叫び声 (講談社文芸文庫)

著者 :
  • 講談社
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本棚登録 : 439
感想 : 42
  • Amazon.co.jp ・本 (260ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061960718

作品紹介・あらすじ

新しい言葉の創造によって"時代"が鼓舞される作品、そういう作品を発表し続けて来た文学者・大江健三郎の20代後半の代表的長篇傑作『叫び声』。現代を生きる孤独な青春の"夢"と"挫折"を鋭く追求し、普遍の"青春の意味"と"青春の幻影"を描いた秀作。

感想・レビュー・書評

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  • うわぁぁぁーーーーーっ!
    確かに、しっかりと、その「叫び声」を聞いた・・・。

    「人間みなが遅すぎる救助をまちこがれている恐怖の時代には、誰かひとり遥かな救いをもとめて叫び声をあげる時、それを聞く者はみな、その叫び声が自分自身の声でなかったかと、わが耳を疑う」(ジャン=ポール・サルトル)

    生臭さと、鋭利さと、ざらつきが一度に迫ってくるような、そんな小説。
    エロスとグロテスクとタナトスに彩られ、眉をひそめるような嫌な感覚がびしびし伝わってくるのだが、それがまた生々しくて、小説の状況とは裏腹に活き活きとしていて、とても面白かった。青春群像劇特有の疾走感も良かったのかもしれない。

    サルトルの言葉からイマジネーションを受けた大江は、社会から疎外された、僕、呉鷹男、虎の若者3人とダリウス・セルベゾフとの奇妙な同居生活、そして、彼ら共通の夢、レ・ザミ号での航海を目標とするところから端を発して、それぞれが声なき「叫び声」を発するにいたるまでの人間模様を鮮烈に描いている。
    希望を打ち砕かれ、閉塞感が漂いながら、しかし、孤立な生き方しかできない若者たち。社会は決して受け入れてくれず、また、社会に馴染もうとせず、最後の居場所として集った若者たち。若者時代に感じたこうした何かを少しでも思い出せれば、彼らの叫び声はまさに真に迫ってくるものとして感じられるだろう。
    大江の創作した若者たちはかなり極端である。そして、性的な色を放ち過ぎている。しかし、だからこそ僕らは矮小な自分として、こうした感覚が呼び醒まされてくるのだ。

    大江の放つ「言葉」はみずみずしくも研ぎ澄まされている。1960年代という時代に対して、大江自身の「叫び声」として真っ向から対峙し、勝負した作品であったのではないだろうか。

  • 大江健三郎は今のところせいぜい10冊かそこらしか読んでいないけれど、個人的には初期の作品のほうが好きだと思うことが多く、20代で書かれたこれもとても良いと思いました。勝手な印象だけど、大江健三郎はやはり結婚→障がいを持った息子の誕生あたりから、私小説的な方向へ転換した気がするので、それ以前の、純粋に小説っぽい作品のほうが自分の好みには合うのかも。

    筋書きだけ追えば、疑似家族的な絆で結ばれた4人がバラバラになり、逮捕されたり殺されたり殺して死刑になったり結局何も達成されない悲惨な結末をそれぞれ迎える、それだけの話ではあるのだけれど、『叫び声』というタイトルと、いつの時代も、ここではないどこかへ向かいたがる若者の心理、たとえ向かう先が破滅であっても突っ走るしかない疾走感、焦燥感のようなものが胸に迫ります。

  • 芽むしり仔撃ち~性的人間の間くらいの時期、のはず。序盤の陽気さからそれぞれ破滅に向かっていく様子は、若者特有の精神的な危機をなぞるかのよう。大江健三郎を未読の人におすすめしたい。

  • 再読。サルトルの引用文で始まるこの小説、行き場のない青年達の渇望と絶望の犇めきに押し潰されそうだ。ここではないどこかに行きたい。そう、なまじ渇望があるから絶望も比例する。内なる自己の叫び声を聞いてしまった時、最早逃げ場さえも失ってしまう。なんて苦しく悲しい結末。でも私はこの小説が大好きだ。一縷の望みすら断たれ破滅に向かうガラスの心の優しい青年達。叩け、叩き壊してやれ。誰もが健全に前向きに生きられるわけではない。当時の大江の苦しみそのままに生々しい鮮血が行間に滴る。これぞ真正の青春小説。この痛みを忘れるな。

