父を売る子,心象風景 (講談社文芸文庫 まB 1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (365ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061962293

感想・レビュー・書評

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  • 4年くらい前に買ったんだけどぜんっぜん進まなかったのを漸く読み終えた。「熱海」「スプリングコート」「父を売る子」の3作は、筆者の家庭、とりわけ父親について書いた私小説のようなものであるが、最後の「父を売る子」だけは手前の二作を清算するために書かれたようなふしがある。父の死にショックを受けて、父をテーマにした小説(まさに父を売る小説である)を書く気も失ってはいながら、父の四十九日には「こんどは急に一家の主人公になったのだから、ひとつ大いに威厳を示してやろうなどと思い、その日に云うべき言葉の腹案と態度のことを今から夢想している。」と締めくくる。この据わりの悪さは何とも良い。好みだ。こんなどうしようもない話ばかり書いているのかと思うとそうでもなく、牧歌的享楽主義者の大奮闘を描く「酒盗人」や、他愛の無い子供との触れ合いと大人気ないおかしさがじんわりと残る「泉岳寺附近」、ほがらかな夫婦の間に刺す一筋の不安を残して終わるミステリカルな「心象風景」など、なかなかバリエーション豊富な収録作で楽しかった。「淡雪」は、ゾラに流れを組む(少なくとも「蒲団」などよりは!)正統派自然主義文学の匂いを纏う良い小説である。是非ご一読を。しかしこれまた高いんだなあ。1100円すんだ。岩波から出ている「ゼーロン・淡雪」の方が安いかもしらん。

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著者プロフィール

1896(明治29)年〜1936(昭和11)年、小説家。幼少時よりオルガンや英会話を学ぶ。文学への関心を抱くようになり、1914(大正3)年に早稲田大学高等予科に入学する。1919(大正8)年に早稲田大学を卒業後、時事通信社に入社し、雑誌の編集記者となり、同窓の下村千秋らと同人誌『十三人』を創刊。短編「爪」が島崎藤村に認められたことが文壇への足がかりとなる。藤村の紹介で翌1920(大正9)年には『新小説』に「凸面鏡」を発表した。1923(大正13)年に作品集『父を売る子』を刊行する。父母を題材とする私小説的な作風だったが、昭和に入ると、ギリシャや中世のイメージを導入した明るい幻想的な作風に転じ、「ギリシャ牧野」と称されるようになる。「ゼーロン」(1931年)や「酒盗人」(1932年)などを発表しながら、雑誌『文科』を主宰する。その後、「夜見の巻」「天狗の洞食客記」(ともに1933年)、「鬼涙村」(1934年)、「淡雪」(1935年)などを残し、1936年3月24日縊死自殺。享年39歳。

「2022年 『嘆きの孔雀』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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