桜の森の満開の下 (講談社文芸文庫)

著者 :
  • 講談社
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本棚登録 : 1974
感想 : 227
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  • Amazon.co.jp ・本 (454ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061960428

作品紹介・あらすじ

なぜ、それが"物語・歴史"だったのだろうか-。おのれの胸にある磊塊を、全き孤独の奥底で果然と破砕し、みずからがみずから火をおこし、みずからの光を掲げる。人生的・文学的苦闘の中から、凛然として屹立する、"大いなる野性"坂口安吾の"物語・歴史小説世界"。

感想・レビュー・書評

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  • 坂口安吾を一冊通して読むのは初めて。十月桜が咲いている今日この頃、有名な表題作が気になっていたところ、たまたま書店で面だしされていたので読んでみようかなと。

    驚いたのが、著者は歴史小説を書いていたんですね。知らなかったです。
    『二流の人』では、大河ドラマの黒田官兵衛のシーンが脳裏に浮かびましたが、小西行長に関しては、日本の会社の駄目な部分の走りを感じました。話しは時間軸が前後しながらも、内容が破綻せずに無理なく読み進められます。『梟雄(きょうゆう)』は、斎藤道三の一代記が書かれており、最後の描写には男気を感じますね。

    さて、表題作ですが、女性の残酷な行動が、なんともまあ…。ともあれ、不器用で一途な山賊の心境が、その女性との出会い以後に変化して行く様が読みどころかな。例えば、女性の装身具から物の中にも命を見い出したり、都に出て世の中の世知辛さを知り、そして山へと戻る途中の馴れ初めの会話から、お互いが人間らしさを取り戻した後で印象的な終局を迎えます。このラストの描かれ方が、男と女で違うところが良かった。もし、ここの描かれ方が男女一緒であったなら、ただ残酷なだけの小説に終わってしまったでしょうね。

    あと『夜長姫と耳男』も強烈な印象を残すストーリー。途中、村人が次々に亡くなるのを姫が見て言う一言は、地獄少女のセリフ「いっぺん、◯んでみる?」に並ぶ強烈な一言!まるで、姫の恍惚とした表情が目に浮かぶようです。そして、ラストの姫のセリフは「喧嘩するほど仲がいい」に通じることを、一線を越えてしまう選択をしてしまうところが、この小説がこうなるべくしてこうなったのだなと、妙に納得がゆくのでした。

    他にも『閑山』や『紫大納言』のような寓意に長けた短篇や、逆道場破りの歴史・剣豪小説『花咲ける石』など、収録されている13篇は貴重な読書体験になりました。

  • [桜の森…]桜は本来は畏怖の対象だったというグッとくる書き出し。美しさの中にグロテスクが内包された幻想的な怪奇小説。亭主を殺された美女は、殺した山賊を尻に敷き山賊の女を殺させる。都へ移り山に戻り桜の森で鬼となり桜となる。なんとも身勝手な女と欲のままに生きた山賊。なのにどうして儚い物語になるのか。ただ或る桜の森に対して得体の知れない恐怖と耽美を感じる不朽の名作。
    [夜長姫…]「好きな物は呪うか殺すか争うかしなければならないのよ。… いま私を殺したように立派な仕事をして・・・」この一文が全て。恐ろしい小説。

  • 寓話物なら表題作の「桜の森の満開の下」よりも「夜長姫と耳男」の方が断然良かった。設定もセリフも気迫が満ちていて読んでいて心地よい。

    「好きなものは咒うか殺すか争うかしなければならないのよ。お前のミロクがダメなのもそのせいだし、お前のバケモノがすばらしいのもそのためなのよ。いつも天井に蛇を吊して、いま私を殺したように立派な仕事をして・・・」
     
    歴史物なら「二流の人」という黒田如水の話が良かった。上杉謙信→直江兼続→真田幸村の系統が「横からとびだしてピンタをくらわせてやろう」という「風流人で、通人で、その上戦争狂」という分類がなるほど。これも主題とは関係ないが、豊臣秀吉が甥の秀次を殺して自分も死ぬまでの狂って堕ちていく描き方が迫力があった。

  • 初めてこの作品を読了し、最近の漠然と感じでいた自分の不安、悩みが揺さぶられたような気がした。今まで読んだ作品の中でもとりわけ強い印象とともに記憶に残った作品であった。桜が美しいものだと言う固定概念を覆し、恐ろしいものというのを前提に物語が進められていく。そして登場人物である山賊は自分の中の気持ちも上手く理解できず言葉にできない場面も多くある。それが女に出会うことによって知り得ない感情に出会うという状況を自然に作り出していて山賊が極悪ではあるもののスッと感情移入することができた。そして山賊は女を見た時、その美しさに桜を連想させています。さらに、女を介して都という場所に出会うことで自分の知らない世界があることへの羞恥が男の新たな側面としてあらわれた。私はこの男の抽象的であるが細やかな心境の変化が一貫してあることで非道なだけでない、より人間味あふれる人物として浮かび上がっていると感じた。そこから女の手となり足となりさまざまな願望に応えていくのだが、次第に女の要求はエスカレートする。多くの首を要求する女は狂気であるが、殺す行為を行なってきた山賊にはそこは問題ではなかった。際限ないから、退屈であるから山に戻りたいという願望が山賊に浮かんだ。想像と反して自身もついていくという女のセリフに幸福感に満ちた様子で山へ帰っていく。その幸福感から満開の桜に足を踏み入れても大丈夫だと思い進めば、女を老婆だと思い絞め殺してしまう。この一連の話からひしひしと伝わってくるのは人間とは切っても切れない孤独そのものだった。私はこの作品を進める中で感情を揺さぶられている原因がわかった気がした。そこはかとなく恐れていた孤独への感情だ。作中で、首を絞め殺してしまった後に亡くなったこを確認し女を抱き抱えて泣くシーンがある。恐ろしくも幻想的な桜の木の下で、耐えきれぬような真の孤独に出会ってしまった悲しみが大きく私に押し寄せてきた。7人の妻が居た時も、女が居た時も遭遇したことのない状況である中、感情の理解に乏しくもあった山賊が咽び泣く情景には感じ入るものがあった。一連の話でラストには、鮮やかな桜の色が脳裏をよぎり静謐さと孤独な静けさが覆うなんとも幻想的であり不気味な感覚を味わうことができた。映像のような美しさすら感じた。女のグロテスクな狂気さと桜の美しさが強く対比されたことも印象的であった。今後、何度も読み返してしまう作品となりそうだ。

