蜜のあわれ・われはうたえどもやぶれかぶれ (講談社文芸文庫)

著者 :
  • 講談社
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本棚登録 : 968
感想 : 114
  • Amazon.co.jp ・本 (318ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061962248

作品紹介・あらすじ

ある時は"コケティッシュ"な女、ある時は赤い三年子の金魚。犀星の理想の"女のひと"の結晶・変幻自在の金魚と老作家の会話で構築する艶やかな超現実主義的小説「蜜のあわれ」。凄絶なガン闘病記「われはうたえどもやぶれかぶれ」、自己の終焉をみつめた遺作詩「老いたるえびのうた」等、犀星の多面的文学世界全てを溶融した鮮やかな達成。生涯最高の活動期ともいうべき晩年の名作5篇を収録。

感想・レビュー・書評

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  • 斬新どころか突拍子もなくって、でもなんだか微笑ましく、それ以上になんともエロティックな、とても摩訶不思議な幻想小説。

    少女に化ける金魚と、老作家、そして幽霊が織りなす日常を描いた…という設定だけを抜き出してみると、ファンタジーもしくは怪奇小説のようですが、その実、どちらのジャンル分けもしっくり来ず、妙な生々しさと儚い余韻が尾を引く、ある種官能小説的な香り漂う物語。

    状況説明の地の文が一切なくて、登場人物の会話だけで話が進められ、読者の持つ謎は謎のまま置き去りにされる技巧と、少なからず恋慕の関係にある男女にしか存在しない類の会話が折々挟み込まれているせいでそう思うのでしょうか。

    70歳を迎えた老作家のもとに暮らす三歳の「赤子」。
    自分を「あたい」、老作家を「おじさま」と呼んで、彼に纏わりつく彼女は、おじさまが購入して庭の池で飼っている金魚。
    けれど、彼女はどうやら、二十歳くらいの娘の姿に頻繁に化けて、街の歯医者や買い物、おじさまのお仕事の講演会を観に行ったりしている。
    でも、どうやら、二人の会話から類推するに、家にいる時は、小さな金魚の姿のまま、おじさまの身体の上を行き来したり、池に戻ったりしている…もよう。

    二人は赤子が金魚であるというのを自明のこととして常に会話を進めていくけれど、第三者と接する外出中はともかく、家の中での赤子の容姿に関する言及はなく、その時の赤子が金魚型なのか、人型なのか、読者にはまったく知る由もない。
    いや、個人的にはむしろ、金魚型の方が多そうな気がする。

    そんな奇妙な生活の中で、ある幽霊の女が、蜜月関係にある一人と一匹の間に現れて…。

    うーん、この摩訶不思議で奇天烈だけど、吸引力があり、直接の性描写はないのに不思議とスリリングでエロティックな香りあふれる様を、そして、金魚の短命に由来する儚く無常なラストの空気感をどう説明すべきか…とても難しい…。
    まだまだ分析力と語彙力が足りないことを痛感させられます。

    でも、一見甘えたお子様のようで、ませたことを堂々と口に乗せる赤子の妖女ぶりと、赤子に振り回されているようで、その実、人生の酸も甘いも、苦味さえもかみ分けた感のあるおじさまの落ち着きあるキャラ具合が実にいい。
    主要人物の歯切れ良いやりとりのおかげで、とても楽しめる作品です。

    こちらを原作として、大杉漣・二階堂ふみコンビで映画化もされています。
    まだ観たことない映画の評判は残念ながらイマイチのようですが、原作を読むと、俳優二人の持つ雰囲気は、おじさまと赤子をうまく表現して「いそう」な気がして、とても観てみたいですね。

  • 老年の小説家“おじさま”と可愛らしい“金魚”との全篇対話形式で展開する短編『蜜のあわれ』が読みたくて。

    金魚の一挙一動がとにかく可愛いです。
    子供のようなあどけない口調に反して立ち振る舞いは艶っぽく、何気ない会話や仕草が妙に官能的、喜怒哀楽の豊かさはこちらも愉快な気持ちになり、こんな可愛らしい女の子が自分の周りをくるくると舞っていたら…そりゃあ老年のおじさまは夢中にもなるし翻弄されたところで本望でしょうと納得してしまいます。
    生き生きとした光で溢れた“生”と、会話の端々で顔を見せる“死”の対比が美しい表情豊かな一篇でした。

