ガラスの靴・悪い仲間 (講談社文芸文庫)

著者 :
制作 : 加藤 典洋 
  • 講談社
3.34
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本棚登録 : 181
レビュー : 16
  • Amazon.co.jp ・本 (350ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061960534

作品紹介・あらすじ

幼少からの孤立感、"悪い仲間"との交遊、"やましさ"の自覚、父母との"関係"のまぎらわしさ、そして脊椎カリエス。様々な難問のさなかに居ながら、軽妙に立ち上る存在感。精妙な"文体"によって捉えられた、しなやかな魂の世界。出世作「ガラスの靴」をはじめ、芥川賞受賞「悪い仲間」「陰気な愉しみ」ほか初期名品集。

感想・レビュー・書評

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  • 自分は小説を読むのが好きですが、選り好みが激しいです。
    たとえば、戦後の作家ですと、「第一次戦後派」「第二次戦後派」と呼ばれる作家たちは結構つまみ食いしてきましたが、その後に登場した「第三の新人」はほとんど手付かず。
    小島信夫を少し齧ったくらいです。
    第三の新人を飛ばして「内向の世代」は古井由吉さんが大好き。
    大江健三郎以降は割と万遍なく目配りしていて、近年もきっかけがあれば手に取ってきました。
    ただ、文壇で重要な地位を占める作家も含め、取りこぼしがかなり多いです。
    端的に言うと、系統的な読書をしてこなかったということですね(そんな読書は不健全なので向後もするつもりはありませんが)。
    ただ、食わず嫌いは避けたい。
    食指が動けば、いつでも読もうという気持ちはありました。
    で、先年、村上春樹の「若い読者のための短編小説案内」を読み、第三の新人たちの作品の魅力に触れて俄然、興味が沸きました。
    前置きが長くてすみません。
    というわけで、まずは安岡章太郎。
    本書は安岡の初期作品を集めた短編集です。
    初めて読みましたが、今読んでも色褪せない。
    石原慎太郎流に言えば、アクチュアルなものを含んでいるな、と感じました。
    それはどこに依拠するのかと考えて、登場人物ではないかと思いました。
    本書に収録されている作品の主人公は、今で言えば、「負け組」に分類される人たちでしょう。
    しかし、そのことを主人公たちは悲しんでもいなければ、逆に楽しんでいるわけでもない。
    非常にニュートラルに現実を受け入れているのですね。
    その構えが現代的(都会的とも言えるかもしれません)ですし、作品としても間口の広さにつながっていると感じました。
    個人的には安岡の初期の代表作とされ、表題にもなっている「ガラスの靴」や「悪い仲間」も良かったですが、「愛玩」や「剣舞」が気に入りました。
    愛玩で仲買人が兎を始末するシーンは、静かに戦慄したものです(中上健二の作品にもあんな場面があったような…)。
    ちなみに、現在、純文学のジャンルで活躍している作家の多くは、この第三の新人の系譜を好むと好まざるとに関わらず引いているのだとか。
    戦争や天変地異など大状況の変化がない中、文学は洗練へと向かわざるを得ません。
    平凡な日常の中に題材を見つけ、人間の本質に迫る現代作家の作品を随分と読んできましたが、その端緒が安岡ら第三の新人にあるのだと言われれば、なるほどと得心します。
    なお、個人的な見立てでは、東日本大震災後、震災の記憶を携えてものを書き始めた作家は、後年、「震災後派」と呼ばれるようになるのではと見ていますが、今思い浮かぶのは、先年、芥川賞を受賞した沼田真佑さんくらいで、まだ塊とはなっていません。
    もう少し時間がかかるかもしれませんね。

