帰らざる夏 (講談社文芸文庫)

著者 :
  • 講談社
4.06
  • (50)
  • (30)
  • (36)
  • (2)
  • (1)
本棚登録 : 389
感想 : 40
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (638ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061962354

作品紹介・あらすじ

省治は、時代の要請や陸軍将校の従兄への憧れなどから100人に1人の難関を突破し陸軍幼年学校へ入学する。日々繰返される過酷な修練に耐え、皇国の不滅を信じ、鉄壁の軍国思想を培うが、敗戦。〈聖戦〉を信じた心は引裂かれ玉音放送を否定、大混乱の只中で〈義〉に殉じ自決。戦時下の特異な青春の苦悩を鮮烈に描いた力作長篇。谷崎潤一郎賞受賞。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 素晴らしいの一言。
    『フランドルの冬』でも感じだが、全体通し過度な修飾が無くとも音や色が入ってくる。作者の日本語の使い方に巧さと品があり非常に好み。
    国を想う少年達が熱くぶつかり合う描写で、敗戦時の天皇主義に正解などないと率直に感じた。
    当時の“稚児”という特殊な男色関係も、彼らの刹那的な生命における唯一の彩りだと感じ胸を衝かれた。
    1人の少年が激烈な環境を生き抜いた果てに、終わりへと向かう姿に、言葉も無い。

  • 大東亜戦争、幼年学校の独特の文化と規律、上級生や同輩との関係、戦時中の思想、死、玉砕、不滅の皇軍と神州、苦しくなる食糧事情、父母からの空襲のたより、疎開先の苦労。少し不器用で感受性豊かな省治が、他人のように無心に思想に入り込めず、逆に終戦で24時間前と真逆のことを出来ず言えない。彼らは彼らなりの論理で戦争と勝利を信じて疑わず、若くして死ぬことを受け入れていて、ひたすら異常な戦争思想の真っ只中に入った、若さと純粋さそしてそれを表す言葉の強さと美しさ、読んでいて戦争を肯定も擁護もできないけど、そういう教訓めいたことも考える余裕はなく、小説にどっぷりと浸かってしまった。死を是と信じ切る閉ざされた環境と、人間の本能的な生への欲求と、外の世界や風潮との差。下世話な話だけど、源と省治はどこまでの関係だったのかしら。


    おれはみんなのように泣けない、悲憤慷慨もできない。おれはただいま、この一刻、何も考えることができない。全く何にも。まっさらの白紙、透明な風、見えぬ光。

    「一天万乗の大君が臣下の霊に額衝き給うたのである。恐懼の極みである。それは英霊からみれば光栄の極みである。」「大御心の深き御悲嘆は察し奉るだに畏れ多き極みである。」「武人としてお前もよき死所を得るように祈ってゐる。」「その何百万かの死の一つに自分が連なること、陛下が自分の死を嘉したまうこと、それこそが自分のとりうる唯一の道だ。」

  • 電子書籍版を読了。読み応え抜群の小説を読んで、身もこころもぐったりしている。何をきっかけに知ったかをもう覚えていないほど以前から、読みたい本のリストに加えていた。大東亜戦争さなか、陸軍幼年学校に進んだ主人公・省治13歳。さいしょはやや抵抗を覚えていた幼年学校の教育に馴染んでいくさまをみて、教育という名の向こうにあるものの正体について間段なく考えていかなければと気持ちを新たにした。魅力的な上級生である源でさえ、2歳しか違わないのである。著者自身の経験に基づくという本書は、とても貴重な体験をもたらしてくれた。

  • 陸軍幼年学校もの

  • 裏表紙のあらすじで実に潔くネタバレしてて、「え、ああ…えっ?」って二度見。
    主人公が最初っから抱かれたがっててヤバイ。

  • 玉音放送が流れる前後の描写が興味深かったです。昨日まで当たり前であったことが突如として当たり前でなくなり、誰もが、何もかもが変わっている。終戦ってこんなに呆気ないものなのか。体験したことが無いからわからない感覚だけれど、読んでいてとても不思議な気がしました。
    16歳の少年が、それまで信じていたもの全てを否定されたとき…真っ直ぐで純粋故にそうせざるをえなかったという結末なんでしょうか。
    当時の軍国主義やここに出てくる若い将校達の思想、考え方生き方は現代から見ると異常にも思えますが、この本を読むと、それらは作られるべくして作られた、完成されたものなのだと少しだけわかったような気がします。

  • 非常にリアルな、戦争の情景だけでなく幼い青年の心情の極めてリアルさが重苦しく、酩酊を覚える。難関の幼年学校に合格して教育を受け、生徒たちからも感化される。戦争を知らない世代に、当時を異常とは決して思わせないものがある。2.26事件をきちんと処理していれば太平洋戦争に避け得た、というのに興味。調べてみたい。14.1.18