    「おじさまは、何時も、しんせつだから好きだわ、弱っちゃった。また好きになっちゃった、あたいって誰でもすぐ好きになるんだもん」

  •  「蜜のあわれ」が映画化されていて、女優の姿を読み終わったあとに観たのだが、ほんとそのまんま、イメージ通りで笑った。「陶古の女人」はなんか最後のほうに、誰でも平等に愛しますみたいな男がでてきて、古陶と女人がだんだんと混ざっていく感じが良い。「火の魚」は、魚拓をとる女の、渾身の出来上がり具合までに持っていく話の流れが見事だった。陶器といい、魚拓といい、ものを丁寧に描写するのが凄まじくて、とにかく目にものが浮かぶのだ。室生犀星の凄いのは、解説で「羊羹のように流れている」が取り上げられていたように、描写の見事さだ。「蜜のあわれ」は読み終えたときはそうでもないのだが、読んでいる途中は、「あれ、これって、あのチューハイとかビールのCMに出てくる、壇蜜から淫乱を抜いてちょっとやんちゃで従順で純情な元気いっぱいの女とどこが違うんだろう」と思い始めた。だが、それを思わないようにしたわけだ。それと、こう、ただただ自分を金魚だと思っているメンヘラ芸大生のごとき女をかわいがる話かなと思ったら、幽霊みたいな過去の女が登場してきて、決しておじさまと会おうとしないというところ、大人の女との会話のやりとりなど、面白い。ちょっとホラーテイストになっている。講演会の場面で、路地に逃げてドブ川にどぼんと飛び込んで逃げるところとか、映画のように浮かんだ。が、目的は「われはうたえども やぶれかぶれ」だ。こちらのほうが身近だし、親近感がわく。女を想像しようと思っても、すぐにどっかにいってしまってしまう、苦痛の場面。下の毛をもらいうけようとするところ。看護婦の立ち回りと、最終的な感謝。退院してから、あれほど自由に出入りすることのできた病院への、ちょっとした切なさ。それから宇野浩二が、銭湯でストイックにただひたすら体を丁寧に磨いている描写の場面が滅茶苦茶面白かった。描写としては、緑色の尿という、尿瓶が並ぶところ。いやー、「物描写の神様」という感じ。

    • hotaruさん
      猿川西瓜さん、こんにちは。はじめまして。
      全体を隠しながらもとても分析的なレビューですね。
      「蜜のあわれ」最近読んだのですが、まだ映画を観て...
      猿川西瓜さん、こんにちは。はじめまして。
      全体を隠しながらもとても分析的なレビューですね。
      「蜜のあわれ」最近読んだのですが、まだ映画を観ていないので、観てみたくなりました。
      フォローもありがとうございます。
      これからよろしくお願いします。
      2018/05/27
    • ハタハタさん
      hotaruさま
      こんにちは、お読みいただきありがとうございました。
      室生犀星は描写ですね。目が良い人だなと思います。羊羹は見事だなあ...
      hotaruさま
      こんにちは、お読みいただきありがとうございました。
      室生犀星は描写ですね。目が良い人だなと思います。羊羹は見事だなあと。金沢の記念館にも行きました。
      これからもどうぞよろしくお願いします。コメント、とっても嬉しいです。
      2018/05/28
  • 『蜜のあわれ』はやはり金魚の「あたい」が可愛い。コケティッシュな感じと言えば良いかなぁ。生き生きと動き回る金魚ちゃんと、おじさまと会えない(会わない)幽霊の対比がいい。地の文がない、会話だけで書かれている作品なのに、登場人物がとても生き生き動き回りますね。
    あわせて収録されている『火の魚』は舞台裏話みたいなところもありますが、ここにも強い女性の姿が。
    収録されてるどの作品を読んでも感じられるのは、犀星さん、ホントに女性が好きなんだなあ(いやらしい意味でなく、愛する対象なんだなあ)って事ですね。

    <収録作メモ>
    陶古の女人
    蜜のあわれ
    後記 炎の金魚
    火の魚
    われはうたえどもやぶれかぶれ
    老いたるえびのうた

  • この金魚との会話、楽しんで書いたんだろうな、と想像してみる。

    “あたい”の口調のテンポのよさに紛れてしまいそうだけれど、会ってもらえない幽霊の手首についた、腕時計をねじり取られた傷跡とか、身につけたハンドバッグの錆びついた留め金なんていう描写を目にすると、冷え冷えしたものを感じる。以前読んだ犀星の「後の日の童子」での、童子の残した足跡に群がるたくさんの“”うじうじ”した馬陸(ヤスデ)という描写もそうだった。

    美しいものを愛した犀星らしいといえばらしいのだけれど、「火の魚」で折見とち子を評するにあたって、“美人ではないためのりこうさ”とか、“美人でないための穴埋め”とか、“美人であるなしをいう相手の批評”とか、くどいくらいに書いていて、笑える。
    個人的には、頭もキレて、手も利く人というのは、もう無条件に尊敬してしまう。死の影を抱いて、いっそう凛として。

