足摺岬 (講談社文芸文庫)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (286ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061976795

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  • 「落城」「霧の中」は歴史風小説(黒菅藩という弱小藩は存在しないらしい)、残りは私小説?
    「落城」は深沢の楢山節考のように、現代とは違う価値観の中で粛々と男が、女が、子供が命を投げ出す。子供が死ぬ順番とか誰の介錯を誰がするとか、妙に細かく淡々と書かれているところがリアルで独特な雰囲気。この背景が戦国時代じゃなくて明治維新の時代であることが、城の中での恭順か抵抗かの意見の違いや、圧倒的な劣勢のなかで全員死に滅亡せざるを得ない諦観とか、今まで歯牙にもかけなかった農民への逆恨みとか、そういうのを冷静に見つめる現代的な視点と古い思想と共に殉死する人々を対照的に描写するのにふさわしい。
    「足摺岬」は、落城の話と特攻隊で死に損ねた青年のなげやりな叫びが微妙にリンクする。他の短編は、孤独と生活苦と、父親に冷遇される憂鬱な寂しさみたいなのが全体を漂っていて、しみじみと読んだ。

    p112「幾十条もの白い波がしらの、身をよじらせながら絶壁に打ちよせてくるその速さが、私が毎日みつづけている青い色のついた夢の中の得体の知れぬものの速さに似ていたのであった。」

  • 「霧の中」
    戊辰戦争にて、無惨にも家族を殺されてしまった会津の少年が
    剣法「抜刀無形流」の達人に学び、これを修めるものの
    植え付けられた平和主義が心の枷となり
    ついにそれを復讐のために使うことができず
    第二次世界大戦の終結まで、むなしく生き延びてしまう話

    「落城」
    戊辰戦争も終盤
    架空の小藩「黒菅藩」の家老たちは政府軍への降伏・恭順を検討していた
    しかし徹底抗戦を唱える部下のクーデターによって
    破滅は決定的となった
    淡々とした筆致で、その最期までを描いてゆくのがこの作品である
    ひょっとするとそこに
    あるべきだった対米玉砕戦のまぼろしを重ねることも可能だろう

    「足摺岬」
    高知県南西部
    足摺岬の断崖絶壁に、飛び降り自殺を図る青年がいた
    それを引き止めたのは
    黒菅藩最後の戦いを生き延びた老人だった
    しかしそれは彼にとって
    死にぞこないの自分自身を慰める行為だったのかもしれない

    「絵本」
    学費と家賃を自分で稼ぎながら大学に通う主人公
    貧乏ゆえ、学問も教養もろくろく修めることができない自分と
    金持ちの家の子供たちとの差を目の当たりにして憤る
    ブルジョア共産主義者への痛烈な皮肉が込められた作品で
    こういうところが平野謙なんかの神経を逆撫でしたのかもしれない

    「菊坂」
    昭和の皇太子…のちに平成の天皇となるおかたが産まれた日
    街のお祭り騒ぎを横目に、散々な仕事を片付けて帰ってくると
    母親の死を知らせる電報が届いていた
    そんな話
    世間から取り残され、見向きもされない人々の不幸

    「父という観念」
    父からの理不尽な折檻を受け続けた少年時代
    理不尽ゆえに、その苦しみを誰にも理解してもらえないところで
    さらなる苦しみにおちてゆく
    普遍的でないものの存在が、世間には許せないのだ
    そういう主人公もまた
    「こうあるべき父」の普遍的観念を追い求めてしまっている

    「童話」
    死病に侵されて実家に送り返される母親と
    一緒に追い出された男の子の話

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