  •  昭和26年から昭和29年(西暦でいえば1951年から1954年)にかけて発表された、全13編からなる初期短編集。
     このうち「陰気な愉しみ」と「悪い仲間」が芥川賞受賞作。
     クセがあるようでないようで、解説にも書かれていたが非常にニュートラルで読みやすい文体を書く人だな、と思う。
     かなり以前の作品であるから、使われている単語や歴史的な背景には古臭いものもあるのだが、その文体だけはとても現代的。
     思うに当時にこの文体を読んだ人は、確かに「モダンな文体だ」と思っただろう。
     殆どの作品の根底に横たわっているのは「自己嫌悪」であり「罪悪感」であり、「自己憐憫」であるように思える。
     脊髄カリエスで苦しんでいる間、ずっと自己を見続けていた結果なのかも知れないが、これらの心理描写が非常にたくみで、まるで目の前に「ほら、こんな感じでしょ」とまざまざと披露されているように思えてくる。
     その都度その都度、点としての心理描写もさることながら、心理の変遷というか、ゆるやかな変化や突然の豹変の様など、まるで読者である自分自身の心理が、作品と同期を取られるが如くコントロールされているように思えてしまう。
     私小説のようでいて、僕が私小説から受ける閉塞感みたいなものはあまりなかったように思う。
     作者自身が解説の中で「実際、小説を書くためにわざわざ架空の自己など設定しなくとも、自己というのはそれ自体が、“架空”と見えるほど奥深いものであって、それを探ることは生じっかな小説を書くことよりもずっと小説的な作業ではないか」と書いているように、そこには作者自身というよりも、もう一つ上のレベルに立った状態で自分自身を見つめたうえでの「自己」を書き写したように感じる。
     だから、そのニュートラルな文体と相まって、息苦しさを感じずに済むように思える。
     いずれにしても、とても面白く読み進めることが出来た。
     名前は以前から知っていたのだが、遅まきながら今回初めて読んだ作家。
     今年の初めに鬼門に入ってしまった作家。
     もっともっと早く読んでおくべきだった作家。
     遅まきでもいいから、他の作品もぜひ読んでみたいと心から思わせてくれる作家。
     そんな作家に出会えたことに感謝している。

  • # ガラスの靴・悪い仲間

    戦前戦後の雰囲気が味わえる。
    今と変わらない人々が暮らしていたんだなあと。
    いい文章。

    ## ガラスの靴
    ファンタジーの時間は終わる。それも外的な力により強制的に。
    シンデレラのガラスの靴のように残されたかのように見えた時間も、あっという間に割れて消える。
    素直に読める。青春。
    戦後すぐの話。

    ## ジングルベル
    父親の就職の世話をする話。
    終戦直後。

    ## 宿題
    小学生時代の思い出。
    夏休みの宿題をやらずに学校に行けなくなる。
    戦前。

    ## 愛玩
    ダメ父親の話。毛を売るためにウサギを飼育するがうまくいかない。
    終戦直後。

    ## 蛾
    耳に蛾が入る。
    戦後かなあ?

    ## ハウス・ガード
    米軍に接収された、ボヤで半分焼けたままの家の住み込み管理人となる。
    終戦直後。

    ## 陰気な愉しみ
    野毛山の役所に戦傷者慰労金をもらいにいく。
    終戦直後。

    ## 悪い仲間
    大学予科に通う少年が友達とささやかな悪行を繰り返すが、こんなことばかりはしていられないと気付き、迷いながらも抜け出す。
    素直に読める。青春。
    開戦直前の話。

    ## 剣舞
    ダメ父親の話。父親にハウス・ガードを紹介するもうまくいかない。
    終戦直後。

    ## 勲章
    終戦直後、勲章と交換に米兵からタバコをもらう。

    ## 築地小田原町
    悪い仲間に似ている。

    ## 吟遊詩人
    メリヤス問屋でろくな働きもしていないが、なぜか社長の親戚と見合いをし、気に入られる。社歌を作った。
    戦後かなあ。

    ## 王様の耳
    自分の内にいる卑怯者は自分だけが知っている。友人を戦地に送り、自分は残る。
    開戦直前。

  • 村上春樹さん推薦だから

  • うらやましい

  • 2013/01/31 【作家の安岡章太郎さんが死去】
    小説「海辺の光景」や「悪い仲間」で、戦後の文壇に新風を吹き込んだ作家の安岡章太郎さんが、今月26日、老衰のため、東京都内の自宅で亡くなりました。92歳でした。

    これまで読んだことがなかったので、読んでみよう!