    この5月に実父ががんで死んだこともあって、「われはうたえども・・・」はなかなかに身につまされる話だった。
    86歳だったので、世間的に見れば、もう十分生きたでしょうと言われそうだけれど、昨年がんが見つかるまで持病一つない健康エリートだったので、もう十分なんて、本人はこれっぽちも思っていなかった。
    同い年の義理の母も、ちょっと調子が悪いと、どこぞのがんかもしれない、と毎年恒例のように大騒ぎをして検査を受けている。そんな二人を見るにつけ、年をとればとるほど、生への執着は強くなるのかしら、と思っていたので、作中の、
    “八十八歳であっても生きねばならないことに変りはなかろう。五十歳六十歳の小僧っ子から見たら、それだけ永く生きていたら沢山だというかも知れないが、八十八歳の人はまだまだ生きなければ損だと真面目に考えているのだ。生きることに限度はない、永く生きることは予測することの出来ない欲のふかさとも言えるだろう。”
    との言葉に本当にそう、と思う。

    最近の緩和ケア界隈では、スピリチュアル・ペインへの対応も忘れてはならない、というようなことも言われていて、それは確かに忘れてもらっては困ることだけれど、それだって、食う・寝る・出すの安寧が担保されてこそ、の話だな、とつくづく思う。

  • 大学の授業で扱うため読みました。
    ぬめぬめ、ぬらぬら、文章のテクスチャーが面白いです。
    二階堂ふみの映画化もあるようなので、時間ある時に見ようと思いました。

  • 想像以上に エロチック だったぞ……。

  • '「つまり女が男について或る考えに、突然、取り憑かれてしまって手が動かなくなるのよ、ほんの少時といっても瞬間的なものだけれど、どうにも、身うごきの出来ないくらいに考え事が、心も身もしばりつけて来る瞬間があるのよ、あんな怖い鋭い時間ないわ、予感なぞがないくせに突然やってくるのよ、前後の考えに関係なく、不幸とか幸福のどちら側にいても、そいつがやって来たら動けなくなるわ、内容は種々あるけど、はっきりと分けて見ることは出来ないけど、それがやって来たら見事にしばらくその物が往ってしまうまで、睨んでいても、見過ごすよりほかはないのよ。」

    「男にもその茫然自失の時がある、頭の中なんかでそいつに、取っ憑かれると放してくれない奴がいる。」

    「名状すべからざるものだわね。」

    「まさにそうだな。名状すべからざるものだ。つまり名状とまでゆかない生々したものだ。きみはそんな時どうする。」

    「あたい、じっとしているわ、その考え事がすうと通りすぎるまで待つより外ないわ、来ることも迅いが、去ってしまうのも、とても素早い奴なのよ。」

    「それ何だか判るか。」

    「きょうという日が、あたいならあたいの中に生きている証拠なんでしょう。」

    「そう言うより外に、言いようがないね、」

    「それは嬉しいような場合がすくなくないわね、嬉しい事というものはそんなふうには、来ないものね、嬉しくないこと、つまり悩むということはからだの全部にとり憑いてくるわね。」

    「そろそろきみの飯どきだ、時計が鳴ったぞ。」

    「ヘンデルの四拍子ね、ウエストミンスター寺院のかねの音いろって、あまくてあたいには、恰度ねむり薬みたいに宣く効くわ。」'



    金魚だのに、ひとになって、女のように、娘や孫のように、めくるめくって翻っていくように、姿を変える。

    でも、やっぱり金魚だということに、勝手に得心する。

    捉えどころがない。それは面と向かうこちらが、簡単に捉われることに、簡単に当てはめることに、纏わりつかれていることの裏返しでしかないのだから、そんなつまらない状態を軽々と翻してくれる存在に、何だか心地よさを覚えてしまうのだ。

    金魚なのに、犀星と取り交わされる一丁前な問答が可愛らしくて、ずっと耳を傾けていたい、楽しさを帯びている。

  • 老作家のおじさまと金魚の少女、赤子の日常を描いている小説。2016年に映画化されており、映像になるとより涼しさを感じられます。(I・K)

  • 赤子がともかくかわいい!!

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著者プロフィール

1889年石川県生まれ。詩人、作家。1915年、萩原朔太郎、山村暮鳥らと交わり、『卓上噴水』を創刊。18年『愛の詩集』を自費出版、以後『抒情小曲集』『寂しき都会』など数々の詩集を刊行。58年『杏っ子』により読売文学賞、59年『我が愛する詩人の伝記』により毎日出版文化賞、『かげろふの日記遺文』により野間文芸賞を受賞。1962年没。

「2021年 『写文集 我が愛する詩人の伝記』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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