波うつ土地・芻狗 (講談社文芸文庫)

著者 :
制作 : 加藤 典洋 
  • 講談社
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本棚登録 : 55
レビュー : 6
  • Amazon.co.jp ・本 (430ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061960213

感想・レビュー・書評

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  • 個人的には「坂の上の闇」が最も面白かった。主人公福間一紀の心理分析や心境変化を極力排し狂気性を持った異行動の描写により読者へそら寒さを感じさせることに成功している。一転して福間大夫との関係性は、おそらく男色による性の抑制による暴発と過去そして先々に渡る精神的軟禁を思わせ、それらの事実を語ることなく読者へ訴えかける手法は見事だ。この作品があまり話題に上ることがないのが不思議なくらい出来がよい。

    次点で「芻狗(すうく)」。「芻狗」とは神前に供える藁細工の犬のことであるが、顔のない「わたし」が人身御供として淡々と男性と性行為を重ねる姿は性を軽んじることで生を虚無化しているように映る。ラストの遊園地は日常と非日常そして「わたし」の異常性が顕著に表現されておりとてもシュールなシーンだ。

    ・・・と称賛コメントを書いたが、「波うつ土地」ほか作品は、文学作品としての質の高さはわかるものの個人的にはあまり面白くなかった。小説には個々人の好みがあるが、富岡氏の作品はこれ限りになりそうだ。

  • この作品の主人公はとても頭のいい方で、この人に比べたらたいていの男は頭が悪いってことになってしまうと思います。しかし、「カツミさん」だって女慣れしてないだけで、別に馬鹿ではないとも思います。本物の馬鹿男だったら、本作の主人公は耐えかねて逃げだしてしまうか、最初から鼻もひっかけないかどちらかではないかと。

    どうやら主人公は、男性一般を軽蔑するためにわざわざ関係を持っているようです。その辺の心理は私にはちょっと理解できないのですが。最後まで読むと、カツミさんにたいしてなにがしかの愛情をお持ちのようで、業の深さを感じます。

    自殺なさった年下の友人は、本当はカツミさんとか子供とかでなくって、主人公そのひとがターゲットではないかと感じます。自殺されたのも、カツミさんだけが原因ではないのではないかと。

    あと女性作家らしく、周辺描写がアメーバのように増殖していって、やや息苦しさを感じなくもないです。

  • 世界は言葉で出来ている、と改めて思い知る神経質な視線。日常や雑談といった擬制を、言葉から解体していく。この世界では言葉を操るものだけが知的であり、言葉に操られるものの愚かさが露骨に描写される。肉体的なメロドラマチックな筋書きが笑える。

  • 遺跡発掘と宅地醸成が同時に行なわれる新興住宅地。そこに生まれる新種の女達。彼女らがどんなに《言葉》の武器で武装し戦いを挑んでも、健康で鈍感な厚い脂肪に象徴される厚顔無恥な大男には太刀打ちできない。何度斬り込んでも、まるで脂ぎった皮膚に掛る水の如し。虚しく弾かれ傷を負うのはこちら。ブルドーザーで削られ均される波打つ土地でも、大男カツミは《北斎の波》が描くシブキの弧の中に富士のようにそそり立つ。フラジャイルな女達は打ちのめされ、討死していくしかない。

    『芻狗』鶴見俊輔との対談で、同世代以上の男たちを挑発するつもりで書いたというのが興味深くて。 でも、どうかな…ターゲットの彼らは嫌な夢を見たくらいに思って意識から抹殺するだけの気がする。 『箱根』『環の世界』同じ日本語を話していても意思疎通が成り立たないのは不愉快や怒りを通り越して不気味だ。ホラー以上に怖い。背筋が凍った。

  • 尋常じゃない名作。

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