アポロンの島 (講談社文芸文庫)

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  • 講談社
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感想 : 17
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  • Amazon.co.jp ・本 (270ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061975989

感想・レビュー・書評

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  • 小説を読む速度について考える。短くて明晰で乾いた表現をある程度の間隔を置いて、積み上げる、というよりは、地面に並べていく、という印象のあるこの人の文章を読んでいると、そう思う。わたしたちが文字を読む速度と同じ速度で、文章の中の人びとは生きてはいないし、風景は流れていかないし、言葉と言葉の間にある空白以上の空白を人びとは抱えこんでどうにかしようともがいたりしているのだ。そういうことを自分に対して挑発してくる本、のように思う。あと十回くらい読んだらわかるかな。

  • 僕の読む、ごく限られた日本の作家のひとり。地中海世界を旅する作家の若き日の記録。形容詞のない、肉体の運動のような文章。立った。走った。殴った。疲れた。即物的な行動の記述が聖書世界とつらなる内海の光を現前させる。あるいはこれは平易な言葉で綴られた散文詩なのか。激情しないランボオ、空想しないロートレアモンのような世界。

  • 書かれている文章自体は難しくないのですが、意味を汲み取るのが難しい小説です。時間をかけて何度もジックリと読み、細かい心情まで考察するのが適しているタイプの小説だと思います(長さも丁度いい)。
    個人的には『アポロンの島』と『東海のほとり』が良かったです。
    不思議と「深さ」を感じますが、その「深さ」の正体が一体何なのか、それを掴みかねています。

  • シチリア・ギリシャのオートバイ旅行体験を
    志賀直哉ふうの「筋のない小説」としてあらわした連作に
    加えて、戦時下すごした灰色の青春もの数点
    昭和32年に私家版として500部製作したが一冊も売れず
    同人誌を通じて島尾敏雄に拾い上げられるまで、8年かかったという
    執筆時期から、日本流ビート・ジェネレーションと見ることも
    可能かもしれない

    「枯木」 どんな理不尽も神の与えた試練だから受け入れなくてはならない えー 「貝の声」 間男に見間違えられたことがきっかけで おっさんと少し仲良くなる 「エリコヘ下る道」 オートバイ事故の被害者と加害者が ともに死にかけて互いを思いやる 「重い疲れ」 夕方までに目的地を目指す急ぎの旅だが いくつかの出会いはあった 「ナフプリオン」 子供の頃に聞いた伝説の地がいまここにあると知った 「寄港」 港町でつまらないものを売りつけてくる乞食にぶちきれた 「スイスにて」 スイスでは会話のテンポがゆっくりになった 「シシリー島の人々」 知らない人にガソリンを分けてもらったが 宿屋ではぼったくられそうになりずうずうしい子供につきまとわれる 「エレウシスの美術館」 日本人とドイツ人がギリシャの美術館で知り合う 「アポロンの島」 各国からミコノス島に集まった若い旅行者と共に自由を満喫する しかし後事を恐れて欲望に身を任すことはできない 「海と鰻」 著者の実家は有力な商家なので 周辺住民はつまらぬことにも気を使ってくるのだった 「箱船」 喧嘩の加勢かなにかを頼みにパシリが来る話 よくわからん 「東海のほとり」 親友が人妻と仲良くやってるような気がする しかし自分はどちらに嫉妬してるのかよくわからない 「雪の日」 実家の工場で働いてたやつに命令される夢をみた これだから戦争は嫌なんです 「お麦」 死に掛かってる友人を見舞って 変な夢の話を聞かされる 「夕日と草」 生活の不安と男性嫌悪 「動員時代」 不良の仲間を抜け出して徴兵のがれの道を選んだ自分はなんにも間違ってない ナメんな 「海の声」 他国言語を学んでも使い道がなきゃ宝のもちぐされ 教師にでもなるしかない 「遊歩道」 旅に理由が必要か? 男の子は冒険のロマンが好きなんだ 「大きな恵み」 家畜消費の帳尻合わせにもロマンが必要 これは闘牛のお話だよ 「ボス」 悪のロマンチストたちが腹をさぐりあう 「大きな森」 仲間が増えることは自分をバカにする人間が増えることだ その現実に耐えられない

  • 小川国夫は内向の世代に入る作家。わたしにとっては藤枝静男著作集の解説を書いた人だ。余白のある文体が独特で、書かれていないことがページに満ちている感じがある。心象画に添えられている文章を、ここにない画を想像しながら読んでいるような。

    同性の友達に対する半ば恋のような気持ちを描いた「東海のほとり」が印象的。思春期あるあるを懐かしさとともに振り返っているのだけれど、発表は26歳だ。老成してるな、と思った。

  • 学生時代に行った欧州放浪旅行のギリシャ編を"復習"し、満を持して挑戦しましたが、氏の書くこの散文体旅行記の価値をどういうふうに受け止めたらよいのか。。。故郷藤枝での情景が語られる「東海のほとり」もちょっと期待と違いました。

  • 途中まで読んでちょっと放置状態。
    小川国夫の文がとても好きなので購入。あとで読む。
    ともかくも現行で買えるのは嬉しいんだけど、このシリーズはとにかく高いのが厳しいのよね……

  • 日本人版ビートニクのようでもあり、もっと儚げで、清々しい小説。
    淡々と綴られる装飾性のない文体から、ギリシャの強い日差しや土埃の舞うでこぼこ道、霧に煙った港などが迫ってくる。

    この作家の作品は難解で、途中で止めちゃうものが多いのだが、このデビュー作は何度も手にとってしまう不思議な魅力がある。

    他の方のレビューにあった「激情しないランボオ」という表現がぴったりです。

  • 私の読んだものは、こちらの商品ではなく、昭和46年初版の角川文庫のものです。

  • 素直な文章ゆえにヨーロッパの情緒が漂ってきます。私小説ですが、放浪する小さなバイク、ヴェスパで走り回る作者の姿はまるで実体の無い煙のように感じられ、ロマンがあります。
    これも慥かに、幻想小説を冠せられる文学だと感じます。

    名著。朝靄の中にいるような雰囲気を楽しんでください。

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著者プロフィール

1927年, 静岡県生まれ. 2008年4月8日, 帰天. 旧姓静岡高校時代にカトリックの洗礼を受ける. 1950年, 東京大学国文学科入学. 53年, パリ大学に留学. この頃, 単車ヴェスパを駆って地中海沿岸を旅する. 56年に帰国し, 留学と放浪の体験から生まれた『アポロンの島』(57年)によって, 文壇に登場する. 小説作品には, 『試みの岸』『或る聖書』『彼の故郷』『悠蔵が残したこと』『悲しみの港』『ハシッシ・ギャング』ほかがある. 91-95年, 『小川国夫全集』全一四巻刊行. また没後, 『弱い神』『襲いかかる聖書』(2010年), 『俺たちが十九の時──小川国夫初期作品集』『ヨレハ記 旧約聖書物語』(12年)などが刊行されている.

「2014年 『イシュア記 新約聖書物語』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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