外套・鼻 (講談社文芸文庫)

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感想 : 10
  • Amazon.co.jp ・本 (250ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061976504

感想・レビュー・書評

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  • ニコライ・ヴァシーリエヴィチ・ゴーゴリ(1809年~1852年)といえば、ウクライナ生まれのロシアの小説家で、ドストエフスキーなどその後のロシアの偉大な文豪達に多大な影響を与えた作家。ロシアだけでなく日本の芥川龍之介もゴーゴリの作品にインスパイアされ『芋粥』や『鼻』を執筆しており、世界中の作家に影響を与えた作家であるといって良いだろう。

    本書は、ゴーゴリの代表的な中編小説『外套』『鼻』『狂人日記』『ヴィイ』の4篇で構成されている。

    大枚をはたいて購入した外套が盗まれてしまったショック等で死んでしまい外套を強盗する幽霊になる男(『外套』)だとか、突然、鼻がなくなってしまった男の話(『鼻』)や犬の会話が理解できるようになる男の話(『狂人日記』)、魔女である老婆と対決する学生の話(『ヴィイ』)など、その内容はどれも非常にシュールだ。この時代に既にこのような不条理小説が書かれていたというところにまず驚きを感じる。

    ドストエフスキーやトルストイなどのロシア古典文学をここ最近集中して読んでいるのだが、こうやって当時の小説を集中して読むと、当時の19世紀のロシアの庶民たちの暮らしぶりや価値観などがよく分かってくる。
    例えば、当時の1ルーブル(100コペイカ)というお金がどれほどの価値があったかなどである。ちなみに現在の1円と1ルーブルの相場は、1ルーブル=約1.75円だ。

    本書の『外套』に出てくる新しい「外套」の値段が約80ルーブルという記述がでてくるのだが、当時の小役人の月給が月20~30ルーブルで、ボーナスが約60ルーブルということなので、1ルーブルは今の日本のお金の価値に換算すると1万円弱(他の資料だと数千円くらい)ということだ。ただ、本書や他の小説を読んでみると1ルーブルはもう少し価値があったのかなとも思える描写もあるので、1万円までは行かなくても3,000円~8,000円くらいの価値はあったのではないだろうか。つまり、本書の主人公が購入した給料約3か月分の値段の「外套」というと相当高級な外套であったのだ。

    ちなみに、1860年代に書かれたドストエフスキーの『白痴』に出てくる大富豪の主人公ムイシュキン公爵の資産が約10万ルーブルということだったので、分かりやすいように1万円で換算してみると約10億円の資産ということだ。こうやって換算すると、その大きさが具体的に想像できて楽しい。

    このように当時の小説を集中して読むことによって当時の文化や風習、慣習などが想像できるようになり、単品で当時の小説を読むよりも非常に理解が早く、登場人物の心情描写も想像しやすくなる。

    本書はゴーゴリの『ペテルブルグもの』と呼ばれている『外套』『鼻』『狂人日記』が含まれており、ドストエフスキーの傑作『罪と罰』もペテルブルグ(現在のサンクトペテルブルグ)が舞台だ。
    ロシアの首都は古くからモスクワだが、ペテルブルグはモスクワと並ぶ大都市で、ロシアでは『両首都』とも呼ばれるくらいの重要な都市である。モスクワとペテルブルグの距離は600km以上離れており、日本では東京函館間の距離に匹敵する。
    また、ペテルブルグは『魔都ペテルブルグ』と呼ばれることもあり、本書のように摩訶不思議な出来事がおこっても「そりゃ・・・ペテルブルグでならありそうなことだ・・・」というような不思議な魅力をもった街なのである。

    ドストエフスキー、トルストイの両巨頭に隠れてあまり目立たないゴーゴリであるが、本書を読んで非常に面白い作品を書いた作家であるという印象を受けた。特に小役人の描写などは、まさにドストエフスキーが描く小役人の原型であると分かるのだ。
    いろいろと発見ができたゴーゴリの作品。今後も同時代のロシア文学を読んでいきたいと思う。

  • 「ヴィイ」を読みたくて、買った本。
    4つのお話、どれもそれぞれ面白かった。

    1)外套
    ゴーゴリは、このお話をどういう心境で書いたのだろう。
    何となく主人公アカーキイ・アカーキエヴィチから、ちょっと距離を置いた場所から眺めている感じ?がした。
    新しい外套を、まるで新しい伴侶かのように心から想っている主人公の姿は、どこか滑稽に感じ、また哀愁も感じさせ、なんとか応援したくもなった。
    幽霊?化け物?の描写が興味深い。

