花衣 (講談社文芸文庫)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061983762

作品紹介・あらすじ

人生の落日を心身に自覚した男と、いのちの盛りの女。俗にいえば中年の男女のありふれた情事。だが昇りつめた二人を死の影が一閃、恋いは華やぎの極点で幻の如く頽れる。満開の桜の恐ろしいまでに静まった美(「花衣」)、満潮には海に没する砂嘴の無限の美(「岬」)等、歌人にして作家上田三四二が、磨きぬかれた日本語の粋と、大患で得た生死一如の感覚をもって、究極のエロスを描く連作短篇集。

感想・レビュー・書評

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  • アララギ派の歌人が紡ぐ、死とエロスの短編集。
    茜の空、着物の帯、桜、など執拗なくらいの描写が映像のよう。

  • 著者は大正期のアララギ派歌人・小説家・医師。紫綬褒章受章。癌の罹患が転機となった。

    8つの短篇を収める。人生の盛りを過ぎた主人公が実りのない恋に身をゆだね、そこにはいつも死の影がつきまとう。しずかな夢幻の世界である。
    全体的に暗く抽象的で言葉が立ちすぎるきらいはあるが、表題作の馥郁たる香りを放つような美文には震えた。
    牧子は姿は花の精だが本性は蛇であり、主人公を狼にする。官能を極めたのちに女は消え、あとに匂いだけが残る。満開の桜に女の魔性や死を重ねることは珍しくないが、死の予感と生臭い情欲が女の美をいっそう華やがせており、恋が華やぐほど残された男の喪失感が際立つ。
    「敗荷(はいか)」で、死を悟った男が蓮池にみてとる浄土が印象的だった。蓮が咲き暖かな陽光がふりそそぐ楽園ではなく、冬のしらしらした光の下で枯蓮の間を鴛鴦だけが泳ぐ静かな世界。この時がとまったような静けさは全篇に共通して感じられる感覚である。
    女の心情に迫ったもののなかでは「橋姫」がよく、主人公に共感した。

    自分が主人公たちと同じ年齢になってから味わいたい作品集。


    蛇足だが、解説で古屋健三が「花衣」の交情の場面の「……」をピンの落下音と説明するが、1頁目の同じ表現を勘案すると穿ちすぎた見方ではないだろうか。

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