三匹の蟹 (講談社文芸文庫)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (332ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061961753

感想・レビュー・書評

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  • 短編集。表題作がデビュー作にして1968年の芥川賞受賞作。著者は当時夫の仕事の都合でアラスカ在住。日本人夫とアメリカに住む日本人女性が書いた作品、ということを予備知識として頭に入れておくだけで、入口で躓かずに済むかもしれません。逆に言うと、知らなければ設定を把握するのに余計な時間がかかるタイプの作品。

    「三匹の蟹」だけでなく「幽霊達の復活祭」も似た設定で、さまざまな国籍の男女がパーティー会場で空虚な会話を交わしている。ただ「幽霊達~」のほうは、ラテンアメリヤ人、ミンカ人、天竺人(どうやら日本のこと?)、北極人(エスキモー?)など、存在しない国や存在しない宗教の名前を使ってあり、そのことによって幽霊感(中身からっぽの生きていない感じ)を演出してある。

    ネイティブアメリカンを題材にしたらしき「火草」が、民話的で野性のにおいがして印象的だった。雷鳥、鶫、啄木鳥などの鳥の名前を持つ男性たち(実際に鳥の羽を身に付けてもいる)に愛された火草という名前の女性(同じ名の植物があるらしいが日本名は不明)彼女の葬儀の場面から始まり、彼女の死の理由を男たちが回想してゆく。

    「トーテムの海辺」はこれらを融合させたような話で、アラスカで暮らす日本人夫婦の妻に、ネイティブアメリカンの族長から、日本での博覧会に出品するトーテムポールのパンフレットに載せる物語を翻訳してほしいと依頼がくる。そのためにインディアンの村に招待され訪問する一家。インディアンたちの間に伝わる民話がいくつか折り込まれていて、これが面白い。

    「首のない鹿」「青い狐」「桟橋にて」は、いずれも男女の不和にまつわる話。赤い髪の女と茶色い髪の女が桟橋でそれぞれの夫についての苦悩を語る「桟橋にて」がちょっと怖かった。赤い髪の女は嫉妬深く夫を束縛、茶色い髪の女は逆で現代風に言うと夫からモラハラ、マインドコントロールを受けている感じで、どちらの告白からも、女であることの不幸が切々と伝わってきて辛い。

    ※収録
    三匹の蟹/火草/幽霊達の復活祭/桟橋にて/首のない鹿/青い狐/トーテムの海辺

  • 1968年上半期芥川賞受賞作。タイトルからは日本的な物語を想像していたのだが、なんとアメリカが舞台の小説だった。バス代が85セントというところで気がついたのだが、意表を突かれた思いだった。なんと「三匹の蟹」は、海辺の宿の看板だったのだ。実際の舞台はアラスカらしいのだが、それは小説の中では特定されていない。そこに暮らす(期間も不明だが、それ相応に長そうだ)日本人ファミリーの心の空隙を描き出しているのだが、他者との関係性の異質さと孤独感が、読む者をも寂寥の想いに誘うかのようだ。

  • ちょっとしたショックのある作品で、どことなく、懐かしのアメリカ映画(アクションではない)を彷彿とさせます。

    この作品を読んで、フォークナーを無性に読んでみたくなりました。

    ふと、アメリカの田舎町の風景が目に浮かんでくるような、そんな文章。蟹というと心臓のイメージがあります。なんとなく、中身が詰まっていそう。

  • #英語 The Three Crabs by Minako Oba

    1968年の日本の読者に与えたインパクトは、2021年に読んだ私にはなかったが、後に『浦島草』を執筆する著者のデビュー作だと思うと感慨深い。

    "群像新人賞・芥川賞両賞を圧倒的支持で獲得した衝撃作"

  • 政治風刺を散りばめた、会話劇主体のよろめきドラマ。

    アタシ、何をきっかけにこの話を読もうと思ったんだっけ……?と首をひねりたくなった。星2とする。

  • 1968年に群像新人賞と芥川賞を同時受賞した作品です。
    当時の文学界を震撼させた!と絶賛されており、興味が湧き図書館で予約しました。(本としては絶版されているそうです。)

    芥川賞の割には読み易く、50年前の作品なのに今読んでも全く古臭い感じがしないことに驚きました。
    人間関係の不信、外国に暮らす孤独感などが、無意味な会話や皮肉な会話から伝わり、主人公の空虚感がよく表れています。

    うーん。でも私には文学的過ぎたな。

  • [ 内容 ]
    “大型新人”として登場以来25年、文学的成熟を深めて来た大庭みな子の、あらためてその先駆性を刻印する初期世界。
    群像新人賞・芥川賞両賞を圧倒的支持で獲得した衝撃作「三匹の蟹」をはじめ、「火草」「幽霊達の復活祭」「桟橋にて」「首のない鹿」「青い狐」など初期作品を新編成した作品群。

    [ 目次 ]


    [ 問題提起 ]


    [ 結論 ]


    [ コメント ]


    [ 読了した日 ]

  • 『淋しいアメリカ人』という昔江角マキ子を嫁いびりした作家の本を思い出す。「三匹の蟹」の主人公が参加したがらない「ホーム・パーティ」というのはその象徴的な場かもしれない。「淋しいアメリカ人」は「淋しい日本人」を呼ぶ。ただしこの著者に限っては、異邦に身を置く日本人としての淋しさのうえに「誰にも本当のことを言えない」母としての、「イマジネーションがありすぎる」妻としての、「どうにもならないで男にすがりつくしかない」女としての淋しさが重なっているらしい。その重なりがなければここまで冷めた女性の肖像はつくれないだろう。それにしても「首のない鹿」の色彩のイメージはすさまじすぎる。

  • 表題となっている「三匹の蟹」が一番好きだった。

  • 敬愛する村上龍氏のエッセイに出てきたので、借りてみました。

    会話がおもしろくて、おお、中々…!!
    とわくわくしてたのに、何か気付いたら終わっとった…

    これが文学…

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著者プロフィール

1930年、東京生まれ。津田塾大卒。68年、処女作『三匹の蟹』で群像新人賞、芥川賞を受賞。代表作に、谷崎潤一郎賞作『寂兮寥兮(かたちもなく)』、野間文芸賞作『啼く鳥の』、川端康成文学賞作『赤い満月』など。小説の他にも、詩、エッセイ、評論、翻訳など幅広い著作を生み出している。芥川賞など数々の賞の選考委員もつとめた。

「2005年 『大庭みな子全詩集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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