  • 表題の「ガラスの靴」は著者が若返ったと評される作品だそうです。
    文体は軽妙なのですが、ところどころの話は重い小説集です。
    詳しくは http://d.hatena.ne.jp/ha3kaijohon/20120530/1338344481

  • よくまとまっているし、アメリカやセクシャルなものについての比喩や表現が巧いと思った。

    しかし、そこどまり、というか、それ以上なにか衝撃を受けるようなことはなかった。

    今回、処女作の「ガラスの靴」をはじめ、芥川賞受賞作の「悪い仲間」や「陰気な愉しみ」(このへんのタイトルのセンスはさすが!)を読んだので、次は代表作『海辺の光景』へ。

    ちなみに、村上春樹が『若い読者のための短編小説案内』というものを書いていて、そこで安岡の「ガラスの靴」を中心に取り上げている部分がある。
    ここで村上春樹が指摘している、安岡の比喩についての部分は興味深く、独特な比喩を用いる春樹ならではの感覚も見受けられる。
    また、内部と外部の関係や、中心を避ける書き方についての指摘は、確かに安岡に当てはまるが、と同時に、村上春樹自身にもかなりあてはまる。

    安岡の作品を読んだ後に、上記の春樹の一冊も見ると、より面白いかと。もちろん、ハルキストにも、そうでない人にとっても。

  • 話の筋も表現も「うまいなぁ」と、思った。大衆万人向けだなぁとも思った。生活という現実そのものを感じた。
    そして、そういうまるまる現実そのものみたいな小説って案外ないよなぁと思った。(ただ私がそういうジャンルの小説を読まないだけかも知れないけど。)

    絵でも小説でも美しく描きたくなったり、想像的なモチーフを描きたくなったりしてしまうものだと思うのに、安岡さんの物語にはそれがない。ただ人間が生きている。リアルな人間の生活がありありと在る。

    どの短篇の人間も、流れるまま、主張せず、待ち、決定的な場面を避ける。
    現実を生きる人間というのは、日常というのは、案外そういうものであると思う。

    私が好んで読む本はどちらかというと形而上学的なものが多いから、安岡さんが新しく感じた。
    とくに『宿題』という男の子が主人公となる話は強烈だった。終わり方にゾゾゾとした。
    『陰気な愉しみ』の筋も主人公の感覚もそう描くのかと感心した。『悪い仲間』良かった。

  • 個人個人の、意地・悩みをかいている本。本人は、どうしようもないくらい大きな問題として考えているけど、他人からは(読者の僕)ぜーんぜん、どうでもいい意地・悩みを抱えている。
    けど、これこそ、僕自分自身のテカセ足枷になっている、根本のもののようなきがして、気付きがありました。

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著者プロフィール

安岡章太郎(1920年5月30日~2013年1月26日)小説家。高知県生まれ。1941年慶應義塾大学文学部予科入学、44年に陸軍に応召、満州へ送られるも胸部疾患で現役免除。戦後復学するが、脊椎カリエスを患い、48年英文科を卒業。51年、文壇デビュー作「ガラスの靴」が芥川賞候補となり、吉行淳之介、阿川弘之らとともに「第三の新人」と呼ばれる。53年、「悪い仲間」「陰気な愉しみ」により芥川賞受賞。60年、『海辺の光景』で野間文芸賞、67年、『幕が下りてから』で毎日出版文化賞、74年、『走れトマホーク』で読売文学賞、82年、『流離譚』で日本文学大賞、89年、『僕の昭和史』で二度目の野間文芸賞、91年、「伯父の墓地」で川端康成文学賞、96年、『果てもない道中記』で読売文学賞(随筆・紀行賞)、2000年、『鏡川』で大佛次郎賞等、数々の文学賞を受賞。2001年、文化功労者。

「2018年 『僕の昭和史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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