天上の花―三好達治抄 (講談社文芸文庫 はG 1)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (211ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061963788

作品紹介・あらすじ

萩原朔太郎の知遇を受けた詩人三好達治に幼い頃から慈しまれた著者が、詩人を懐かしみその人間像を鮮烈に描写。越前三国の愛と憎悪に荒ぶ詩人と著者の叔母との逃避行「慶子の手記」では三好の隠された三国時代を、鋭い観察力と強靱な感性で凄絶に描く。詩人の深奥の苦悩に激しく迫る傑作。田村俊子賞、新潮社文学賞受賞。

感想・レビュー・書評

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  • 萩原朔太郎の娘・葉子が、父の親友であり、自身の恩人でもある三好達治について、彼の死後に書いた本。

    父のような優しさと厳しさ、それとは別に叔母に見せた激しい愛情と暴力。2つの姿はなかなか重ならない。美しい思い出だけではなく、そういった面も隠さずに描かれていることに、三好さんはどう思ったのか、ついそんなことを考えてしまいます。
    ですが、それでもお互いの親愛・信頼が伝わってきて、これはとても素敵な本でした。

  • 自らのための備忘録

     あるブログでこの本が原作の映画が絶賛されていたけれど、私がそれを知った時には既に都内での上映が終了していたため、それならば原作だけでも読んでみようと図書館で借りてきたのが本書です。
     実際に手に取って読み始めると、この本はあらゆる角度において私がおもしろいと感じることがぎっしりと詰め込まれていてどんどん惹きつけられ、結局、映画も観たくなり、電車とバスとついでにタクシーまで使って近県までわざわざ出かけてしまいました。原作を読んでから映画を観るとがっかりすることがありますが、この作品は原作も映画もどちらも素晴らしいと感じました。
     昔、大学に入学した時に、先輩学生に「おもしろい授業があったら教えてください」と言ったら、「なぜ僕に麻子さんのおもしろいものがわかるの?」と言われてビックリしたことがありましたが、その先輩の言ったことは「至言」だったと後になって思うようになりました。
     そういうわけで、他の人にとっての評価はともかく、私はあらゆる角度から本書に惹き込まれていきました。
     年末に平野啓一郎『ある男』『決壊(上下巻)』や村上春樹『騎士団長殺し(全4巻)』、英国文学の金字塔と評されるマキューアン著『贖罪』を読んでいて「読んでいる最中におもしろいかと問われればおもしろいかもしれないけれど、いわゆる『読書の喜び』とは違うと感じていました。しかし、本書は『読書の歓び』とでも表現したくなるほどで、活字を追いながら興味の範囲がどんどん広がっていくのを抑えることができませんでした。
     私は読み終えてすぐに図書館で『新潮日本文学アルバム 萩原朔太郎』を借りてきて「慶子」の顔を確認しました。よく「親の顔を見てみたい」などと言いますが、そんな心境でした。
     映画の中では、まるで竹下夢二の絵の中から飛び出してきたような入山法子が演じていましたが、慶子は実際には「アイ」という女性で、兄の朔太郎によく似ていました。アイと三好達治との結婚に反対したアイの母親は「ケイ」という名だそうで、「慶子」とはうまい命名だと感心しました。
     女は男の持つ金や権力に心惹かれ、男は女の持つ美貌に吸い寄せられるというのは古今東西歴史の大原則ですが、それは子孫繁栄に繋げるために遺伝子に組み込まれた自然の摂理なのかもしれません。三好達治は、そもそも詩人・萩原朔太郎を敬愛していたので、兄朔太郎によく似た容貌のアイに一目惚れしたのは自然なことだったのかもしれません。ただでさえ朔太郎の妹たちは美人四姉妹と評判でした。
     ケイとアイによる萩原葉子への仕打ちは本書のみならず『蕁麻の家』にも書かれています。しかし「恋は盲目状態」の三好達治にはそのような彼女らの性格はまったく目に入らず、一目惚れで求愛し断られ、後にアイが三度目の結婚から出戻ってきた時に、妻子を捨ててまでアイを貰い受けたのは「男の性(さが)」だったのかも知れません。
     福井県三国における貧しい新婚生活で、思いやりの欠如したアイの言動に三好達治が激昂し暴行を働くという「慶子の手記」を挟んだ本書の構成も興味深いものがあります。とりわけこの手記部分の評価は、読者の立場によっても大きく左右されます。本作品は1966年(昭和41年)の上半期芥川賞の候補作となりますが、選考委員の評価が分かれるのはおもしろいほどです。

    https://prizesworld.com/akutagawa/sp/kogun/kogun55HY.htm

     「愛」について書かれた本は数多くありますが、「愛」とはある種の幻想であり、狂気を孕み、その凶暴さには当の本人も振り回されてしまうという「愛」の本質の一面を描いたという意味でも、本書は私にとって大変魅力的な一冊でした。
     今日では知られるようになったドメスティックバイオレンスのDVサイクル理論のハネムーン期→イライラ期→爆発期→ハネムーン期…が見事に描かれている本書は、DVパートナーに悩む人ばかりでなく、その支援者にとってもまるで教科書のような役割を果たしてくれそうです。
     尚、三好達治のように、陸軍士官学校、東京帝国大学に入学するほどの高い学力があっても、DV亭主になることはあるのだという一例としても参考になります。
     私自身は本書からは、著者のよる三好達治のDV告発という側面はほとんど感じませんでした。逆にアイとケイについてありのままをすべてぶちまけてしまいたいという長年鬱屈してきた著者の執念感じました。
     本書がきっかけになり、萩原朔太郎や三好達治の詩集を改めて手に取ろうという気持ちになり、また萩原葉子に至っては全集でも買い揃えたいほど魅力を感じました。

  • 詩人という人々の、凄まじい人生のお話である。

  • 三好達治の半生を萩原朔太郎の娘さんが描いた本。
    どう表現したらいいのか、自伝的でもあり、小説でもある。ほとんどは著者からみた三好達治が語られているのだが、一章だけフィクションと言うべき部分があるのだ。
    「慶子の手記」というタイトルで、著者の叔母と三好達治との愛憎に満ちた生活が激しい筆致で描かれている。著者の想像を膨らませながら書いたらしく、手記といっても彼女の叔母は手記など残していないし、名前も慶子ではない。この辺が、自叙伝だと思って読んでいる読者の足下を掬う。だが、この「慶子の手記」の部分が、鮮烈に斬り込んできて、後半の語りに鮮やかな色を映してくる。
    あの高遠で清々しい、三好達治の詩とはまるで異なる、暴力や執着に満ちた生々しい愛の記録。
    そこまで描きながら、三好にかわいがられた著者が最後まで三好を見つめ描き続ける姿勢が好ましい。
    かわいらしい森茉莉やシャイで真面目な室生犀星など著名人のなかなかみられない姿も垣間見られて、興味深い一冊。

  • 激しく悲惨に愛をぶつけあった二人が、唯一ほのぼのと描写されているところ。石畳の小径を、手に手を取って、わかえびすにお風呂をもらいにゆくところ。そこにだけは、あたたかい日だまりが小さく広がっているようで…

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