    2)鼻
    これはしばらく前に読んだのですが…
    発想や話の運びがナンセンスで面白く、
    「鼻が戻ってきて良かったね!」と思った。

    3)狂人日記
    綺麗なお嬢さんをストーキングしている内に、もともとちょっとおかしかったのが発狂しちゃうお話。
    日記の日付が途中からおかしくなっているのが、ちょっと面白い。
    わりかし在り来たりな感じだが、
    なんとなく「ゴーゴリ大丈夫かな…?」と不安になった。
    あとがきを読むと、彼は『死せる魂』の執筆に本当に悩んで、色々あって43歳の時に10日程絶食をして絶命したそうで、想像することすら殆ど出来ないが、苦労は大きかったのだろう。

    4)ヴィイ
    元々授業で映画化されたもの(妖婆・死棺の呪い)を観て以来、個人的にお目当てだった短篇。
    やはり1番面白かった。
    「ホマーどん!」という翻訳が、なんとも好き。
    村のコザックのおじちゃん達が、気の良い人達なんだろうけれどホマーを絶対に村から逃しはしないのが、少し印象的。
    土のかおりがプンプン漂うお話。
    1つ気になったのは、あとがきを参照すると“1833年に書き始められた『ヴィイ』は、主人公と魔女との騎行の情景などによって、ゴーゴリが生涯秘め隠した性の意識をかいま見せている”…と書いてあるのだが、つまるところ“ゴーゴリが生涯秘め隠した性の意識”とは何なのだろう?
    女性の上に乗ってピシピシ叩きながら、「ああ、もうだめ!」と老婆がうら若き美女になること…?
    良くわからなかった。

  • ゴーゴリの短篇集。
    ドストエフスキーは読破出来なかった私ですが、これはすらすら読めました。

    「外套」は、ただただ“かわいそうなアカーキイ・アカーキエヴィチ”のお話。あまりに不憫で悲しくなってきます。

    「鼻」は、鼻が突然パンの中から出てきたり、制服を着た鼻が馬車から降りてくる、という滅茶苦茶な設定。
    しかも、語り手自身が“これはまったくもって理解不能”だと言ってしまっています(笑)
    さらにこうも言っています。“誰が何と言おうと、このような出来事はこの世に起こるのだ”と。
    そうそう、そうだよね。こういうことってあるよ。なぜかそんな風に相槌をうちたくなる作品です。

    「狂人日記」は一番気に入ったお話。自分こそが行方不明の国王なのだ、という妄想に取り憑かれ、どんどん狂っていく男の話。
    彼は本当に精神に異常をきたしていくけど、健常でも人が狂うことはあるのにとも思いました。

  • 水木しげるの漫画「死人つき」の種本が「ヴィイ」だということで読んでみた。「ヴィイ」のみならず「外套」も面白かった。この主人公、山田にしか見えない。このような冴えないサラリーマンの悲哀を描いた風刺的な作品ってもっとないものだろうか。

  • 「我々はみなゴーゴリの外套から出てきたのだ」とドフトエフスキーが言ったとされる名作と裏表紙に書いてある。主人公の名前に関する言葉遊びも面白いと思った。内容は後半にかけての流れはわたしにはあまり響かなかった、そこまで行く前に物語が終わっても充分たのしめた。
     「鼻」と検索したら芥川龍之介の本が出てきた。こちらも読んでみよう。鼻に関する本は案外少なくないのかもしれない。ジャコメッティも頭像を作る際「鼻」が重要だと言っていた(ような気が)。
     ヴィイは民間の伝承をそのまま作品にしたという。魔女や幽霊などの話になっている。
     狂人日記の日付けが狂っていくあたりがいい。最近読んだ青木潤悟の「四十日と四十夜のメルヘン」を思い出した。ただ「日記」という点において。

  • 『外套』は終盤で亡霊が現れる場面にいたって、悲劇ではなく喜劇に変わっている。
    なにも教訓なく読める『鼻』は好きだ。
    『狂人日記』はありきたりである。
    『ヴィイ』はいろいろな要素があって最期までおもしろく読めた。

  • ドストエフスキーの前にまずゴーゴリから。
    冴えない役人である主人公の滑稽さの描写が、いわゆるコミュ障を見てるようで痛々しい!心根は柔和な官憲が目下の者に横暴になるなど、風刺的で寓意的。

  • 昔読んだときは良さが全然わからなかった。
    だが、この翻訳は語りの饒舌さ、落語っぽいリズムが
    存分に活かされており、
    「まじかよ、まじかよ」と思いながら、
    つるりと読破。
    ユーモアあり、マジックリアリズムあり、狂気あり。
    E.T.A.ホフマンの影響があるにしても
    19世紀半ばでコレは本当にどうかしてる!!

  • 113夜

  • こんなんありなん?みたいな。ユーモアって果てしない。

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著者プロフィール

ロシアの代表的な文学者。未完の大作「死せる魂」はじめ「外套」「鼻」など。後代への影響ははかりしれない。

「2016年 『死せる魂』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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