贅沢貧乏 (講談社文芸文庫―現代日本のエッセイ)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (316ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061961845

作品紹介・あらすじ

華麗な想像力、並はずれた直感力と洞察力。現実世界から脱却して、豊饒奔放に生きた著者が全存在で示した時代への辛辣な批評。表題作「贅沢貧乏」「紅い空の朝から…」「黒猫ジュリエットの話」「気違いマリア」「マリアはマリア」「降誕祭パアティー」「文壇紳士たちと魔利」など豪奢な精神生活が支える美の世界。エッセイ12篇を収録。

感想・レビュー・書評

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  • 三島由紀夫は森茉莉のことを、
    「言葉で自分の世界を構築してその城のなかに住んでいる。私もそうしたかったが、どうしても外からしか描けない。その点で森茉莉には勝てない」
    というようなことを言っていたらしい。

    森茉莉は、貧乏生活のなかでも彼女の愛好するヨーロッパ的な美しさを見出し、その世界を文章にした。彼女の自伝的小説には、とにかく西洋的でおしゃれな言葉たちが散りばめられている。陶酔感とナルシシズムが満ち溢れており、ああ、ナルシシズムってよくないことのように思っていたけど、創作においてはむしろ必要なものなんだなあと。ナルシシズムを排除するのをやめようと思った。同時に客観視点も持ち合わさなければならないけれど。

    森鴎外の娘として溺愛され育つも、二回の離婚を経験し、年老いてから貧乏生活を送る彼女は、不幸だと周りに同情されたそうだが、
    言葉で自分の世界を構築し、その中でのみ生き、それ以外のことはどうでもいいと捨ててしまえる、そんな強さを持っていた。彼女はきっと幸せだった。

    ここにきて使い古された言い回しを使うけれど、いつだって幸せは自分の心が決めるのだ。
    そして自分が生きるための世界を言葉で作れたら、それほど素敵なことはないと思った。

  • 私にとっての森茉莉はこの一冊だけでいいと思うくらい。
    30年ほど前の文庫をいまでも手元に置いています。

    するどい視線、審美眼と滑稽さ。
    装飾的でありながら、残忍な文章。

    一番好きなのは、美しいと信じているものの描写。
    「花の色は黄ばんでもろくなったレエスの色」とか、、、若いころに読んで色調の表現に憧れたためか、私の中にはお茉莉さん色というものがあります。

  • 面白かったです。森茉莉流の豪奢なレトリックに彩られたうつくしき哉、人生。エッセイに分類されているんですが、短編小説風の不思議な話も収録されています。浅草のノンシャランな気楽さと風通しを愛し、懶惰にアンニュイにチョコレートをかじるマリア。決して真似は出来ない生き方だけれど、ほんの少し前の日本にこのようなエトランゼ気質の女性がいたことが誇らしいです。

  •  森鴎外の長女と聞くだけでも「贅沢」してきた人なんだろうなと思いつつ読み始めてみると、驚くべきことにその正反対。

     彼女は、一見すると粗末な住まいに住んでいたといいます。かつては髪を洗うことさえ女中に任せていたというお嬢様っぷりだったそうですが、そんな生い立ちもあって何ひとつ自力でできない自分に対して面白おかしく(じつに客観的に)描き出すのは見事の一言に尽きるように思います。

     彼女が大切にしていたのは、自分の価値観に従って生きることであり、美しく生きることだったのではないでしょうか。彼女にいわせれば、誰もがまったく同じような生活を送るような生活空間は空虚なものでしかない。
    決して裕福ではないなかでも、チョコレートや少しの酒・タバコは欠かさない。部屋の様相にしても、周りの人にはわからなくても自分が贅沢だと思えればそれでいい。それが「贅沢貧乏」だということなのではないかという印象を抱きました。

     反対に、品のない下らぬ贅沢を見せつけることや、「わたしは特別な人間だ」などということは嫌っていたに違いありません。そんな茉莉さんの考え方が、僕にはとてもしっくりきました。

     長すぎるカッコ書き、文章の微妙なつながり、気になることもあるかもしれませんが、これはいかにも思ったことをそのまま書き連ねているような印象を受けます。決して緻密に構成されたものではないにしても、そこには彼女の思考の流れが生き生きと表れているのではないでしょうか(あれこれ飛び火することからは、彼女がおしゃべり好きだったことがわかります)。

