- Amazon.co.jp ・本 (314ページ)
- / ISBN・EAN: 9784061961425
作品紹介・あらすじ
大寺の家に、心得顔に1匹の黒と白の猫が出入りする。胸が悪く出歩かぬ妻、2人の娘、まずは平穏な生活。大寺と同じ学校のドイツ語教師、先輩の飲み友達、米村。病身の妻を抱え愚痴1つ言わぬ“偉い”将棋仲間。米村の妻が死に、大寺も妻を失う。日常に死が入り込む微妙な時間を描く「黒と白の猫」、更に精妙飄逸な語りで読売文学賞を受賞した「懐中時計」収録。
大寺さんの家に、心得顔に1匹の黒と白の猫が出入りする。胸が悪く出歩かぬ妻、2人の娘、まずは平穏な生活。大寺と同じ学校のドイツ語教師、先輩の飲み友達、米村さん。病身の妻を抱え愚痴1つ言わぬ“偉い”将棋仲間。米村の妻が死に、大寺も妻を失う。日常に死が入り込む微妙な時間を描く「黒と白の猫」、更に精妙飄逸な語りで読売文学賞を受賞した「懐中時計」収録。
感想・レビュー・書評
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朴訥とした文体…と思いきや、
風とか小川とか、そういう物の「さらさら」と
流れていく様な、読んでいて非常に心地の良い
美しい(雅やかとは異なる)短編集です。
テーマに死を扱う割にはふんわり・さらりとしていて。
なにより大寺さんの静かな「日常」が、
そして優しく繊細な視線がいとおしい。
表題「懐中時計」がとてもよかった。
こういうの、あるある、と思ってしまう。
兎に角漢字の使い方や日本語がきれい。
原稿用紙に写してみたくなります。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
昭和30~40年頃に書かれたものからか、文体が変わっていて、読み進むのが面白かった。
主人公・大寺しんが妻を亡くしたころや、友人との語らいの様子を描いたものを含めた短編集。
解説を読むと文体の不思議さは時代によるものでなく、小沼丹さんの個性によるものである様子。 -
私にとって2作目となる小沼作品です。「黒いハンカチ」で描かれる茶目っ気とユーモアとに惹かれて読み始めた作家ですが,この作品ではそれらとは違った雰囲気を楽しむことができました。
全部で11の短編が収められている本書の雰囲気は,最初の短編「黒と白の猫」で味わうことができるように思います。「学校」に勤める主人公・大寺さんの過ごす何気ない日常の中に,近しい人たちの死が入り込むさまを静かに描いているこの短編は,作者本人の言う通り「いろんな感情が底に沈殿した後の上澄みのような所」と呼ぶにふさわしい雰囲気をまとっていますが,それがなんとも言えない感慨を感じさせてくれるのです。大寺さんや他の人々が発する言葉の一つ一つから,悲しみや愛情や様々な感情を感じ取ることができ,本当にすっきりとした作品になっていると感じました。
途中,「エジプトの涙壺」「断崖」「砂丘」といったサスペンス風味の強い短編が挟まれますが,この3つの作品で水面上に浮上してきた感情は後半の4編では再び奥底へと沈み,静かな雰囲気へと戻っていきます。本書の真ん中に配置されたこれら3編に私はすこし面喰ったものですが,後から考えるとこの配置はとてもよかったと思えます。
人と,時の流れと,死と,そういったものを淡々と描くさまは,まるで「凪」のようです。しかし情景の裡に登場人物のほのかな心情をよく表した文体は,静かに,そして切実に,読む者に迫ってくる。本書から私はそんな印象を受けました。最後に載っている解説と作家案内とまでを読めば,この作品たちの奥深さをさらに知ることができるでしょう。
(2010年10月入手・2012年5月読了) -
なんとも言えずいいです。日常に死がやってきて、その中を日々静かに過ごしている大寺さん。ありそうでないです、こういう雰囲気をまとった小説は。
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なんでもない空間、でもすぐそこに死が。
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文体と文章を味わい その先に何も求めない。
小沼丹氏の創作態度そのものを
とても心地よく感じた。
「黒いハンカチ」以来2冊目だが
氏の文体を味わうことの快適さは
漱石を読むときに似ているような気がする。
作者の世界が目前に広がる…その先に主張はない。
このような文学 空気感 時代感 私は大好きだ。
久しぶりに氏の作品に触れたが
これからも できるだけ多く読みたい。 -
だらーん、とした感じの書き方で、断念。
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ネット書評で、「回想の作家」と褒められていて、どんな文章か気になったので
私小説家と紹介されていたけれど、随筆なのか小説なのか境目の曖昧な話
確かに、回想が巧み。
電車に乗っていたら駅で友人を思い出し、思い出を語りながらその過去へまた……というようで、読んでいるうちに、「あれ、今どの時代だっけ」というのがわからなくなる。けれど、人の記憶の振り返り方ってこういうものなのかなあという印象で、まったく不快さがない。
淡々と続く話。
推理小説なのかな、という話も数編含まれているけれど、推理をするものでもなく、日常のささいな話なのに、人はこういうものを恐れているよね。というような……
奥さんが浮気しているのをわかっていて帰れない男とか。
泣く壺とか。
著者プロフィール
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