かくれ里 (講談社文芸文庫―現代日本のエッセイ)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (341ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061961227

作品紹介・あらすじ

世を避けて隠れ忍ぶ村里-かくれ里。吉野・葛城・伊賀・越前・滋賀・美濃などの山河風物を訪ね、美と神秘の漲溢した深い木立に分け入り、自然が語りかける言葉を聞き、日本の古い歴史、伝承、習俗を伝える。閑寂な山里、村人たちに守られ続ける美術品との邂逅。能・絵画・陶器等に造詣深い著者が名文で迫る紀行エッセイ。

感想・レビュー・書評

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  • 大体の地理勘がある場所が取り上げられているので、ほぼ風景を思い浮かべながら読むことができた。と言っても、観光としてはまず訪れることのない神社、寺が続々登場する。
    簡潔でありながら対象への愛おしさにあふれる筆致で描かれた、各々の里や祭りのありさまが、懐かしいという感情を呼び起こす。白洲正子がこれらを巡ってから50年以上が経過した。たとえば宇治田原など、まったく様変わりして「かくれ里」の面影はすでに無い。だが、本書を読めば、実際にそこを訪えば、昔とおなじ風景にあえるような錯覚を覚える。

  • &booksで紹介されていたのを見て買ってみた。

    非常に面白い。
    京都、奈良、滋賀などの山奥にあるお寺などを訪ねながらその土地の歴史や伝説を思い起こす。

    なんて博識な人なんだろうと思った。その土地、そのお寺や神社、風習に関する歴史的な出来事が次から次に出てくる。歴史的にはただの事実だと捉えていたことも、白州正子氏の手にかかればドラマチックになり、感情が生まれる。美しい日本語で綴られる文章からは、綺麗な風景やその時代の悲しさまで漂ってくる。
    特に桜についての話が滅法面白い。「桜の寺」に描かれるもう寿命が長くなさそうな桜の木、近江の自然な桜、親子で咲く桜。想像するだけではもったいない。実際に見てみたい気持ちになる。
    そしていろいろなエピソードの中でも特に心を打ったのは「吉野の川上」に出てくる自天王に仕えた筋目の者の話。自天王の人生と、その頃から仕えてた家の子孫が現在でも主人を偲ぶ儀式を行なっている。白州正子氏はその土地の人々の信じる信仰に耳を傾け、歴史書などと異なる話だとしても信仰を信じてみたいという。「◯◯だったかもしれない」という憶測の話が多く出てくるが、想像を掻き立てられて面白い。
    お寺や仏教の話などはわからない所や知らない単語、読めない漢字も多かったが、また新しい世界が開いた気がする。

  • 十年以上前に買ったものを、ようやく読了。
    ただ、通勤電車の中での読書には合ず、文章が頭に入ってこなかった。ゆっくり地図をひろげて、再読したい。
    現在、この本に描かれてる地はどうなってるのだろう?
    まだ歴史が息づき、人々の生活が継承されてるといいのだが。

  • 山奥ではなく、名所旧跡、街道筋から少し離れたところ、そこは新たな幹線道路の建設等でさびれてしまった古い社や寺などが現在する。そんな「かくれ里」を、我が故郷の奈良の吉野、葛城を中心に、伊賀、滋賀の寺社、風物、そこの人びとを訪ね歩く、著者を代表する紀行文とのこと。
    古来よりの伝承、習俗、素朴な美術品から語り明かされる古えの歴史が、著者独特の審美眼と歴史観で蘇る。本書を携えての追体験をしてみたいが、40年以上も前の本、すでに失われてしまった景色も多いのだろうなと、故郷のおおよそ美しくない開発ぶりを見てて思う。

     著者は歴史の専門家ではない。故に考証にはなんの信憑性もないのかもしれないけど、彼女が地元の風習や言い伝えから感じとる歴史は、そこはかとなく温かい。

    「真実以上の真を語るなら、噓から出たまことのみが歴史だと、そう言いきっても過言ではないと思う。」
    「史書にあるからといって、或いは外国の記録にあるからといって、頭から信用する人たちを私はいつも疑問に思っている」

     いいね、こういうスタンス!

