言われてぎゃふんとなるのだが、一方その著者にして、

    本作は「ドン・キホーテ(Don Quixote)」や19世紀ヨーロッパの革命的秘密結社「カルボナーリ(炭焼党)」をモチーフとしている

    とも記述しており、著者自身の風刺精神と問題意識は明確なのである。

  • スミヤキストとは「炭焼き党」から連想される革命を起こすのが目的のある団体から、ある他の団体にスパイ&工作のため派遣された「Q」さんの物語。「Q」とはクエスチョンからきています。

    書かれたのが昭和44年(1969年)ですからなにがなし全共闘が暴れた時代を彷彿させますが、そんなことは今となっては懐かしい昭和の時代の懐古調です。しかし、この小説は歴史的な詮索は関係なく「正義と信じたものを引っ提げて、硬直した集団の中でのひとり活動はコッケイでもあり、勇ましくもあり、果たして本人が信じているものがいいことなのか?とあれやこれや悩むのが人間というものだ、という落ちになるのでしょう。

    とにかくこれぞ文学的だと文学好きが満足する小説でありました。

  • 孤島の感化院に派遣されてきた青年Q。実は彼はスミヤキーを信望するスミヤキ党のスミヤキストで、抑圧された感化院で革命を起こす使命を帯びている。スミヤキストがマルキストのパロディーであることは明白なのだけれど、ここは解説で作者の言うとおり、あれこれ現実世界とのアレゴリーを詮索しないで、単純に、変な環境に放り込まれた主人公の視点でそれらを見分しビックリしているだけでも十分面白く読めました。近親相姦やカニバリズムなどグロテスクな要素も多かったせいか、個人的には家畜人ヤプーあたりの読後感に近かったので、一種のディストピア小説と言えるかもしれません。

    主人公だけれど、結局Q自身はある意味何もしていないに等しい傍観者。頭でっかちで理論武装して色々計画は立てているのだけれど、実際には何一つ行動に移す機会はなく、彼がいてもいなくても、感化院内部は同じ結末を迎えたと思われ。

    終盤でドクトルが指摘するように、Qという人間は「自己破壊」から自分を「守る」ための「装置」としての独自の思考回路を形成していて、実はなんの目的も思想もなく、自己防衛本能のみで生きていけるタイプ。スミヤキズムもそのためのツールのひとつにすぎず、作者の言う通り彼は水車に向かって剣をふりまわすドン・キホーテと同じ。彼が見ている世界と、他の人間たちが見ている世界は決定的に噛み合わず、一方通行のコミュニケーションはもはや妄想の域。ゆえに誰もQを傷つけることも殺すこともできない。

    そもそも、感化院の院児のみならず、Qのような練師(教師)たちのほうが、精神病院に送り込まれた入院患者だったのではないかという疑惑も否めません。そしてドン・キホーテ的堅牢な妄想の城で自己防衛する能力を持つQのみが、生きてそこを出ていったのでした。

  • ある意味ダークホラー、暗黒小説。グロテスクな世界観が圧倒的な筆力で描かれていて、読み切るまで陰鬱な気持ちになりました。ドグラマグラより精神蝕まれる作品じゃないかと思いました。設定されている世界観や話の構成がパーフェクトなので、なんとか最後まで読みましたが、かなりキツかったです。好きな人にはハマる小説かもしれませんが、私は☆3つの評価が最高得点です。

  • なんじゃこりゃ。面白すぎるぞ。宗教も唯物論もニヒルに嘲笑ってる。恥辱と嘔吐にまみれた滑稽でラディカルな冒険譚。筆者の描写する虚構の世界は予測不可能な憧憬だ。またしてもその毒にやられてしまった。

  • 主人公が超のつくポジティブ至高。
    それか単にマゾヒストなのか。
    結構グロいけどどことなく笑えて楽しかった。

  • これは革命党派の活動を皮肉たっぷりに戯画的に描いた作品。作者あとがきでさらっとそのことを否定はしてあるけど。
    現実の革命党の活動との対比などとは無関係に純粋に小説として楽しんでも勿論面白いが、やはり某政治思想との関係において読んでいくと更に面白い。
    作者自身が語っている通り、これは「アマノン国往還記」などと同じく、異世界に行った主人公が不思議体験をするという体裁の物語で、現実世界の某かをちょっと変質させて描いているところが何とも面白い。アマノン国同様に「それを風刺の対象にしちゃまずいだろ」というものを大胆に戯画化している。
    「パルタイ」などを読めば、この人が革命党派の思想と行動を斜めに見ているのがわかると思うが、この小説では更におしすすめている。
    今時の人には何をどう戯画化しているのかもわからないかもしれないが・・・。

  • 『聖少女』、『暗い旅』と来て、『人間のない神』の次にこの一冊。あんまり難しいことを考えずに読みたいが…。この後は『夢の浮橋』、『アマノン国往還記』の予定。今年はしばらく倉橋由美子祭りでいきます。

  • なんなのだろう・・・・、途中のカタカナ文のところで頭おかしくなるーーー!!
    ぎゃー!!ってなりました。
    ほんとに。

    ヘンテコな話です。

    食人文化の話が怖かった。

  • 作者初期の代表的長篇。
    グロテスクな内容なので、繊細な方にはお薦めできない……かな。
    読者としては主人公であるQに感情移入するしかないんだけど、
    読み進むうち、決して彼が善で
    対する院長らが悪ってわけでもない気がしてきます。
    なんかどうでもよくなっちゃうっていうか(笑)。
    作者の狙いもそこら辺の「相対化」にあったのでは。

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著者プロフィール

1935年高知県生まれ。大学在学中に『パルタイ』でデビュー、翌年女流文学賞を受賞。62年田村俊子賞、78年に 『アマノン国往還記』で泉鏡花文学賞を受賞。2005年6月逝去。

「2012年 『完本 酔郷譚』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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