由煕 ナビ・タリョン (講談社文芸文庫)

著者 :
  • 講談社
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本棚登録 : 131
感想 : 16
  • Amazon.co.jp ・本 (396ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061975842

作品紹介・あらすじ

在日朝鮮人として生れた著者の、37歳で夭逝した魂の記録。差別と偏見の苦しい青春時代を越えて、生国日本と母国韓国との狭間に言葉を通してのアイデンティティを探し求めてひたすらに生きた短かい一生の鮮烈な作品群。芥川賞受賞の「由煕」、そして全作品を象徴するかのような処女作「ナビ・タリョン」(嘆きの蝶)、「かずきめ」「あにごぜ」を収録、人生の真実を表現。

感想・レビュー・書評

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  • 強烈な違和感の存在を心に留め置くことに

    平成元年、しかも第100回の芥川賞受賞作。

    平成になって1週間くらいで発表だったみたいですね。

    冒頭ナビ・タリョンという作品が李さんの生き様を表す基本の作品。両親の離婚調停、長兄が医療ミスのような形で動けなくなり、次兄が突然死。

    生まれも育ちも日本である主人公はルーツのある韓国へと旅立ち、そこで韓国の踊り、歌を習う。

    街並みで歌い踊るラストは愛子自身がナビ・タリョン、嘆きの蝶であるようです。

    続く「あにごぜ」「由熙」も同様に、きょうだいと、ルーツと日本との狭間で居場所を探し傷つく主人公たちの話なのですが、「かずきめ」だけ異色な、この本の中では小説色の強い話で、美しくも病的な姉の生きざまが強烈でついついページを行きつ戻りつしながら読みました。引き込まれました。

    最後の芥川賞受賞作の「由熙」は韓国に留学しソウル大学と思われるS大学に通った「由熙」ユヒが、韓国になじめず、頭では理解できてもそれを使えないとか、感覚として、五感で韓国の違和感を感じざるを得ない辛さが書かれた作品で。
    日本にいても恐怖に震え、韓国に行くと日本に馴染んでいる自分をいやというほど痛感し。

    そんな李さんが居場所を求めるための求道は、日本語で文学を記すことだったと、由熙でもエピソードとして日本語の原稿が出てきます。

    それが結実したのがまさにこの本なわけですが、巻末、年譜を見ると芥川賞受賞から3年後、軽い風邪の症状を訴えてから4日で急死しているのです。

    兄2人に続き、お姉さんまで急に亡くしたこの李さんの2人の妹は、親御さんは、と思うと胸が締め付けられます。

    人生がまさに、小説になるべくしてなっているような方ですが、他の方がたは、今も続く違和感と共に過ごしているのです。日本で、韓国で。

    この本を読むことで、その強烈な違和感の存在は、心に留め置くことが出来ると思います。

    まずは知るために、手に取ってみて読んでみてはいかがでしょうか。

    そしてまた、読みたい本たちが。
    じっくりと、読んでいきたいと思います。

  • 収録作が何作かあるが段々とよくなる感じ、決して芥川賞に阿っている訳ではございません。
    この作家を産み出してしまった日本社会・歴史について、考えを巡らさざるを得ない。それ位悲痛な声が聞こえてくる。
    作品の出来からすれば、あまりに直接的で声高であったり、技巧に走り過ぎたりした面が、最終収録作で抑制が上手く効いていて読ませる感じに昇華している。
    作家の成長も見てとれ、そして日本社会を、人間を考えさせてくれる良い文庫です。

  • m

  • 二人の韓国人の目に映った一人の在日朝鮮人の姿が半年間ともに暮らした家の中の様子や近所の景色、思い出話などの中から蘇ってくる。日本に帰ってしまった彼女がまるで亡霊のように浮かび上がる。
    日本語を第一言語としている在日の彼女が韓国語に馴染めなかったのは、たんに韓国への嫌悪が原因ではないと主人公は考える。彼女の日本語へのこだわりはおそらく、それが生まれた時から体に染み付いている言葉だからだろう。しかし、かと言って日本語を使っていれば事態は丸く収まるというわけでもない。本人の言葉を借りるなら、言葉の杖が掴めない。彼女とのそんな会話を思い出した主人公は、まるで亡霊から一撃を食らったかのように、話に聞いていた通り言葉がでなくなってしまい、小説は終わる。
    ここから分かるのは、二人が突き当たったのは人間と言葉の間に横たわる溝、に関わる根本的な問題であるということだ。母国語であろうが外国語であろうが、言葉を自明のこととして使っている自分を疑わずにはいられなくなったとき、人は思わず言葉を失い、主人公はたとえば小説を語り続けることができなくなったりするだろう。しかしそんな危機の中で由熙が膨大な量のエクリチュールを生み出したという実績は確実に残っている。

  • 1988年下半期芥川賞受賞作。南木佳士「ダイヤモンドダスト」との同時受賞だが、この時には司修や吉本ばなな、大岡玲等もノミネートされていた。さて、当該作の『由煕』だが、手法的には鷗外の『舞姫』のように、全てが終わり、もはやどうしようもなくなったところから語り始められる。すなわち時間と空間を隔てることによって、哀しみもまたロマネスクで甘美なものになるのだ。しかし、民族的故郷である韓国への違和によるアイデンティティの喪失はきわめて深刻だ。この小説を日本語で書かざるを得ないところに作者の苦衷はきわまるだろう。

  • 授業で読まされた時とは感じ方が変わっていた。みな形は違えど二つの国の間で揺れ動いていること、在日としての苦悩が描かれていて面白い。でも由煕が一番しっくりくる。

  • 圧倒的に優れていることは分かるんだけども、彼女が書く原動力は「在日」韓国人であることそれ一点から強烈に湧き上がってきていて、そのどこまでもただあふれ続ける様に気圧されてしまう。
    読んでいて「本当に、それはあなたがそんなにも幸せになれないことに見合うだけのことなのか?」と思ってしまう…。
    巻末の渡部直己氏による解説は、本文を読んだ後だと非常に納得の行くものだった。

  • 第百回芥川賞受賞作『由煕』:韓国に留学する在日韓国人の学生・由煕の葛藤を下宿先のオンニの視点から書いた作品。由煕の話は、一部、筆者自身の経歴と重なるようなのだが、筆者自身は早稲田中退後、ソウル大学を卒業し、梨花の修士まで行っているのに、由煕はW大を二年で中退し、S大学も4年になったころ中退している。韓国滞在における由煕の葛藤も、普通の外国人なら「カルチャーショック」と言えるものなのだが。。それが「母国」との葛藤ということで、複雑なものにしている。この話は、元在日の学生としておそらく筆者自身が体験したことに由来しているはずだが、筆者自身は韓国に留まったのに、由煕は韓国を去った。その違いはどこにあるのだろう。文章の中で、由煕の「幼さ」「少年ぽさ」が描かれているが、実際の筆者の容貌はどうなのだろうか、と想像した。

  • £3.00

  • 李良枝の処女作「ナビ・タリョン」、代表作の「由煕」などを収録した文庫。
    これまで、在日女性の苦悩を描いた作品として読まれてきた。
    恐らく金史良などに連なる抵抗文学としてもう一度読まれてもいいはず。
    更にはリブやフェミニズムが提起した女が書くこと、
    エクリチュールにおけるフェミニティの問題系としても読み解くこともできるはずだ。

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