  • 花といえば奈良時代は梅だが、平安以降は桜がクローズアップされる。「世の中にたえて桜のなかりせば春の心はのどけからまし」在原業平は不安に駆られるほどの桜の美しさと恋心を重ねて、あんなもんなければのどかな心でいられるのに、と詠んだ。桜は狂気を呼び込む。坂口安吾の「桜の森の満開の下」は美しく残酷な女に翻弄される山賊の話だ。金品同様攫った女を自分のものにするしかない山賊の暮らし。山賊が魅せられた女は人間の生首を集めて並べたがる。満開の時に通ると気が狂うと言われる桜の森で、男は鬼女になったその女を斬り殺す。すると女は花びらと共に風に飛ばされ消えて行ったという狂気と幻想の話だ。花吹雪の中、立ち尽くす男に残されたのは永遠の孤独と狂いそうなまでの虚無。
    子供の頃はお彼岸の墓参りついでに墓地で親戚と一緒にお花見したものだ。墓地には必ず桜が咲いている。柳田國男がどこかで書いていたが、桜は人が大勢亡くなった跡に植えられるもので、地名に桜がつく土地は元々死体捨て場だった、と。さくら染は地中にある死体の血を吸い上げてほんのりピンクに染まるという話もある。梶井基次郎は「桜の樹の下には死体が埋まっている」と書いた。そう考えないと不安になると言った。かつての日本人にとってこの感覚は自然だったのだと思う。きれいな薔薇に棘があるように、きれいな桜は死と狂気を招く。死の国と繋がり美しく舞い散る花びらに狂気を感じる。

  • 桜の森の満開の下(講談社文芸文庫)
    著作者:坂口安吾
    発行者:講談社
    タイムライン
    http://booklog.jp/timeline/users/collabo39698
    美的な文章が光る安吾文学の傑作。

  • 安吾は大好きな作家です。十年振りに読み返しましたが、やっぱり今読んでもいいなぁ。文体とか、ほんとに好みなんだなぁ。講談社のこの文庫に収録されているのは逸品揃いで、結局全て再読。『二流の人』エグいエピソードと間のいいカタカナ使いで安吾らしい戦国歴史絵巻。講談を聞いてるみたいで、するする読めて、ワクワクしちゃう。表題作と『夜長姫と耳男』は寓話的ゆえ、ついついこれらの物語が何を意味しているのか、などと分析してしまいそうになるけれど、それはつまらない。もう、そのまま、読むだけ。世界に浸るだけでいたい。

  • 坂口安吾が好きすぎて、冷静に判断できないのだけど
    この短編集はとにかくすべてが美しい。

    安吾らしい冷徹さと温かみの混在した、
    謎めいた、それでいてとことんリアルな世界観。
    表題作はとにかく一読の価値ありです。

  • 桜の花の満開はあまりに美しい。そして、あまりに美しいものには、不気味がある。ふとした瞬間に冷静では居られなくなりそうな何かが。

    「花の下は涯がないからだよ」

    何度も読み返す、大好きな作品。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「冷静では居られなくなりそうな何かが。」
      うんうん、安吾が読みたくなってきた、、、
      「冷静では居られなくなりそうな何かが。」
      うんうん、安吾が読みたくなってきた、、、
      2014/02/26
    • yukopantsさん
      安吾の独特の世界観、良いですよね。
      安吾の独特の世界観、良いですよね。
      2014/03/03
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「安吾の独特の世界観」
      はい心理面で、そうか!と納得するコトが多かったかと、、、
      「安吾の独特の世界観」
      はい心理面で、そうか!と納得するコトが多かったかと、、、
      2014/03/14
  • 気持ち悪さと美しさが交錯していて更に不気味さを引き立たせている

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著者プロフィール

(さかぐち・あんご)1906~1955
新潟県生まれ。東洋大学印度倫理学科卒。1931年、同人誌「言葉」に発表した「風博士」が牧野信一に絶賛され注目を集める。太平洋戦争中は執筆量が減るが、1946年に戦後の世相をシニカルに分析した評論「堕落論」と創作「白痴」を発表、“無頼派作家”として一躍時代の寵児となる。純文学だけでなく『不連続殺人事件』や『明治開化安吾捕物帖』などのミステリーも執筆。信長を近代合理主義者とする嚆矢となった『信長』、伝奇小説としても秀逸な「桜の森の満開の下」、「夜長姫と耳男」など時代・歴史小説の名作も少なくない。

「2022年 『小説集 徳川家康』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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