- Amazon.co.jp ・本 (290ページ)
- / ISBN・EAN: 9784061975781
作品紹介・あらすじ
『わたしはFをどのように愛しているのか?』との脅えを透明な日常風景の中に乾いた感覚的な文体で描いて、太宰治賞次席となった十九歳時の初の小説「愛の生活」。幻想的な窮極の愛というべき「森のメリュジーヌ」。書くことの自意識を書く「プラトン的恋愛」(泉鏡花文学賞)。今日の人間存在の不安と表現することの困難を逆転させて細やかで多彩な空間を織り成す金井美恵子の秀作十篇。
感想・レビュー・書評
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19歳からの10年間に書かれた短編を集めた本。だんだん文章が締まって、密度が上がっていくのがわかる。そういう意味では、最初の数編はちょっと我慢しながら読んだ。若い娘さんがふらふらする話って、元若い娘からするとあまり新鮮味がない。思い出して気恥ずかしいばかり。
でもそのあと、「兎」でぐっと面白くなった。ふわもこガーリーストーリー風に始まったのにひどく血腥くて、この短編集で一番好きだ。幻想もの好きな人は、この一篇だけでも要チェックだろう。次点は、盛り場で育っただらしなく美しい姉弟の関係を描いた「黄金の街」。
どの話でも、主人公が求める人は、物理的・倫理的・構造的にアクセスできないところにいる。この求めるものが手に届かない感じが、なんとも甘い毒に感じられた。 -
金井美恵子さんの初期作品を集めたもの。
何というかどの一行も気を抜けないというか、とにかく精緻、などというしょうもない言い方ではとてもくくれず逆に飲み込まれる(気がする)。
この本ではないがとあるインタビューで著者が言っていた言葉をずっと心に留めている
「意識的に小説を書いてきたり読んできたりした人間が、小説そのものに対する批評性をもたずに文章を書くということは不可能ですね」 -
森のメリュジーヌやばい
ていうか美恵子やばい!
「彼女の微笑の意味の最大の意味は愛であり、その中にしのび寄って来る死、悪意とからかいの針、優しさ、苦痛、空虚、悲しみ、それから燃えあがる意志――。」
「きっと、何かいいことがあるかもしれない。疑わしいことだけれど、何かいいことがあるかもしれない。信じはしないけれど、何か、いいことがあったって、かまわないじゃない?!」
「十全な愛。わたしには愛することが出来るのでしょうか?本当にわたしは愛してしまったのか?わたしが愛しているとしたら何故なのか?わたしは何故愛するのか?わたしが愛しているのはFなのですか?」
いちいち響くことをかく。「愛の生活」をいまのわたしとおなじ19でかいたとは。脱帽。
痛いくらいに愛してみたいとおもった。
窮極の愛をわたしは今生で獲得できるのだろうか(無理だろうなぁでも希望は捨てたくない!)
自分の身体を、心を、完全に犠牲にしてまで誰かを愛してみたい。
「恐ろしいくらい。恐ろしいくらいあたしは墜落して行く。」 -
「兎」いいないいなと思うのです。
さあゆっくりと死のうかってラムいりココアを飲んで言ってみたい。 -
内容:
「《わたしはFをどのように愛しているのか?》との脅えを、透明な日常風景の中に乾いた感覚的な文体で描いて、太宰治賞次席となった19歳時の初の小説「愛の生活」。幻想的な究極の愛というべき「森のメリュジーヌ」。書くことの自意識を書く「プラトン的恋愛」(泉鏡花文学賞受賞作)。今日の人間存在の不安と表現することの困難を逆転させて、細やかで多彩な空間を織り成す、金井美恵子の秀作10篇。」
三宅香帆紹介
:
・村上春樹の『眠り』を読んだかたにおすすめする、次の本
・「日常と恋愛が重なったところに夫婦というものは存在する。が、本当にそれらは重なり合う事ができるだろうか?女性が過ごす日常にはつねに狂気が何気なく潜んでいることがわかる小説。」 -
吐瀉物のような薄桃色の日焼けした背表紙を持つ古本は限界を超えて煙草の匂いが染み付いていた
金井美恵子の本として味のあるコンディションともとらえられる
最初期の作品だからか語彙の洪水にのまれる感覚は薄くて爽やか
語彙の洪水にのまれながらリズムに身を任せる
語りかける文章の軽やかさ
森のメリュジーヌ 愛と幻想のイマージュイマージュのためのイマージュ
血や吐瀉物や生き物の内側にあるもののの噴出
その中に存在が溶けていくことは次第に身体的なことではなくなり時空と現実と幻想とあらゆるものの区別がつかなくなることというよりももはや逆転していく
解説も面白い -
①文体★★★★★
②読後余韻★★★★★ -
ラジオで紹介されていた『兎』が読みた過ぎて手に取ったものでした。…が、とても読むのが大変でした。まだまだこの雰囲気を楽しめる理解力や感覚が持てていなかったようです。
短編の、特に前半の書き方では読んでいるうちに主語が変わっているようななんの話なのか見失うことがあり混乱します。たくさん文字はあるのに伝わることが少なくて、何をしているのかもよくわからなくて辛かった…モヤモヤっとした感情が文の中にあるきがするけどそれだけというか…辛かった笑
兎あたりから読みやすくなった印象でしたが
ただ兎以外は記憶に話の内容があまりありません。
時々ラインを引いておきたい素敵な表現がありそういうのを探すためだけに読んでいました。
グロの描写はとても上手い方なのではとドキドキしました。そこは怖くも美しく素晴らしいなと思いました。
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めちゃくちゃつまらないとか、難しいとか、そういうことはまるでなく、けどなんだか、読んでいて退屈な、いや、退屈ですらない、むなしいような気分になってきて、やめてしまった
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或いはわたしの失われた脳みその片側に残る寂寥を想う。それがいつからか可視化されて、消えてしまった愛の、醜く血生臭い黒に似ていると、生まれる前から知っていた。秘密めいたランプの橙色の明るさは、夜明けの絶望に掠れた声をあげている。欲望の捌け口を朝と朝の隙間に見つけて、まっすぐ立てなくなってしまった。
著者プロフィール
金井美恵子の作品






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この本、あまり面白さを説明できない頃に読んだきりだったので、なつめさんの感想に「なるほど~」とうなっています。
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この本、あまり面白さを説明できない頃に読んだきりだったので、なつめさんの感想に「なるほど~」とうなっています。
そういえば静男(なつめさんにならって最近は私も心の中でこう呼んでいます(笑))が金井美恵子ダメって言ってるとレビューで書いてらしたのも何か興味深くて… どのへんが静男の感性と合わないのか考えてみたくなります。
静男がどの作品を批判していたのか忘れてしまったのですが(メモしておけばよかった!)... このふたりって本当に違...
静男がどの作品を批判していたのか忘れてしまったのですが(メモしておけばよかった!)... このふたりって本当に違う世界で生きていそうな気がします。
同じように手に届かないものを描くのでも、金井さんの物語はどこか甘美で、その欠落さえ愛でているような感じがするのにたいして、静男だと実際に擦り傷だらけになってぶつかっていって、でも全然辛さが薄れない苛立ちをもてあましているような。
静男ワールドに慣れてしまって、この本のガーリーな毒気に波長を合わせるのにちょっと時間がかかりましたが、それにしても「兎」は名作ですね。静男を追いつつ、金井さんの本もときどき読もうと思います。