- Amazon.co.jp ・本 (250ページ)
- / ISBN・EAN: 9784061961050
作品紹介・あらすじ
金沢の町の路次にさりげなく家を構えて、心赴くまま名酒に酔い、九谷焼を見、程よい会話の興趣に、精神自由自在となる“至福の時間”の体験を深まりゆく独特の文体で描出した名篇『金沢』。灘の利き酒の名人に誘われて出た酒宴の人々の姿が、40石、70石入り大酒タンクに変わる自由奔放なる想像力溢れる傑作『酒宴』を併録。
感想・レビュー・書評
-
詳細をみるコメント0件をすべて表示
-
うっかり通勤電車で読み始めてしまったのだけれど、すぐに「これ電車で読んだらあかんやつ」認定して部屋読み用に切り替えました。休日の夜にお気に入りの梅酒(いただきものだけど澤乃井の。この本にはワインとか洋酒じゃダメなんだよなあ、でもさすがに日本酒は常備してないし)をチビチビやりながら、読んでる時間がとても幸せでした。
しかしアルコールを摂取せずとも、文章そのものに酩酊してしまう。一見共通点なさそうだけれどリチャード・リンクレイターの映画「ウェイキング・ライフ」を観たときの感覚に近いかも。あちらの酩酊感はドラッグ系でしたが、現実と非現実の境目が曖昧になって、世界の輪郭がぐらぐらと揺れて崩れ出し、なんてことない会話がすべて哲学的に聞こえてきちゃうあの感じ。会話の相手がだんだん人間じゃなく神仙もしくは狐狸の類いに思えてきたり、覚めたらどこから夢だったのかわからないような感覚も。
解説でこれを一種の「ユートピア小説」だと評されていたのも納得です。しかし忍者寺は実在するようなので、いつか行ってみたい(笑) -
主人公が金沢でいろいろな人にあって酒を呑んで酔っ払って…という、たわいもないストーリーなのですが、この文体というか表現がハンパなくすごくて、読んでいてこっちまで酩酊状態になってるかと錯覚するほど。文体が本当に特徴的で、「Aを見てBと感じた」というのを、おおよそ考え得るもっとも湾曲してクネクネした遠回りな方法で表現していて…これが普通ならめんどくさくなったり、読む気がしなくなったりするのですが、逆に不思議と「ん?」と2度読みしてしまう何かがありました。とにかくエラくクネクネしているのにも関わらず、著者の人柄からか、言葉選びからか、爽やかで上品とまでに感じてしまう文体で、さらに読点をあまり用いていないので、読むたびに文をどこで切るかで印象も変わるし…。本当に、日本語で遊び過ぎ! とツッコミたくなる素敵な大人の言葉遊び的な作品でした。
-
幻想小説の最高傑作。
月を観ながら酒を飲んだり、絵の中に入って竹林で酒を飲み交わしたり。
最初は主人公以外の登場人物はなし。やがて幾人か登場してくるが、皆、吉田健一の分身としか思えない。彼らの会話は作家の夢の中に入ったかのよう。
不思議が起こらない現実の方がどうかしている。真実はこちらでなければおかしいと平然と言い放つ。その通りと納得させられる。だから読後、現実の世界に戻るのに苦労する。 -
金沢に行きたくなるというよりは、もっと味わいたくなる。そんな本です。どこでもよいと言いながら金沢でなくてはならないということがよくわかります。
酒宴もまさにお酒の海に漂いたくなるような、ほろ酔いの心地よさが全編に漂う良い作品でした。お酒を飲みながらどうぞ。 -
①文体★★★★★
②読後余韻★★★★★ -
金大生のための読書案内で展示していた図書です。
▼先生の推薦文はこちら
https://library.kanazawa-u.ac.jp/?page_id=18347
▼金沢大学附属図書館の所蔵情報
http://www1.lib.kanazawa-u.ac.jp/recordID/catalog.bib/BN05978216 -
酔っぱらい
-
吉田健一は、「理想」を持つことは、なまける口実を作っているようなもので、持つよりもしたいことをすることに決めた方が早いと考え、一生のうちにいつかはというのでは、無気力にその日その日を送ることになるので理想家を尊い存在と見做していない。『金沢』でも、理想は持つものではなく、気がつけばそこにあるもの、見いだすべきものであると暗に書き示している。本の中を冒険しているとき、頭と眼と手を一致させて心の動きを追っていると、遥か向こうにあるはずのものが、いつの間にかわたしと共にあることに気がつく、これが理想だと知った。