光と風と夢・わが西遊記 (講談社文芸文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (246ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061962040

作品紹介・あらすじ

喀血に襲われ、世紀末の頽廃を逃れ、サモアに移り住んだ『宝島』の作者スティーヴンスン。彼の晩年の生と死を書簡をもとに日記体で再生させた「光と風と夢」。『西遊記』に取材し、思索する悟浄に自己の不安を重ね,と題した「悟浄出世」「悟浄歎異」。-昭和17年、宿痾の喘息に苦しみながら、惜しまれつつ逝った作家中島敦の珠玉の名篇3篇を収録。

感想・レビュー・書評

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  • サモアのスティーブンソンの生活、そして三遊記の沙悟浄を主人公とした小説。いずれも元ある小説を借りた独自の小説。いかにも中国文学に強い著者らしい文体の文章が印象に残る。実は翻訳文かと思ったほど。内容は随分哲学的な沙悟浄だったりしてびっくり。次は沙悟浄との対話での導師の言葉。「自己だと? 世界だと? 自己を外にして客観世界など、在ると思うのか。世界とは、自己が時間と空間との間に投射した幻じゃ。自己が死ねば世界は消滅しますわい。自己が死んでも世界が残るなどとは、俗も俗、甚だしい謬見じゃ。世界が消えても、正体の 判らぬ·此の不思議な自己という奴こそ、依然として続くじゃろうよ。」なお、古い時代の小説でサモアの土人、また不具者などの表現は今ではびっくりする。

  • 自分とは何かという疑問を持ち、高名な碩学たちに答えを求め続けた沙悟浄。五年が過ぎても明確な回答は見出せず、愚かではあっても確固としてあった自己をすら見失う。まず動くことが大切なのでは、との予感を得たのち観世音菩薩が現れ、やがて出会う悟空から学ぶことは多いと告げられる。
    その悟空には思慮や判断が行動の中に溶け込んでいて、文字に拠らない知識があることを思い知らされる。
    また、三蔵法師の身体の弱さの中にある、正しく美しく尊い精神の強さ、猪八戒の楽しみを楽しむ才能をも学ぶべき対象となる。
    悩める沙悟浄の造形が新しく感じられた。

  • 『宝島』で知られているスティーブンスンの書簡を元に日記形式で再構成した『光と風と夢』。南洋へ実際に行ったことがある中島敦だから書けた、生々しい島の自然の描写と、支配する側(白人)とされる側(島民)の関係。
    西遊記に出てくる沙悟浄を主人公に置いた「悟浄出世」「悟浄歎異」。
    光と~も悟浄~も、どちらも苦悩しそれを独白する主人公の影に作者本人の苦悩が反映されているようで、読んでていろいろ考えちゃいます。

  • 高校3年頃、中島敦の文庫を読んでいた。大学入学後は大学の図書館で全集の短編を漁っていた。「光と風と夢」もそうして読んでいたのだが、完読できなかった。新生活が始まり、腰が据えられなかったのか。それまで読んだ中島敦の小説は、中国や古代を題材にした無駄のない彫琢した文体が魅力だったが、この話は現代に近いし、ゆったりした印象。
    辻原登さんの「東京大学で世界文学を学ぶ」で、パスティーシュの題材として、スティーブンスンと中島敦が取り上げられていた。「宝島」は少年ロイド・オズボーンに捧げられている。スティーブンスンはロイド少年の母、11歳年上のオズボーン夫人と結婚し、サモアに移住し、とスティーブンスンの生涯が紹介され、中島敦はスティーブンスンになりきって日記を創作したある。

    この読書を契機に約40年ぶりで本書を読む。結婚したときにファニィは40歳、長女には子供もいて、つまりお婆ちゃんだった由。
    大学時代はもっとゆったりした小説のように感じたが、白人の傀儡の老王と現地人の信任を集める有力者の対立や戦争の中でサモアの人々に寄り添い、白人社会からオミットされるスティーブンスンが描かれる。ツシタラ(物語の語り手)と現地の言葉で呼ばれることを誇りとし、サモアの自然と人々を愛した日々。時折、死期の近さや自己への懐疑が顔をのぞかせる。中島敦がスティブンスンと一体化して語っているようだ。
    サモアの人々がスティーブンスンへの感謝のために道を作る。スティーブンスンの彼らへの挨拶。
    これからは道路の開拓に、農場の経営に、子弟への教育に諸君の同胞、子弟、更に生まれざる後代の為に、そうした努力を続けたらどんなによかろうと思うのです。
    中島敦が、やはり南洋で見たものも、威張った日本人と虐げられた現地人であったのだろう。

    このあとは、スティーブンスンの独白や美しい夜明けに陶然とする描写が数ページ。そしてあっさりと物語は終わりを告げる。
    「トファ(眠れ)、ツシタラ」
    美しいものを読んだと思う。

    我が西遊記
    若い頃読んで、中島敦って完成された文章を書く人と思っていたので、意外に感じた作品。
    「悟浄出世」自己への懐疑を抱え彷徨う沙悟浄。「悟浄歎異」悟浄のモノローグ。西遊記の哲学的解釈かな。全く非力な三蔵法師の尊い力強さ、圧倒的な力を持つ悟空は自分の中の優者への畏敬と美と尊さへの憧憬を気付いていない。そして生を謳歌し享楽する猪八戒。
    悟浄は幻滅と絶望の果てに希望に縋りつこうと、この旅を続ける。この長いモノローグが若い頃心に沁みた。今それも思い出しながら、旅の深い夜の物語を読み終えた。

  • 脇役にだって人生(河童生?)はあって、沙悟浄だって所以と思うところとそれまでの深い深い事情があって西遊記物語の参加者になったんだなあと、思うと同時に、それに絡めて普段まともには考え無いような哲学的なことを考えさせるのが上手いなと思った。悟浄出世より悟浄歎異の方が個人的には面白かったかな…西遊記原典読んだことないけども、おぼろげに知ってる人物のイメージと作者の描く人物像らが驚くほど一致してて少し驚いた。悟浄歎異の方が人物描写がなまなましいというかかな的(?)で、非常にイメージしやすかった。極端だともいえると思う…。

  • 光と風と夢・・・主人公=作者自身の、作家としての苦悩と精神活動の物語。
    客観的に見るということは対象を良く知ることと、対象から離れることが必要である。

  •  宝島とジキルとハイド、西遊記を読みたくなった。

  • 「悟浄出世」「悟浄歎異」は何度読み返したことか。この著者の文体がたまらない…

  • どうでもいいことだと思うけど、わが愛亀・沙悟淨の名はこの「わが西遊記」の沙悟淨からとったものだ。

  • 「光と風と夢」だけ青空文庫で読む。脱線だが、青空文庫で初・読了。azurいいかも…。ともかく非常に面白かった。中島敦も名訳! もともとあの簡潔な文体は好みなのだけど。

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著者プロフィール

東京都生まれ。1926年、第一高等学校へ入学し、校友会雑誌に「下田の女」他習作を発表。1930年に東京帝国大学国文科に入学。卒業後、横浜高等女学校勤務を経て、南洋庁国語編修書記の職に就き、現地パラオへ赴く。1942年3月に日本へ帰国。その年の『文學界2月号』に「山月記」「文字禍」が掲載。そして、5月号に掲載された「光と風と夢」が芥川賞候補になる。同年、喘息発作が激しくなり、11月入院。12月に逝去。

「2021年 『かめれおん日記』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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