暗室 (講談社文芸文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (310ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061960176

作品紹介・あらすじ

屋根裏部屋に隠されて暮す兄妹、腹を上にして池の底に横たわる150匹のメダカ-脈絡なく繋げられた不気味な挿話から、作家中田と女たちとの危うい日常生活が鮮明に浮かび上る。性の様々な構図と官能の世界を描いて、性の本質を徹底的に解剖し、深層の孤独を抽出した吉行文学の真骨頂。「暗い部屋」の扉の向こうに在るものは…谷崎賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • 自身の華やかなプライベートをも恐らくは文学的咀嚼をしていた、吉行淳之介による“性”の一つのアンサーと解釈した本作。
    一見纏まりの無い掌編の様なエピソード群と、女性との怠惰な交渉に、どこか終焉という単語を思わせる。
    暗室という表題を、はっきり言語化するのは難しいが、一切の説明を省いたこの作品による提示に作者の名声通りの力量を感じる。
    谷崎潤一郎賞を受賞した数々の名作のうち、個人的に特に評価したい一作。

  • 一章一章が掌編小説のようでそれぞれに印象的、全体を通せばひとつの長編小説になっている。
    前時代的な女性観・男性観も、終焉した男の美学として読めば面白い。

  • はじめから、断片的に様々な女との関係を中心としたエピソード群が徐々に、女が様々な形で主人公から離れて行くとともに、暗い部屋に住む女の体に魅了されてくように、エピローグへと導かれて行く。おもしろい作品だった。

  • これまで読んできた吉行淳之介はあと一歩理解が追いつかず、というより読み方を得ていなかったが、今回は素直におもしろいと思えた。読んだときの感触は相変わらず一緒なような気もしたのだけど、これは誰かにすすめたいなあと思える。

    章ごとにはっきりとした繋がりがないところにたまらなく魅力を感じる。とくにある学者の逸話として語られる白痴の子供たちの住む屋根裏の話は物語といちばん関係ないようで、いちばん核みたいなものに僕を近づけてくれた気がする。

    「最初無関係に散乱していたように見えたモザイクの一つ一つが、すべて、ある秩序にしたがって配列されているのだと諒解されてくるのである。」という解説の川村二郎の文章がしっくりとくる。

    吉行淳之介の眼を通した性をこれからも読んでいきたい。

  • 全ての女性を性的目線で淡々と舐め回す、独特の女性考察、分析?も中々なんだけど、何が気持ち悪いって死んだ妻と関係していたという男とよく繋がっていられるなあ…ていう お前らなんなの
    ビアンの子が言うセックスが「男とは全然違うの」っていうのが印象的だった。

  • 以前から読みたかった本だったが、今回、著者の写真が掲載されたカバーに新装されていたので、やっぱりかっこいいな、と思い購入。

    裏表紙に書いてある、屋根裏に閉じこもる兄妹、大量に死んだメダカの挿話も特徴的だが、それだけ聞くと内容の想像がつきにくい。特に序盤は、脈絡がなさそうな感じで、様々な挿話が断片的に提示される。だが、実際には、一貫して女性、性について描かれていて、意識的に構成されているのではないかと思う。

    主な話の筋は、語り手の中田と津野木、中田の死んだ(事故死か自殺かはわからない)妻を巡る話。同性愛者のマキとの話。それから、天才の家系に生まれる知的に障害のある子の挿話。山陰で出会った孤児。彼らの生まれてきた理由は?それから、多加子、由美子、夏枝との関係。

    中田は妻と津野木の間に何かあったのではと勘ぐっており、中絶させた子もどちらの子だったのか…という疑いも持っている。作中はさらりと描かれていたが、もしかすると中田が子を作らず複数の女性と体の関係のみ持ち続けるのはこのためか…とも考えられる。
    マキとの話は、レズビアンの嗜好とはなぜ生じるのか、同性愛者であっても子を成したいと思うのか、あるいはそもそもマキが同性愛者であり得たのか、などという視点。この話と、夏枝との話が分量的にも多く、議論や検討の場面がある。理論的な印象を受ける。
    夏枝との話は、他の女性たちが次々に結婚して中田から離れて行き、最後に彼女が残る。最後の方はやや長すぎるかもしれない。序盤の方がテンポが良く読みやすい。夏枝との間では、SMまがいの行為もするが、結婚を嫌う中田が、彼女に愛着のようなものを感じ出す場面もある。結婚をせず、快楽のみ追求し子も作らない主人公だが、すでに40半ばに達しかけており、私自身読んでいて思っていたのだが、肉体的に衰えていってもその方向性の先に未来はあるのか?と思いたくなる、まさしく暗室に入っていくところで話は終わるわけである。

    性行為が、性的な欲望のためになされる場合と、当然、人間の本能として子どもを産むために行われるはず、という二つの側面について考察するような内容。避妊具をつけない方が快楽が大きいのでそうするとか、子供ができて引っ張り出してもらうのが好きとか、生々しい表現もあったが、書き振りとしては終始淡々としており、無論単なる官能小説に堕している訳ではなく、冷静に考えさせられる内容だった。同性愛者の結婚についてなど、今日の状況にも不思議に適合しているようにも思う。
    ただ、女性蔑視とか、男性目線での小説に過ぎないとか、そういった批判はあり得るだろうと思う。女性の読者ならどう思うのか?

  • <単行本で読了>

  • 初・吉行淳之介。女の身体に溺れる中年の話。といってしまっては身も蓋もないけど。いろんな女を侍らしていたのにひとり、またひとりと去っていき最後に残った女に溺れていくのはある意味滑稽。

  • 女の躯に溺れる小説家の話。躯に溺れる経験とかないから、どんな感じなんだろう、そしてよく飽きないなと思う。

  • 言ってしまえば近代文学にありがちなクソ男が妙に股の緩い女たちと何故か溢れる色気で爛れた生活を送りまくる話。時折入る挿話は綺麗だけどさほど印象的だとは感じなかったのは色鮮やかではなかったからかな。鬱屈とした感覚がずっと続いて漆黒の沼にどぼんと飲み込まれるような本だった。ラストの運びがある意味救いを感じて好き。

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著者プロフィール

大正十三年(一九二四)、岡山市に生まれ、二歳のとき東京に移る。麻布中学から旧制静岡高校に入学。昭和十九年(一九四四)九月、岡山連隊に入営するが気管支喘息のため四日で帰郷。二十年東大英文科に入学。大学時代より「新思潮」「世代」等の同人となり小説を書く。大学を中退してしばらく「モダン日本」の記者となる。 二十九年に「驟雨」で第三十一回芥川賞を受賞。四十五年には『暗室』で第六回谷崎潤一郎賞を受賞する。主な作品に『娼婦の部屋』『砂の上の植物群』『星と月は天の穴』『夕暮まで』など。平成六年(一九九四)死去。

「2022年 『ネコ・ロマンチスム』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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