  • …何か、何で?という感じ…。

  • 終了日 2009・12・20、2度目のカナダの冬に読んだ。2009年夏の衝動買いシリーズからの1冊。あの頃、私は日本語に飢えていた…(だからといって森茉莉、加賀乙彦、江戸川乱歩のセレクションは我ながら結構ヘビーだった)

    以下、当時の日記から抜粋。ほんと日本語おかしいな…そして読後の興奮状態で打ち込んだので支離滅裂。って、今更か。


    『解説も貪る様に読んだのだが、まったくもって、現代の「日本」に生きる、しかも今現在はその土地すら離れたところでこれを読み終えた自分にとって、この本は「酩酊」の一言につきると思う。
    久々にこの文体に触れ、ナラティブに引き込まれ我を忘れていたが、それは解説で言う「ロジック」と「言語システム」に飲み込まれていたということで、それこそ著者の掌の上で踊っていたことを思い知らされる。
    何を持って善とするのか悪とするのか、大いなる歴史という流れと一個人の認識の食い違いとは、信ずるべきは何か、何だったのか、わけがわからなくなる。だがそれがこの作品の根底にあるのかなと、私は、思う。
    解説が無ければ、熟考する事もなく、それこそ「酩酊」のままで終えたのだろう。
    あまり、巻末の解説は気にかけない方だが、必要はあるのだなと痛感した。
    しかし本当にそうだ、この結末はなんとも理にかなっている。少なくとも、省治の精神構造にどっぷり浸かってしまって、これはこれで完結してるんだなとしか思えない。
    そして私としては、最後の数ページは、何とも美しい。だがこの数ページを読んでいる間の心拍数はそれこそ駆けるようだったし、頭も破裂寸前で文字をうまく理解していなかったと思うけど、なんとも壮大だったという印象が強い。
    最後の最後は、それこそ私の中で「美」の一言に集結した。
    私としては、なんていうんだろう、もう言葉が浮かばない。
    言いたい事は山ほどあるんだけど、言ったところで多分ありきたりで破綻してるはず。
    今、表面上はかなり無表情で、うつ伏せで2時間くらい動かず読んでたから関節が痛いけど、何だかんだで読み終えた興奮ですごく感情的になってるんだと思う。

    しかしこれは、かなり不純な動機で読み始めたのだが、むしろそういう目的は読むにつれ薄れてった気がする。同性愛が何より、私個人としては天皇主義とか戦時下の精神とかそういった事ばかりに気を取られてしまった。むしろ溺れていった。私みたいな者には理解が到底及ばない、例えば迷って足を滑らせて溺れた、といったところか。
    結構ブランクが開いたし、8月末頃読み始めてやっと今終わったから4ヶ月かけて終わらせた事になるけど、読み終えてよかったと思う。これは、一読の価値あり。


    あ、全体的に重いので特に就寝前にはオススメできないよ。』

  • 2012年8月30日読了。
    作者は第二次世界大戦の時、実際に幼年学校にいたそうで、かなり自伝的要素の強い小説だそうです。
    主人公省治(昭和2年に生まれたのでこの名前)は、戦死した親戚に憧れ、親は「どうせ戦争に行くのなら将校になれば生き残れる」という思いがあり、幼年学校に14歳で入りますが、2年の間に一気に戦況は悪化していくことに。気が弱く、軍人らしいところもない省治でしたが、玉音放送の後に周囲が簡単に考えを変えていく姿についていけず、悲劇的な最後を迎えます。
    主人公の内省的な心を繊細に描き、若いころにありがちな死への憧れや、恋愛感情の代償としての同性愛描写はちょっと少女漫画的でもあります。
    後の世から見れば、なぜ戦争が終わってうれしくないのか?とも思ってしまいますが、当時の心境を詳細に描いており、玉音放送の後に「生きろというなら、なぜ玉砕する前に死ぬなと言わなかったのか、おかしい」と叫ぶ生徒たちの姿は、大人のずるさをずばり指摘していました。

全40件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1929年生れ。東大医学部卒。日本ペンクラブ名誉会員、文藝家協会・日本近代文学館理事。カトリック作家。犯罪心理学・精神医学の権威でもある。著書に『フランドルの冬』、『帰らざる夏』(谷崎潤一郎賞)、『宣告』(日本文学大賞)、『湿原』(大佛次郎賞)、『錨のない船』など多数。『永遠の都』で芸術選奨文部大臣賞を受賞、続編である『雲の都』で毎日出版文化賞特別賞を受賞した。

「2020年 『遠藤周作 神に問いかけつづける旅』 で使われていた紹介文から引用しています。」

加賀乙彦の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×