悲しいだけ・欣求浄土 (講談社文芸文庫)

著者 : 藤枝静男
制作 : 川西 政明 
  • 講談社 (1988年12月5日発売)
3.64
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  • Amazon.co.jp ・本 (344ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061960336

作品紹介

緊張した透明度の高い硬質な文体。鋭角的に切り抉られた精神の軌跡。人間の底深い生の根源を鋭く問い続ける藤枝静男の名篇「欣求浄土」「一家団欒」を含む『欣求浄土』、藤枝文学の"極北"と称讃された感動の名作、野間文芸賞受賞の『悲しいだけ』を併録。

悲しいだけ・欣求浄土 (講談社文芸文庫)の感想・レビュー・書評

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  • 「欣求浄土」パートは著作集で既読なので「悲しいだけ」パートのみ読んだ。

    奥様が亡くなってさらに重たい石を飲みこんだような静男。自己嫌悪や苦しさのタガが外れてしまったようで、狂気すれすれの物凄まじさを感じた。孫もいるご隠居の身分で、飼っている動物や庭木にかかった鳥の巣を眺める暮らしで、どうしてあんな風に自分を苛み続けられるのか。

    その一方で、実家のお墓を帰っていくべき場所と思えるところは奇妙にうらやましい。家族へのあの全幅の信頼って、どうしたら作れたんだろう。家族には裏切られないって深く信じているから、その分自分のことをいじめることができたのかもしれない。

  •  なぜ自分が生きているのかわからないと途方に暮れて、この地球で生きることに適応出来ていないはずの自分が、どういうわけか長い時間にわたって生命を永らえてしまったことに得心がいかないまま、その思いを書き連ねていく――という、作者の名作短篇集。

     作者は、終焉としての死に強く惹きつけられる一方で、ダイナミックな生命感の横溢する自然や動物や人間の営みを、見るに堪えない毒々しいものと看取する(その象徴が、「アメリカ」という記号であり、古代中国文明の青銅器である)。だが、そのわりには、かれは元気なのである。山をずんずん登り、遺跡や古刹をせかせかと巡り、年齢にそぐわない大量の食事をどんどん口の中に入れていく。まるで作者は、自分の思いとして語っていることと、自分が現に行っていることとの間に距離があることをよく自覚しながら、その距離の感覚自体を長い間感じ続けているがゆえに、ある種の諦念に達してしまったかのようでもある。

  • 「一家団欒」「悲しいだけ」が一番すき。欣求浄土の方はまだ若干自嘲気味というか、笑えるところもあったけど(ポルノ映画のくだりとかとにかくスケベなことばっか考えてるのとか)、悲しいだけはマジで悲しいだけだな…
    一見だらりとした文章かと思いきや無駄がなく整っている感じ、清潔な古民家みたい。
    年老いて死が見えてくる様子を、だんだんふわふわしてくる、みたいに言っていたのがめちゃくちゃ印象的だった。その感じ私知ってる、と思った。積極的選択ではないけれどじわじわと死んでゆく感じ、今まで言語化できなかったけど確かにこれなんだよな。
    藤枝静男、『田紳有楽・空気頭』しか読んでないのだけれどなんだかよく分からないのに惹きつけられる作家、他のも読む。

  • 「一家団欒」という短編がどこかで薦められていたため読んでみた。
    「欣求浄土」はいくつかの短編から成り立っているが、それぞれの話は当初はまとめられる予定はなかったとのこと。
    冷静さを保った文章ながらも、内容はまさに私小説といった具合だし、主人公・章は素朴な印象の男だが、特別意識を持ち、どこかお高く止まっている。
    それが章の死の間際になって、友人の「あいつのああいう自惚れたところが鼻につく」という独白により、急に緊張の糸が緩み始め、最後の「一家団欒」ですべてが溶けて流れ出すような感覚に陥る。
    それまでの話からのギャップで、余計に「一家団欒」が際立つ。闇の中にぼうっと照らされる祭の灯のよう。死後の章たち一家が向かう祭そのもの。

    「悲しいだけ」では、老人の晩年の心理や凄みを味わった。
    美術鑑賞によって主人公の心が和んだりかき乱されたりする描写が見事。
    私小説の成功例だなと感じた。

  • 「一家団欒」は別のアンソロジーで読んだことがあったのだけれど、収録作の中ではやはりこれがダントツで好き。作者の分身であるところの「章」を主人公として、「欣求浄土」から一応連作短編のような形はとっているけれど、実際には発表年月日はバラバラで(最初に書かれたのが「一家団欒」だというのは驚き)、それを発表順ではなく物語のなかの時系列で収録してあるので親切。

    生きてる頃の章自身の回想は普通の私小説風なのだけれど、「厭離穢土」でとうとう他界した章が残した手記を読む友人視点になって、ラストが死後の「一家団欒」という急展開ぶりがなんだか面白い。しれっと死んで、生前と死後のテンションにあまり違いがないというか、その移行のスムーズさがいっそファンタジーなのだけれど、少し救われる。「欣求浄土」の、お父さんが狐に化かされるエピソードも妙に好きだった。

    「悲しいだけ」連作のほうは、妻の死の前後の身辺雑記風。基本的にそれが「章」でも作者自身でも、古木や仏像や陶器や滝やらを見に出かけたり、庭の生き物を観察したりしているだけなのだけれど、それで読むほうが別に退屈もしないのはやっぱりすごい気がする。こういうものを二十代の自分が読んでもきっとさっぱり面白くなかっただろうけど、今だから面白く読めるのだろうなあ。これからこれを書いた頃の作者の年齢にどんどん近づいていくにつれ、きっともっと共感できるようになっていくのかも。

    ※収録作品
    「欣求浄土」「土中の庭」「沼と洞穴」「木と虫と山」「天女御座」「厭離穢土」「一家団欒」
    「滝とビンズル」「在らざるにあらず」「出てこい」「雛祭り」「悲しいだけ」「庭の生きものたち」「雉鳩帰る」「半僧坊」

  • 悲しいだけはやや平淡。欣求浄土は殴られたような衝撃を受けた。

  • 自分にはこの手の小説がわからなくて、挫折してしまった。

  • 息をひそめて、自分の呼吸音に耳を澄ます。静かに人生を見つめるとこうなるのかな、と思わせられた作品群。

  • じわじわ

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