戦後短篇小説再発見14 自然と人間 (講談社文芸文庫)

制作 : 講談社文芸文庫 
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感想 : 2
  • Amazon.co.jp ・本 (264ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061983441

作品紹介・あらすじ

自然の中に揺曳する生の原風景-故郷の山河、庭の草木、思い出の道、風の音…自然の姿に想いを仮託する十篇。

感想・レビュー・書評

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  •  娘に言われて,確かに子供には子供道があると,私は思った。犬道に気をとられて,子供道に思いを致さなかったのは,われながら不覚に思われた。私は書斎に引き返すと,縁側の籐椅子に凭れて,芝と紀州の二匹の犬が春の陽光を浴びて寝そべっているのを眺めながら,犬道ならぬ子供道のことを考えた。私は伊豆半島の中央部の天城山麓の山村に育っているが,子供の時のことを振り返ってみると,村中を何本かの子供道が走っていたことに気づかざるを得ない。渓谷の共同風呂に行くにも,子供たちは自分たちだけの道を持っていた。毎朝の登校路など今考えてみると奇妙なものである。田圃の畦道を通り,小さい崖を降り,何軒かの農家の背戸を縫った上で,小学校の前を走っている往還に出る。そんなことをしないでももっとまともな道があった筈であるが,子供たちは何とはなしに旧道でも新道でもない自分たちの専用道路を作っていた。歩きにくい上に遠回りになる,道とは言えないような道を選んで,もっぱらそこだけを使っていた。
    (井上靖「道」 本文p72-73)

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著者プロフィール

円地文子(1905.10.2~1986.11.14)小説家、劇作家。東京生まれ。国語学者の家に生まれ、幼時より古典に親しむ。「ひもじい月日」で女流文学者賞。著書に『妖』『女坂』(野間文芸賞)『なまみこ物語』(女流文学賞)『朱を奪う者』(谷崎潤一郎賞)『遊魂』(日本文学大賞)『円地文子訳 源氏物語』(全10巻)がある。
佐多稲子(1904.6.1~1998.10.12)小説家。長崎県生まれ。26年、同人誌「驢馬」の同人(中野重治、窪川鶴次郎、堀辰雄など)と出会う。28年、「キャラメル工場から」を発表。プロレタリア作家として出発する。著書に『くれなゐ』『女の宿』(女流文学賞)『樹影』(野間文芸賞)『時に佇つ』(川端康成文学賞)『夏の栞-中野重治をおくる-』(毎日芸術賞)など。
宇野千代(1897.11.28~1996.6.10) 小説家。1921年、『時事新報』の懸賞小説に「脂粉の顔」が当選。36年、ファッション雑誌「スタイル」創刊。着物デザイナーなど実業家としても活躍。著書に『おはん』、『色ざんげ』、『或る一人の女の話』、『幸福』(女流文学賞)、『雨の音』(菊池寛賞)など。

「2014年 『個人全集月報集 円地文子文庫・円地文子全集 佐多稲子全集 宇野千代全集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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