初舞台・彼岸花 里見トン作品選 (講談社文芸文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061983328

作品紹介・あらすじ

娘の自立していく姿に思い悩む、旧制高校同窓の男達の友情を追った表題作「彼岸花」、女主人の嘘が許せず自らの片腕を切り落とす「銀二郎の片腕」、上官の夫人を伴った戦地からの引揚げの悲惨な旅の中で育つ奇妙な愛情を描く「みごとな醜聞」等、初期から戦後作まで八篇を精選。巧みな会話運びで人情の機微をとらえ、「名人芸」と声価の高い、人間観察の妙趣を味わう名作集。

感想・レビュー・書評

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  • 『河豚』
    歌舞伎役者の実川延童は、舞台の帰りによった広島の河豚やに寄った夜から体が動かなくなった。気持ちは普段よりハッキリしているくらいだし、こんなこと気に死ぬなんてあまりに馬鹿馬鹿しくて可笑しくなってしまうくらいだ。
    だが時間を追うごとに実川延童の命は微かになってゆく。

    ===作者里見弴が、妻となった芸者の母から聞いたという話を小説化したらしい。

    『俄あれ』
    脳味噌がグズグズ煮えたぎるような7月の午後。俄に起こる暴風雨。
    客は友人の家を訪ねて、細君に客間に通された。大雨と雷に閉じ込められた家で客は考える。今この家には二人だけなのだろうか。細君の言葉には裏の意味でのあるのだろうか。
    始まったときのように突然去った嵐。雲の切れ目から陽の光が指し、亭主が帰ってくるのが見える。
    自分たちでも気が付かないうちに、総ての危機は綺麗に去って了っていたのだ。

    ===日本語の波に攫われるような感覚。
    「南と北との境界にも大きな木立が高く低く立ち並んで、遠く東べりへの森へと、陽炎に揺らめきながら連なり走っている。それにまたこの区割のなかには、兵士の鋲打ちの靴の下に僅かに生き残った夏草が、所々を生気のない緑に縞どっている他には、立木とて殆ど一本もなかった。で、劇しい陽光に飽満して、熱のために震えている蒼穹は、見渡す限りの赤土の表面と直べたに顔を向き合わせているうちに、お互いの強情に腹を立てて、渋面に膨れ返ってしまった。そのとの風もない…。仲裁するものがなければ今に撲り合いを始めるだろう…。小禽はもとより大鳥すら、あえてその空を横切らなかった」

    『銀次郎の片腕』
    都市の半分は深い雪に鎖ざされる地方のその牧場は、亭主に死なれ体の動かなくなった舅を養いながら男に混じって働く女主人が仕切っていた。牧場で働く牧夫の銀次郎は、癪性的な潔癖で、嘘や憎しみや暴力は構わないが、それを取り繕うことを極度に嫌っていた。
    銀次郎は飾りない女主人を尊敬していたが、そんな女主人の取り繕った善人面を見てしまい…。

    ===題名がなんか怖いと思ったら、やっぱり怖かった。。

    『椿』
    寝室に二枚の布団、寝ている姪とまだ起きている叔母。
     パサッ。
    その気配に二人の女は驚き、互いのその顔にギョッとする。
    ひとしきり驚いた時間が過ぎたあと、今度は笑う、笑う、ただもうくっくと笑い転げる。だって夜中だし大声出せないしなんでもなかったし、もう可笑しくって可笑しくって…。

    ===怖いと思ったら一緒に笑ってしまうようなこの読書体験。

    『鶴亀』
    転んでしまった鶴おばあちゃん。もう死んでしまった妹の亀さんがいた。鶴さんは亀さんの娘たちの親代わりだった。

    『みごとな醜聞』
    憲兵上等兵の足立は、満州から引き上げのときに上官浅野少将の妻と娘とを日本に連れ帰るように頼まれる。
    悲惨な旅路の末の帰国。取り返せないものを失った。だが逞しくもなった。
    浅野夫人を親戚の家に送り届けた足立に、家の者は”わかっていますよ”とばかりに夫人と同じ寝室の一枚の布団を用意する。怒って家を出る足立を追う浅野夫人は、深窓の上流奥様から気風の良いかみさんになっていた。
    苦労の末帰国した日本では、彼らの関係は美事な醜聞だったのだ。

    『初舞台』
    女形芸人の純(あつし)は十八で結核を患った。
    家族が付けた看護婦として都河よしえがやってくる。二十後半の未亡人、ぷっくり肥満して老けて見える女。
    それでも純と都河の間には次第に親しさとツーカーの呼吸が出来上がっていた。
    そして体の具合がよくなってくると純は都河を男が女を見る目を寄せることになる。

    『彼岸花』
    学生時代から付き合いのある男たち。
    安藤の娘は嫁に行った。三上は娘の結婚に反対して娘は家を出ている。娘を溺愛する平山は娘の縁談が気に入らない。すでに他界している河合の妹は家を次ぐため結婚はできないだろうと思っている。
    「帰りの電車で、保土ヶ谷へんからかしら。あっちこっち、真っ盛りの彼岸花で、…すうすうすうすうと背後に流れてゆく紅いもんが、だんだんぼやけだして、…あんな華美な色で、どうしえtこうも…いいえ、ちっともかないいわけじゃあないんですけど、どうしてだか、へんに涙が零れちゃってね…」
    そんな彼らの心も少しずつ動き、それぞれの娘たちも…

    ===全体的に、笑う娘さんという像が頭に浮かぶような描写の短編集。

  • 全体的に説明が少なくて、平明な言葉で書かれた日本の小説なのに自分には背景がわからない感覚がおもしろい。最終的には話が見えるし、登場人物の吐息や体臭が伝わってくるようなリアリティもあるのだけれど、時間旅行をするような開き。口語表現が古めかしいからかもしれない。昔の映画が好きな人は入り込みやすいかも。

    「俄あれ」「鶴亀」「みごとな醜聞」がよかった。

  • 文豪の名作集。人間観察とはこういうことを言うのだと思いました。「どの行の裏にもピチピチと生(いき)のいい生命が躍っている」(和辻哲郎)。

  • ううむ、名人芸と言われるだけのことはある。繊細なくせに妙に力強い。そしてタイトルが完璧すぎる。他の作品もいずれ読む。

  • 粋なんですよね。文章が。私は好きな作家のベスト5に入る人です。

  • 人間の滑稽で、切ない面を生き生きと描いていて良い。話の調子が面白いさね。

  • 私のストライクゾーンど真ん中。
    特に「見事な醜聞」が素晴らしい

  • 「銀二郎の片腕」という短編が好きなんです。銀二郎のキャラが面白い。なんなの、この人。怒りのあまりを腕を斬り落としてしまうなんて。イメージ的には星一徹さんなんですけど。太い眉=一徹。貧困な発想だ。

  • 名作と言われている椿を初めて読んだ時は、何が凄いかわからなかった。2回目にようやくその凄さがわかった。椿の落ちた場面、そして女たちが笑う場面だ。

  • とん先生の作品のリズム感、抑揚、たるや小気味よし!

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