- Amazon.co.jp ・本 (373ページ)
- / ISBN・EAN: 9784061960640
感想・レビュー・書評
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元サラリーマン、ロジカルで透徹したお堅い文体だがそれがとても良く、労働の観念を主題とした作品群も何気に新鮮。内向の世代に挙げられつつも、彼の表現するイメージは伝わりやすいなと感じた。前のめりに継読。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
企業の中にあって生の感覚を模索すること
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表題作「時間」が、前田愛『文学テクスト入門』のなかで解説されていたので読んでみました。
6人の勤め人の短編小説集ですが、仕事内容に焦点を当てたものではなく、主人公たちは労働のなかで自分自身を見つめ直します。著者が「内向の世代」と言われるのがよくわかる作品です。
しかし、暗い気持ちにはなりません。それは、主人公たちが流れに抗い、生きようしているからだと思います。
流されるほうが生きやすいけれども、解説にあるように「これは何の役にも立たぬものは何の値いもない、と声明する自明事に対して、私は何の役にも立たぬ、そして私は何ものにもまして値いがある(ポール・ヴァレリー「質」)」と気付いてしまったからには、抗ってみるしかないのかもしれません。
ずっしりした重みのある本です。 -
厳密に言えば過去に出版された、角川文庫版を読んだため、収録作が異なっているかもしれない。
「二つの夜」「聖産業週間」「穴と空」「時間」「騎士グーダス」「空砲に弾を」(収録順)計6作。
二つの夜は、会社員の主人公が上司に”ブツ”を探すように命じられるが、そのままブツを探せと言われているため、実態が分からないまま奔走するという話。穴と空は職場の同僚が出社しないことから様子を見に出かけた人もまた翌日には行方が不明になり、その二人を探しに出かけた人もまたどこかへと連鎖が続いていく。上記二作はSF仕様の文学作品と呼ぶのかもしれない。安部公房の様な本格なものでは無く、SFの題材を文学として描いたものと言った趣き。
他四作は、「時間」を除き、労働の営みの虚しさを感じる主人公が自身の内にある何かで埋めようとするような作業的な内容になっているが、どれも違った描かれ方がされ、退屈を感じはするが、ハッとする一行があったり、労働という概念を見つめ通した文学作品として希少価値がある。
「時間」は血のメーデー事件が題材に取られており、その現場で捕まった人とそうでない人との差、本当の意味での自由と拘束の異なった時間の差とはどう違うのかを記している。この作品はゆくゆく発表された『五月巡礼』という長編の原型とされている。 -
働くということはどういうことなのか。