惜櫟荘主人―一つの岩波茂雄伝 (講談社文芸文庫―現代日本のエッセイ)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (510ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061962385

作品紹介・あらすじ

「低くくらし、高く思う」を精神の支柱に据え、処女出版・漱石の『こゝろ』以来、本作りの全てに最高を求め、先見の明と強い信念で多くの優れた全集・叢書等を上梓、出版事業に激しく情熱を燃やした人間味豊かな岩波茂雄。十七歳で入店以来"岩波文化"の黄金時代を共に築き上げ、互いに最も信頼しつつ、強烈な個性をぶつけあった著者が肌身を通して語る、追慕の情溢れる偉大な出版人の記録。

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  • 天地に残せる文の尊さをつくづくと思ふ船の上にて 
     岩波茂雄

     岩波書店は、1913年(大正2年)に古書店として出発した。翌年、夏目漱石の「こころ」出版を手がけ、以後、今日に至る岩波文化を発信し続けている。装丁や造本へのこだわり、また、丁寧で厳格な校閲も、創業以来の美点であるという。
     創業者の岩波茂雄は、1881年(明治14年)、長野県生まれ。旧制一高を経て東大で哲学を学び、高等女学校教員から書店主に転身した。娘婿である小林勇の回想録を読むと、堂々たる風格の人物像がいきいきと迫ってくる。
     哲学や科学を語りつつ、ボートや乗馬、登山を趣味とする行動的な側面。出版人としての先見の明に長【た】け、昭和初期には半年近く洋行し、見聞を歌にしている。

      ルウヴルの里を訪ねて心たれり芸術【たくみ】の極み見れどあかぬかも
      (巴里を去るを惜みて)

     世界に残すべき「文の尊さ」を知るゆえに、若い研究者を援助する財団法人も立ち上げた。また、漱石没後、遺族を経済的に助けるために全集刊行なども企画。他方、自身の家族には毎月一定額しか与えず、妻子は切りつめた生活を余儀なくされていたという逸話も。
     意外な逸話では、用紙統制のあった戦時下、岩波書店はかなりの利益を上げていたという。社会科学系の本で発禁処分も受けたが、戦地の若者たちに贈るため、軍から文庫本の大量注文もあったのだ。世界の知を日本の読者に伝え続け、敗戦直後の1946年に病没。享年65。

    (2012年11月11日掲載)

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