- Amazon.co.jp ・本 (212ページ)
- / ISBN・EAN: 9784061975552
作品紹介・あらすじ
敗戦後の日本、総アメリカ化へ向って一気に転身する渾沌として歪められたその精神構造を鋭く捉え人間存在の根源に迫る。「いきのびることは・なんたるむごいことなのだ」と刻んだ「焼土の歌」や「亡霊の歌」など韻文と散文とを一体化させ、「No.1航海について」から「No.10えなの唄」までの十章で構成。戦後の金子光晴を決定づけた自伝的傑作詩集。読売文学賞受賞。
感想・レビュー・書評
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私は一も二もなく光晴にぞっこんなので、読むほどに愛を深めるばかりだ。戦後三年間に書かれた、詩作と散文が渾然一体となった光晴のエレジー。人間の薄っぺらさとしぶとさの両面からこれほど図太く逞しく悲劇を描けるのは光晴をおいて他になし。だって日本のそらは洟水じゃん。詩人の絶望の精神がしなやかに、はなみずのそら飛ぶ花虻のように羽搏くって相当に感動的。「リウマチスの右足はステッキが支え/目には老眼鏡、耳には人口鼓膜/かんじんな若い情熱? それも心配無用/胸にはまだ、生まじりの「Revolt」がくすぼりつづけてゐる」
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正直に言いまして、金子氏の詩は私には難しくてよく分からないところが多いのですが、「正しい意見とされているものを、吾人はよくよく警戒しなければならない。正しい意見はその正しさにもたれる重力でゆがみ、決してくるはずではなかった方角へ外れがちなのだ。僕らがふり返ってながめる歴史も、正義の捷利によって、人間の歴史というよりも、むしろ、素性のしれないばけものどもが、いかに多くの人間を愚弄し、人間を傷つけて、侮辱のかぎりをつくしてきたかという恥の記録、呪われた遺跡のようにおもわれる。」のような言葉に出会えて満足です。
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あるミュージシャンの音楽を聴く時、ベスト盤を聴くよりも一つのアルバムを聴いた方がその魅力が伝わるであろう。
その論理はどうやら詩にも当てはまりそうだ。
今まで自分が読んできた詩集というのは岩波文庫にありがちな「誰々詩集」というベスト版が多かったのだが、コンセプトが明確な一つの作品を読んだ方が良いようだ。
この作品は「人間」というありがちなテーマを元に自伝的詩集となっている。
その構成も散文詩的随筆と韻文詩が織り混ざっていて、自分には非常に新鮮だった。
内容としては・・・暗い。
文学として「人間」を書くと必然的に陰鬱になり、またそういう作品が多く残ってきたと思う。
またこの作には戦争という面倒な事件が絡んでいる。
それでいてどこかユーモアもある。
歳だからぱんぱんに相手にされない詩人の悲喜劇。
今の時代にもマッチしているとは思うのだけど、かなり毒性は強いので取扱いには注意されたい。
でも個人的にはどんな社会状況でも芸術家は人間について自己について見つめるべきだとは感じる。
そしてこの詩集が面白いのはそういう部分は如実だからだ。 -
1/11
ただの自伝的作品ではなく、様々な角度からの批評的な視線を持ち込んでいる。 -
「くらげの唄」が好き
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フォーク・シンガー友部正人さんの本から、この『金子光晴』さんの名前が気になりだした。今年になってから古本屋さんで、この本を購入。時間をかけながら読んでいる。図書館で金子光晴さんの事を調べていくうちに、これは、今まで知らなかった大いなる山脈か、鉱山に出会った感じだ。その言葉、その生き方、まだまだ、知ることのなかった、すごい世界がある。