異域の人・幽鬼 (講談社文芸文庫)

著者 :
  • 講談社
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感想 : 6
  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061983601

作品紹介・あらすじ

半生を西域に捧げた後漢の人・班超の苦難に満ちた道と孤独な魂の彷徨を追った「異域の人」、留学僧・行賀の在唐三十一年の軌跡と、入唐した日本人のさまざまな生の選択を描いた「僧行賀の涙」、謀反へと明智光秀を導く心の闇に巣くった亡者に迫る「幽鬼」など、歴史小説の名作八篇を収録。時代の激動を生きぬいた人間の姿を比類なき語りの力で描破する井上文学の魅力溢れる一冊。

感想・レビュー・書評

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  • <異域の人>
    最果ての西域で軍人として一生を終えるオトコの物語。

    軍人として名を上げるため、故郷を遠くはなれ、命を賭して生きる人生。

    平和日本に住むボクが理解することは不可能かもしれない。

  • 言葉が難しい。でも文章が美しいと思った。これが純文学作家なのかしらん。

  • 歴史小説の短編八作品を収録しています。

    「幽鬼」は、本能寺の変をめぐる明智光秀の心の不安を象徴的にえがいた作品であり、「平蜘蛛の釜」は、松永久秀の織田信長に対する思いを主題的にあつかっています。

    他方で、ある人物の生涯のなかのひとつの局面を切り取ったものではなく、時代のなかでそれぞれのしかたで生きた一人の人物を俯瞰的な視点からながめた作品もあります。たとえば「異域の人」は、後漢の時代、西域で長く活動をつづけた班超の生涯をあつかったものです。また「信松尼記」は、武田信玄の五女である信松尼が戦国時代のなかで翻弄されつつ生きたすがたをたどり、「僧行賀の涙」は、遣唐使の一員として唐に派遣された行賀という僧の帰国するまでの活動とその心境をえがいています。

    このほか、安閑天皇陵から出土した玉碗をもとに、主人公が亡くなった妹夫妻を回想する「玉碗記」や、著者とおぼしき人物が大学図書館に務める田津岡竜英という人物から匈奴をめぐる物語を聞かされる「明妃曲」なども、小説を読むことのたのしみをあじわえる佳品だと感じました。

  • 井上靖の短編小説。特に西域物である「異域の人」・「明妃曲」・「聖者」が個人的にお気に入りである。

    西域都護として有名な班超にスポットを当てた「異域の人」は、班超自身が西域遠征に半生を費やすうちに西域の匈奴人のように「皮膚と眼の色」を変え、老胡人と化していた。
    これは「僧行賀の涙」で、帰国した僧行賀がまさに漢人のようになっていたのに似ている。国家の事業に自らの半生を賭した彼らだが、結果的にその功績は報われなかった。
    しかし、こういった人生を歩んだ班超や行賀にはなんとなくシンパシーを感じてしまう。

    王昭君にスポットを当てた「明妃曲」も、本来の悲しい王昭君の物語とは別のサイドストーリーが描かれる。匈奴として愛する単宇と生きる王昭君という話の方が、夢があって人間らしさ溢れる物語となろう。

    「聖者」は。スキタイ人のある集落の伝説を扱ったものである。合理的な方法を用いて旧来の慣習を否定していった結果、その集落は水没し消滅してしまうというものである。人間の安直な近代化を戒めた伝説として教訓談としても面白い。

    他に武田信玄の娘にスポットを当てた「信松尼記」や「幽鬼」、「平蜘蛛の釜」など時代小説も必読すべし。情景描写がリアリティがあり、読む物を中世の乱世へと誘ってくれる。

    西域やシルクロード好きには珠玉の一冊である。

  • 「天平の甍」以外で初めて井上靖を読んだ。

    文章のあちこちに、郷愁が溢れてるなあと思う。
    そして美しい。

    「僧行賀の涙」。
    唐に留まっているとき、そして帰国したとき。
    それぞれに違った望郷の念がある。
    杜甫の春望は、どんな人にも少なからずある寂しさなのかもしれない。

    井上靖の小説に悪人はいない、と評した人がいるらしいが、
    まさにその通りだと思う。
    誰も人を害するために生きているのではない。
    少しずつの行き違いが、悲しくなってしまう。

  • 収録内容
    ■「玉碗記」
    記紀に登場する安閑天皇とその愛妃の所蔵品であったペルシャ産の2個1対のカットグラスが、彼らの死後別々の運命を辿り1000余年の時を経て並ぶ、その現場に立ち会う話。

    ■「異域の人」
    北匈奴と境界を争うべく遣わされた後漢の武人、班超の伝記風物語。中島敦の「李陵」を無味乾燥にした感じ。

    ■「信松尼記」武田信玄の娘、松姫を通した戦国乱世の武将たちの残酷、家同士の争いと武田氏の没落を描いた短編

    ■「僧行賀の涙」
    第10回目の遣唐使の一員として唐に渡った僧侶・行賀は31年もの修行を経て帰国したものの、既に日本語がおぼつかなくなっていて何を訊いても答えられず涙する。長い異国暮らしで留まるもの、変わるもの。

    ■「幽鬼」
    本能寺へ明智光秀を誘ったのは波多野氏の武士たちの亡霊だった。

    ■「平蜘蛛の釜」
    信長になびかなかった松永久秀の所有する有名な茶釜のエピソード。

    ■「明妃曲」匈奴ファンを自称する「私」が図書館職員から聞かされた王昭君(後宮に召されながら匈奴の王へ差し出され、異国に骨を埋めた美妃)にまつわる話。

    ■「聖者」イシク・クル湖の成立にまつわる童話的なお話。これはよかった。

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著者プロフィール

井上靖
一九〇七(明治四十)年、北海道生まれ。静岡県に育つ。京都帝国大学哲学科を卒業後、毎日新聞社に入社。五〇年「闘牛」で芥川賞を受賞し、五一年に退社、作家生活に入る。五八年『天平の甍』で芸術選奨文部大臣賞、六〇年『敦煌』『楼蘭』で毎日芸術賞、六四年『風濤』で読売文学賞、六九年『おろしや国酔夢譚』で日本文学大賞、八二年『本覚坊遺文』で日本文学大賞、八九年『孔子』で野間文芸賞など、受賞作多数。その他の著作に、『あすなろ物語』『しろばんば』ほか自伝的小説、『風林火山』『淀どの日記』ほか歴史小説、『氷壁』ほか現代小説など。七六年、文化勲章を受章。六九年にはノーベル文学賞の候補となった。一九九一(平成三)年死去。

「2022年 『殺意 サスペンス小説集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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