日和下駄 (講談社文芸文庫)

著者 :
  • 講談社
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感想 : 8
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  • Amazon.co.jp ・本 (218ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061976856

作品紹介・あらすじ

「一名東京散策記」の通り「江戸切図」を持った永井荷風が、思いのまま東京の裏町を歩き、横道に入り市中を散策する。「第一 日和下駄」「第二 淫祠」「第三 樹」「第四 地図」「第五 寺」「第六 水 附 渡船」「第七 路地」「第八 閑地」「第九 崖」「第十 坂」「第十一 夕陽 附 富士眺望」の十一の章立てに、周囲を見る荷風の独特の視座が感じられる。消えゆく東京の町を記し、江戸の往時を偲ぶ荷風随筆の名作。

感想・レビュー・書評

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  • 1913~14年に連載された東京散策記。つまり、関東大震災前の東京の光景が記録されている。

    本書を通読して目を惹くのは、荷風の都市景観論である。たとえば…、

    ・東京に都市美があるとすれば、山の手の樹木と下町の水流である。
    ・駅や官庁といった近代建築は、古社寺の風致と歴史とを傷つけないように、慎重に注意すべきだった。
    ・渡し舟には近代生活では味わえない慰安を覚える

    などなど。これらは、現代の都市景観論でも言われている(だけど、あんまり実現されない)ことだろう。徹底的な個人主義者と言われる荷風が、景観という公共性について踏み込んだ発言をしていることに、興味を惹かれる。

    もっとも、川本三郎氏による解説は、荷風の回顧的な散策趣味が、市電の発達といった近代化によって初めて可能になったことを強調しており、面白い。荷風の近代化批判も近代化の所産なのだ。

  • 文学

  • これを書いた当時永井荷風は35歳だったわけですが、文章読むと、もう60越えた老成した人が書いてるような貫禄が漂っててビックリしましたね。
    記載されてる内容についても、今の東京に当時と同じように残っている風景、消えてしまった風景とそれぞれあり、当時の荷風と同じ感慨に私もひたれる、面白い読書でした。

  • 荷風ぶらぶら散歩譚。まずは30代で執筆されたとは思えない、頑なに古き東京の景色を愛そうとするその頑固で老成した姿に驚かさせられる。大戦景気が正に始まらんとする大正初期、誰もが色めき立って駆け足になる時代に荷風は独り散策を続け、見落とされた風景、見捨てられた路地に偏愛を注いでいた。『濹東綺譚』の時と同様、声に出す事で趣がより高まる日本語の流れが素晴しい。速読が流行し効率性が重視される現代において、のんびりと景色を眺めながら散歩する歩幅の如くゆっくりと音読を楽しむ行為は、それだけで一つの態度表明たり得るのだ。

  • いずれ滅びゆく運命にある物事に惹かれる気持ち。

  • 東京に住むと荷風を楽しめることが幸せだなあ。歳を取っても読みたい。

  • 記録することの価値。

  • 永井 荷風氏と一緒に東京を歩いているような気になれる。
    当時としては「あたりまえ」の風景が、
    目の前にうかぶようで、なんだか心地よい。

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著者プロフィール

東京生れ。高商付属外国語学校清語科中退。広津柳浪・福地源一郎に弟子入りし、ゾラに心酔して『地獄の花』などを著す。1903年より08年まで外遊。帰国して『あめりか物語』『ふらんす物語』(発禁)を発表し、文名を高める。1910年、慶應義塾文学科教授となり「三田文学」を創刊。その一方、花柳界に通いつめ、『腕くらべ』『つゆのあとさき』『濹東綺譚』などを著す。1952年、文化勲章受章。1917年から没年までの日記『断腸亭日乗』がある。

「2020年 『美しい日本語 荷風 Ⅲ 心の自由をまもる言葉』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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