     とにかく本書も例によって学ぶべきことが多い。すべてを1度の通読では覚えきれないし、理解が及ばない。また折を見て読み返しつつ、その真髄に触れていきたい。
     今回よかったのは、仏教伝来にまつわる話で、日本の神仏混淆の思想は、仏教を広めるには、日本古来の神の助けを利用したという発想。それを
    「日本の神を経糸に、仏教を横糸にして織りあげたのが、いわゆる本地垂迹説であった。」
     と喝破する。あぁ、お見事!

     また、吉野、熊野のことを、“魂の還るふる里”、 那智の滝の上方にそびえる阿弥陀が峰は、死霊の集まる霊地であったことから、熊野は死者の国、神話が伝える黄泉の国とし、
    「そこを目指して行く大峰行は、いったん死ぬことを意味したにちがいない。」
    と、古事記の記述が現実であったか、あるいは神の行為と同じ体験を修行のひとつとして奨励していたという考察が面白い。

     奈良の山間部の奥の奥では、神話の世界が今も息づいていると思わせてくれる。奈良県人としては必読の一冊だった。

  • 近畿の杣道を行けば、ひっそりうら寂れた人里があり、鎮守の社や修験の寺が遺されている。そして、そこには客寄せの道具としてむやみに公開されず、村人が守り継いだ面、像、絵画などの美術品が保存されている。その地を訪ね観て綴る著者の語り口に、読み手として歴史にも文化にも造詣が浅いものの、共に里に誘(いざな)われ、村の御神体を拝した心地になる。

  • 一昨年、都内の美術館で開催された白洲正子展へ足を運んだのが、同書を手に取る契機でした。
     
     岐阜、福井、滋賀、京都、奈良の…現代風にいえばB級の寺社仏閣を中心に、白洲が実踏して感じ取ったことをその土地の歴史や伝説等を引き合いに記述されてます。
     
     とりわけ興味を持ったのが、奈良県宇陀市にある大蔵寺の薬師如来立像に関する話。以下抜粋。
     
     「正直なところ、大蔵寺の環境や建築には感心しても、中身の仏像にはあまり期待が持てなかった。~(略)~本堂の扉が開かれた時、それは見事に裏切られた」
      
     この薬師如来立像、展覧会で鑑賞できたのですが…この手の物って、現地で観ないとホントの良さがわからないと思うのが本音。しかしこのお寺、無断で境内へ立ち入ることすらお断りしているようで(=予約制でそれになりの出費も覚悟が必要。。)、ハードルは高い模様。『かくれ里』は昭和46年にかかれたもの故に、現在は当時の面影が消えている場所も多いようですが、この大蔵寺だけは当時の面影を未だに残しているようです。いつかは行ってみたいですね

  • 紹介されたかくれ里の近くに住む者として、一編一編の人間らしい視点をとても温かく感じました。

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  • 先日、tvで大和大宇陀にある森野薬草園のことが放映されていた。私も訪ねたことがあるので、ぼんやり番組を観ていたら、その番組に知人が登場したので驚いた。
    何の本で、この薬草園のことを読んだかと思い出すのに時間がかかったけど、やっと思い出したその本は、大好きな白洲正子の『かくれ里』やった。

  • 人里から離れた山の奥深い場所にひっそりとある「かくれ里」をめぐったエッセイ集だ。

    鄙びた田舎ではなく、貴人が落ちてきたという伝説が語り継がれていたり、歴史の古い神社を祀っていたり、山深い里だからこそ隠し守ってきた信仰や伝統を読みやすく芯の通った文章で紹介している。

    もはや現代には残されていない独特の雰囲気に、遠い国の物語を聞いているような、不思議な気持ちになる。

  • 自分の知識不足を認識する本。本は悪くない。

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著者プロフィール

1910(明治43)年、東京生れ。実家は薩摩出身の樺山伯爵家。学習院女子部初等科卒業後、渡米。ハートリッジ・スクールを卒業して帰国。翌1929年、白洲次郎と結婚。1964年『能面』で、1972年『かくれ里』で、読売文学賞を受賞。他に『お能の見方』『明恵上人』『近江山河抄』『十一面観音巡礼』『西行』『いまなぜ青山二郎なのか』『白洲正子自伝』など多数の著作がある。

「2018年 『たしなみについて』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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