寵児 (講談社文芸文庫)

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  • 講談社 (2000年2月10日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (296ページ) / ISBN・EAN: 9784061976986

作品紹介・あらすじ

ピアノ教室の講師をする女は、離婚して娘と暮している。娘は受験を口実に伯母の家に下宿して母親から離れようとしている。体調の変化から、ある日女は妊娠を確信する。戸惑う女が男たちとの過去を振返り自立を決意した時、妊娠は想像だと診断され、深い衝撃を受ける。自立する女の孤独な日常と危うい精神の深淵を〈想像妊娠〉を背景に鮮やかに描く傑作長篇小説。女流文学賞受賞作品。

感想・レビュー・書評

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  • 想像妊娠の主題が生々しく、男性として興味深い。
    主人公のプライドや自己中心性、他者との物差しなど、こういった女性の解像度が非常に高く、少し怖気が走る場面もあり。
    ただこの描写に作者のパーツが幾つか投影されているのは間違いなく、愛着すら感じる。
    表題の見事さ含め面白く読めた。

  • なんで高子は想像妊娠をしたのか?というなぜを紐解く話。
    妊娠を女性の本能の帰結、と位置付けることから実は自分を縛り付けていて、それに気がつき自力で歩いていくために殻を破れた高子の姿が静かにカタルシスだった。後半一気に話が動くのに無理なく読める。
    津島祐子さん、お父さんよりもずっと文才があるのでは‥。

  • 想像妊娠、なんていうからもっと奇っ怪な妖しい話かと思いきや、ずっと現実的だったのがよかった。美しい夢の書き出しに騙された。笑
    高子は、ありのまま、を愛している。ありのまま。石原千秋のいうところの本能と成長への反抗。その根底には死んだダウン症の兄の生き方がある。飾らないこと。偽らないこと。剥き出しにするしかないこと。理性を持ちようのない状態、それを高子は性の奔放さでしか追随できなかった。それが高子の美徳だった。
    男無しじゃ生きられないようにみえて、人一倍自立していて…それが一人娘夏野子への愛着として映り、お腹の子を私生児にするという決意に落ちる。面白いくらい共感してしまった。私も、自分の子は、自分だけの子だと思う瞬間がある。私が私だけの力で宿して生んで育てる。母親はやっぱり病かもしれない。
    作者自身のことを大いに反映しているのを後書きで知り、それまた面白く。いい小説だった。

  • 高子が子供じみていて違和感が虚構の力を上回れなかった。自立できていない(「自分の気持ちを優先する人」)のに、夏野子を自分の庇護下に置こうとしたり長田や姉の視線をうっとおしく感じていたりして若干イラっとしてしまった。冒頭の透き通った山の描写と想像妊娠発覚後に星雲の夢を見るところ、最後にキッズにおもちゃの銃で撃たれるくだりは良かった。

  • 36歳の高子は、離婚した畑中とのあいだに生まれた夏野子という娘とともに暮らしています。彼女はときどき土居という男と関係を結んでいますが、土居は高子や夏野子の気持ちを慮るような男ではなく、妻にも子どもを産ませてもいっこうに平気な顔でいます。

    その後高子は、畑中の友人の長田という男とも関係をもつようになります。やがて彼女は、長田の子どもを身ごもったと信じ込み、しだいに彼女の身体にも変化が生じます。夏野子は、母親としては奔放にすぎる高子との生活に疲れ、高子の姉のもとに身を寄せ、姉も高子の振る舞いに眉をひそめて苦言を呈します。

    ところが、病院をおとずれた高子は、お腹に子どもがいないという驚くべき事実を告げられます。妊娠した子どもを産みたいという高子の宣告を受け、その後じつは想像妊娠だったと教えられた長田は、彼自身が誠実だと信じるしかたで高子の思いを受け止めようとしますが、それは高子自身の思いとはまったくかけ離れたものであり、彼女を傷つけるだけに終わります。

    身勝手な男で、夏野子に対しても辛くあたる土居と、自分では誠実なつもりでありながら、じっさいは高子の気持ちに対して鈍感で彼女を深く傷つける長田が、対比的なしかたで登場します。一方で、彼らが性と出産をめぐる高子の思いをいっこうに理解できず、想像上のお腹の子どもとともに生きようと考える高子の孤独な心のうちがえがかれています。

  • 高子にイライラしていたのに、最終的には男たちにバカにされたような彼女を応援したくなっていた。
    想像妊娠させるほどの女のエネルギーにあてられる。

  • 後半に読み進めていくて面白くなります。想像妊娠をしてしまった高子。離婚した元旦那の中立的な立場の人に相談して、次第に関係をもつようになる。まさかのプロポーズされるが1人で生きていくことになる。

  • 言葉に装飾を施さず、話を進めるのが早い作家だと思う。その意味では読みやすい。

  • 2017.6月分

    夫と離婚し、孤独な立場の主人公の高子。娘の夏野子は、高子の姉の裕福な家に下宿する。1人で暮らすようになった高子はある時、自分が妊娠していることに気づく。その妊娠をきっかけに今までの男性との関係を思い出して物語が進んでいく。子供の父親が誰か特定できないほどの自分の止まらぬ性欲と、愛を求める一面と、そして夏野子を育てる母としての一面が交差して、高子を苦しめていく。
    お腹はどんどん大きくなっていき、高子は1人で中絶することを決断する。この中絶という決断に至るまでの高子の心境は、読んでいて辛くなる。

    しかし中絶と決断したものの、医者から胎児はいない。想像妊娠していると告げられる。高子は自分の愛して欲しかった人の子供を授かりたいという気持ちのあまり、妊娠したと勘違いし、どんどん太っていたようだ。
    絶望と再び孤独の闇に落とされる高子だが、1人で強く生きていく姿が最後に描かれている。

  • 孤独って、本人の気づかない内に、暗い闇へと引きずり込むんやろうなぁ…。

  • 太宰の文才は太田治子ではなく津島佑子に継がれたのね、が第一印象。

    高子の奔放で独立心の強い生き方は、津島佑子の父親の愛人達の姿ではないのか。それを描いた津島佑子の心境はどんなものだったのか、父が自殺した後のこの作者とその母の生き方はどんなものだったのかとても興味を覚える。

  •  読了。

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著者プロフィール

津島 佑子(つしま・ゆうこ) 1947年、東京都生まれ。白百合女子大学卒業。78年「寵児」で第17回女流文学賞、83年「黙市」で第10回川端康成文学賞、87年『夜の光に追われて』で第38回読売文学賞、98年『火の山―山猿記』で第34回谷崎潤一郎賞、第51回野間文芸賞、2005年『ナラ・レポート』で第55回芸術選奨文部科学大臣賞、第15回紫式部文学賞、12年『黄金の夢の歌』で第53回毎日芸術賞を受賞。2016年2月18日、逝去。

「2018年 『笑いオオカミ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

津島佑子の作品

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