  • 伊坂さんオススメ本。

  • 2021.10.10 読了
    思ったことをつらつらと。
    解説にもあるが、絶望と逃避の成長物語という視点が新鮮な読後感を与えた。
    異端児の青年たちによる退廃の青春からサルトル的な観念を獲得してゆく過程が暗い印象をまといながらも全体を優しく包み込む爽快感を感じた。
    個人的ではあるが、サルトルの「嘔吐」を思い起こさせるような「僕」の観点への成長や、村上龍の「限りなく透明に近いブルー」の如き異端思想青年らの生活ぶりは読んでいてとても親近感が湧いた。
    大江の文体はどこか優しくてなめらかな印象を与える。
    それもあって、隔絶と退廃、絶望と希望を展開する物語を気持ちいいものにまとめあげている。
    腐った懐かしのカルピスソーダは多分こんな味なのだろう。

  • 伊坂幸太郎がこれを読んで作家になろうと決めたと知ってからずっと読みたかったもの。
    青春小説。しかしあれだけ信じていたダリウスが結局のところただのゲイで最終的に主人公を口説いて終わると言うのが青春の終わり、と言う感を表していた。
    友人2人に死なれたが、共感する人がどこにもいないのが切ない。

  • 登場人物の鷹男が生い立ちや夢を主題として持っているように、大江の小説にも現実世界との距離や恐怖、不安といった主題は常にあって、その表現の発露が逐一好きだなと思ってしまう。
    「オナニイの魔宣言」や大学生の女と議論するあたりは笑った。



  • 呉鷹男
    ダリウスセルベゾフ

    自分自身が何者であるのかを確定させようと、自分自身のいるべき場所、あるべき姿になろうと醜いほどにもがく3人。
    いっときはヨットでの旅という共通の目標に自分の居場所、生きる意味を見いだした4人だったがそれが叶わなくなった時、孤独と戦いながらも一人で"自分"を手に入れようとあがき狂う。

    そんな3人の渦の中に迷い込みんだ僕。自分の耳の奥深く谺し続ける痛ましい叫び声に押し潰されそうになるのだった


    他の作品に比べ読みやすかった分、ページをめくる手が止まらなかった。苦しい、のひとことだはすまされない悲痛な感覚に陥った。呉鷹男の話は町田康の告白と少し似ていて、自分が何者かを確定するということが人間にとってどれだけ重要なことなのか思い知った。

  • だれか一人が遥かな救いを求めて叫び声を上げる時、それを聞くものはみな、その叫びが自分自身の声でなかったか、考えたくなるものだ。

    小説の中に描かれた人間模様は、「青春」とか一言で表されるような生易しい様相ではなかった。しかし若者たちの抱える叫び声は、少しずつ自分の中に染み込む気がしたのも事実である。叫びの重なり、とふと思わされた。
    私は。激しさの中に潜む純粋な欲や願望に久しく触れてなかった気がした。マネはできないし、しようとも思わないけれど、生きている上で、この渇望を永久に忘れないことが必要なんじゃないかと思う。

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著者プロフィール

大江健三郎(おおえけんざぶろう)
1935年1月、愛媛県喜多郡内子町(旧大瀬村)に生まれる。東京大学フランス文学科在学中の1957年に「奇妙な仕事」で東大五月祭賞を受賞する。さらに在学中の58年、当時最年少の23歳で「飼育」にて芥川賞、64年『個人的な体験』で新潮文学賞、67年『万延元年のフットボール』で谷崎賞、73年『洪水はわが魂におよび』で野間文芸賞、83年『「雨の木」(レイン・ツリー)を聴く女たち』で読売文学賞、『新しい人よ眼ざめよ』で大佛賞、84年「河馬に噛まれる」で川端賞、90年『人生の親戚』で伊藤整文学賞をそれぞれ受賞。94年には、「詩的な力によって想像的な世界を創りだした。そこでは人生と神話が渾然一体となり、現代の人間の窮状を描いて読者の心をかき乱すような情景が形作られている」という理由でノーベル文学賞を受賞した。

「2019年 『大江健三郎全小説 第13巻』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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