    こんな生き方をしてみたいものです。

  • この作家の著書には高校の頃から親しんでおり、このエッセイのことも知っていましたが、独特の世界を築き上げた彼女の小説の、現実離れした硬質デカダンなイメージを、作者の現実を知ることで壊したくなかったため、読まないままに今まできました。

    主人公である自分を客観的視線から善も悪もなく描いており、かなり小説的コーティングがされていると感じつつも、その質素な生活ぶりは凄味を感じるほどに徹底しているため、現実ベースに描いているということがじかに伝わってきます。

    年に1冊小説を書き、その原稿料でつましく生きているという、昭和30年代の著者。
    森鷗外の娘であり、かなりの耽溺文学の著者であるため、お金持ちの道楽趣味として、てなぐさみに物語を書いているかと思っていましたが、実際には生活のためにイヤイヤ小説を執筆していると知って驚きました。

    どんなに困窮していても、生まれついての裕福な生活スタイルを崩しきることはできないようで、貧しい中にも惨めさにどっぷりとつかりきらない、良家の子女の凛とした矜持のようなものが、常に彼女の中に存在しています。
    1日300円の食費の中で、100円を舶来のチョコレエトに使っているというところが、やはり見事に現実離れしたお嬢様。

    想像と妄想のつたが深く絡まった深い森の中のお城で暮らす永遠の姫だなあと思うことしきりです。
    夢見がちの少女が、そのままのピュアな心で、ハードボイルドな現実を生き抜いていく方法が記されているような一冊。

    彼女のような夢見ながらも腹を据えた生き方は到底無理ですが、ぼんやりと物思いに耽って過ごすところなど、私もそれなりに彼女に近い面があるため、完全に他人ごとに思えないまま、はらはらしながら読みました。

    とても貧しい生活様子を書き連ねてありながら、その徹底ぶりと妄想の素晴らしさ、揺るぎない誇りの高さに、哀れさや嫌悪感は抱きません。
    他人の目を気にしない強さと妄想力の完璧さが、彼女の生活と小説を作り上げ、まさに『贅沢貧乏』を生み出しているというわけですね。

    『桜の園』を追われた『斜陽』族の彼女が、その妄想力を一本刀として、世間の荒波をやりすごしていく様子に、誰も真似のできない非力の強さを見ることができる、独特の牽引力のあるエッセイとなっています。

  • 森鴎外の娘、茉莉のエッセイ。「貧乏贅沢」ではなく「贅沢貧乏」なのは「そこらのお嬢様とはお嬢様が違う」茉莉の美意識や気高さ、審美眼が伺える。「現代は「贋ものぜいたく」の時代らしい」という言葉が印象的。(書かれたのはS38年です)極貧生活を自虐的に描いていますが、本物のお嬢様は品があります。

  • デコデコした耽美な文章とは別に、世間知らずの元お嬢様のおとぼけ小説風エッセイの系列があったのか。
    森鴎外の愛娘という稀有なキャラクターを存分に活かした(殺した?)変な文章。変な自意識。
    瀬戸内寂聴からお金借りたり、室生犀星との待ち合わせを1週間間違えたりという滑稽な失敗談が多いのだが、それを笑い話にするとか、反省するとかでもなく、現実から少し浮いた地点でただ眺めているような、変な距離感で書いている。特殊な症例の患者の文書を読んでいるような違和感と切実さ。
    こっちの方が面白くて好きだな。

  • 群さんのすみれ荘物語の主人公がこのエッセイに感化されていたので読んでみたいと読み始めたけれどやはり少し昔の方の文章なので読みにくく、途中で断念。

  • 清貧なミニマリスト指南書になるかと思いきや、、


    なんと不潔な世界w w w
    ささくれだった気分の日に読むと、何故かすっきりしますよ。

  • その魅力は言葉。部屋に好みのモノを置くように言葉を置く。贅沢、色彩、硝子、森鷗外、室生犀星、萩原葉子、少女、フランス、朦朧、綺麗…ゆっくり読むしかない読みにくさでむしろ心地よい。アタマから出てくるのではなく存在そのものから流れ出てきてるような。中身は完全に別物やけどありようは深沢七郎さんに近いかも。また、けっこう自己を客観視してる。

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著者プロフィール

1903~87年、東京生まれ。森鴎外の長女。1957年、父への憧憬を繊細な文体で描いた『父の帽子』で日本エッセイストクラブ賞受賞。著書に『恋人たちの森』(田村俊子賞)、『甘い蜜の部屋』(泉鏡花賞)等。

「2018年 『ほろ酔い天国 ごきげん文藝』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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