日本文学史早わかり (講談社文芸文庫)

著者 :
  • 講談社
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本棚登録 : 89
感想 : 5
  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061983786

作品紹介・あらすじ

古来、日本人の教養は詩文にあった。だから歴代の天皇は詞華集を編ませ、それが宮廷文化を開花させ日本の文化史を形づくってきたのだ。明治以降、西洋文学史の枠組に押し込まれてわかりにくくなってしまった日本文学史を、詞華集にそって検討してみると、どのような流れが見えてくるのか。日本文学史再考を通して試みる文明批評の一冊。詞華集と宮廷文化の衰微を対照化させた早わかり表付。

感想・レビュー・書評

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  • 女子大生の皆さんと出会っていると、僕自身の無知もさることながら皆さんがモノを知らないことに唖然としてしまうことが多い。知らなくてもいいことかもしれないけれど、知っていたほうがいいことのひとつに文学史がある。

    どの作品を誰が何時書いたか、そんなふうに要約されがちなジャンルだけれど、本来は違う。万葉集以来、ハハハ、大きく出ましたね、どれほどの書物が、この国において、文学の範疇として残されてきたのかしらないけれど、それが何故その時代の、その人物によって書かれたのか、そう考える所に文学史の意味があるのであって、そこが文学史の「史」たる所以というものだ。

      文学を文化現象として捉える為の文学史。

     そう考えると、もう亡くなって久しい、丸谷才一という小説家の名前がすぐに思い浮かぶ。「日本文学史早わかり」(講談社文芸文庫)、「忠臣蔵とは何か」(講談社文芸文庫)、「恋と女の日本文学」(講談社文庫)の三部作がわれわれ素人向けに書かれた丸谷流日本文学史の真骨頂。

      たとえば、「忠臣蔵とは何か」では歌舞伎の演目としての忠臣蔵において、例えば討ち入りのシーンは何故あのような火事場装束という衣装の役者によって演じられたのか、ということを考察のきっかけとして、御霊信仰の文学的意味について懇切丁寧、且つ薀蓄山盛に語っていて、文化人類学がらみで文学史に興味を持っている人なら、読み出したら止まらないに違いない。

      「恋と女の日本文学」では中国の古典文学には恋の話が極端に少ないのに対して、万葉から源氏物語に代表されるわが国の古典は「恋」だらけ。いったいこの違いはどうしてだろうというのが基本テーマ。

      丸谷才一が言うには、この違いに関心を持った、おそらく最初の人物が本居宣長。「石上私淑言(いそのかみのささめごと)」(宝暦十三年・1763年)という「もののあわれ」について論じた書物の中で以下のように論じているらしい。丸谷才一現代語訳を引用する。彼は旧仮名遣いの人なのであしからず。

     《人間が好色なのは、昔も今も、日本も中国も、みな同じだが、中国歴代の史書を読むと、あの国は日本よりも淫猥なことが少し多いやうである。ところがあの国は、何につけても倫理善悪のことだけうるさく言ひつのるのが癖になってゐて、好色のことなども例の賢ぶる学者たちが非難してあばき立て、憎々しい口調で厭らしさうに書き記す。さういうふわけだから、詩にしても、自然さういふ国の風俗に従い、堂々たる男子の雄々しい心構へについて言ふのが大好きで、それだけをあつかふ。めめしくて見つともない恋情の情など、恥ぢて口にしない。しかしこれはみな、表面を取りつくろい、偽る態度で、人情の真実ではないのに、それを読む日本人は深く洞察せず、中国の詩文にあるのを事実と思ひ込み、中国人は色情に迷ふことが少ないなんて判断する。馬鹿げたことである。わが国の人は何につけても寛大で利口ぶらないため、道徳をうるさく言ひ立てることもしない。人生の姿をありのままに表現した本のなかでも、歌にまつはる物語などはとりわけ「もののあわれ」を大事にしてゐるので、色好みな人びとの感情を率直勝つ流麗に書き記す。(以下略)》

      宣長がこうした主張にいたった事情について、丸谷は二つのポイントを指摘する。

      ひとつは西洋近代の恋愛小説を知らなかったにもかかわらず、こう主張した宣長の恋愛体験について。

      もうひとつは宣長が日本の古典のみならず、漢文の書物についても非常に博学多識、勉強家であった点。

      もちろん、日本文学に関する考察としてはここが始まりであって、宣長の影響下に明治の小説群もあったというのが作家の主張。

      ついでの話だが、宣長が平安朝の美意識を評して使い、定着している「もののあわれ」という用語の出典は藤原俊成の歌だそうである。

     恋せずは人は心もなからまし もののあわれもこれよりぞ知る  藤原俊成
     
      この本の後半では、丸谷は「女の救われ」というテーマで今度は平家物語の悲劇のヒロイン建礼門院徳子めぐる考察を繰り広げる。これまた面白いのなんの、ハハハ、要するに皇后さんの男性遍歴についての考察なんですね。面白がり方が少しおっさんかもしれない。反省!

     ともあれこの本は講演を元にしていて、読むのに手間がかからない。教養の間口を広げる読書としてはオススメ。(S)

  • ふつう、ジェイムズ・ジョイスを専門とする学者が日本の古典に深く傾倒することなどまずない。けれども、幸運が重なった。ひとつは、T・S・エリオットが伝統について論じてくれていたこと。もうひとつは、丸谷才一が学者ではなく小説家であったこと。
    おかげで、丸谷才一は、例えば『古今和歌集』、『新古今和歌集』、『千載集』を読む、あらゆる時代の読者の身になってみるという暴挙に出られた。まずは「実感」から出発することができた。
    おかげで、勅撰集を軸に、日本文学を分類することができた。学者は彼に、感謝しなければならないだろう。

  • 通説である政治史と文学史を一致させた区分ではなく、著者独自の勅撰集・七部集を基準とした時代区分に新鮮味を感じた。

    文学者というのは、新説を提起する存在でなければならないのだなあという感想を抱いた。

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著者プロフィール

1925-2012。作家・英文学者。山形県生まれ。東京大学英文科卒。「年の残り」で芥川賞、『たった一人の反乱』で谷崎潤一郎賞など受賞多数。他『後鳥羽院』『輝く日の宮』、ジョイス『ユリシーズ』共訳など。

「2016年 『松尾芭蕉 おくのほそ道/与謝蕪村/小林一茶/とくとく歌仙』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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