狂人日記 (講談社文芸文庫)

著者 :
  • 講談社
3.83
  • (59)
  • (40)
  • (73)
  • (5)
  • (2)
本棚登録 : 528
レビュー : 70
  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061983816

作品紹介・あらすじ

狂気と正気の間を激しく揺れ動きつつ、自ら死を選ぶ男の凄絶なる魂の告白の書。醒めては幻視・幻聴に悩まされ、眠っては夢の重圧に押し潰され、赤裸にされた心は、それでも他者を求める。弟、母親、病院で出会った圭子-彼らとの関わりのなかで真実の優しさに目醒めながらも、男は孤絶を深めていく。現代人の彷徨う精神の行方を見据えた著者の、読売文学賞を受賞した最後の長篇小説。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  •  小説を読んでいて「これ、俺のことじゃないか?」と思えることってあると思う。
     ちょっとおかしな人だったら「断りもなく俺のことを書きやがって」と著者にクレームを入れる、なんてこともあるだろう(実際にあった訳だし)。
     僕はそこまで頭がおかしく……って書くとまずければ……純情無垢じゃないから、そんなことはしないけれど、読んでいる間「これ、この狂人、俺にそっくりだよな」とずっと思っていた。
     生き方が似ている、というか、他人への接し方、外の世界への接し方、社会との折り合いのつけ方、要するに己自身への接し方、それらがまるで自分を客観的に見ているように描かれている。
     そりゃそうだよ、こんな生き方してたら精神が疲れちゃうよ。
     実際、僕自身が今、職を探してあえいでいるのは、数年前に精神を壊して、仕事が続けられなくなったから。
     この本の主人公みたいに幻影を見ることはなかったけど、幻聴はあった。
     入院するまで重くはなかったけど、そこで人生、かなり狂わされた。
     そんなこんなの自分の影が本の主人公に重なりあって、読んでいる間、ずっとずっと得体の知れないプレッシャーがのしかかっていたように思う。
     そして、とてつもなく「生々しい」。

     圭子さんだって、これじゃ浮かばれないだろう。
     ずっとずっと彼を助けられなかった、彼を裏切った、そういった自責の念に苛まれながら生き続けなきゃいけないんだから。
     彼女の心中を察すると、そりゃ切ないし悲しいし、何とも言えない。
     彼女だって精神が異常なんだから……。
     つらいよね……つらい。
     それでも圭子さんは許されたんだから、母親よりも良かったのかも知れない。
     そういえば、同じく色川武大の「怪しい来客簿」に書かれていた印象的なフレーズを思い出した。
    『私たちはお互いに、助け合うことはできない。許しあうことができるだけだ。そこで生きている以上、お互いにどれほど寛大になってもなりすぎることはないのである』
     まさにそれを地でいったのが主人公なのだろう。
     最後の最後に主人公が発する言葉。
    「俺もつれてってくれ。おとなしくしてるから」
     これこそが、この主人公が、心の底から素直に発することが出来た、生まれて初めての、そして最後の言葉だったのではないだろうか。
     最後の最後に、やっと自分に正直に発することが出来たのではないだろうか。
     そう考えると、余計にむなしい。
     本当に本当に、つらい……つらい……たまらなく、つらい。

     この本に巡り合ったことに感謝している。
     ただし、後悔することになる可能性も含まれているだろうな、とあくまでも自分自身を客観的に顧みて、嘘偽りなくそう感じている。

  • 福武書店のハードカバーのほうも登録してあるけど最近再読したくてこちらを買って再読した。

    いくつも泣きそうになる箇所があるんだけど、圭子の「生活って最高のことをすることよ」っていうせりふがぐっとくる。

    あとは主人公の控えめだけど気風がいいやさしさというか。

    きっとこれからも何回も読むんだろうな。

    • 美希さん
      >fountainさん☆

      ありがとうー。
      私はブクログ談話室の使い方がよくわからない・・。前一回書き込みに成功したんだけどその後成功...
      >fountainさん☆

      ありがとうー。
      私はブクログ談話室の使い方がよくわからない・・。前一回書き込みに成功したんだけどその後成功せず・・。
      2012/05/17
    • UGさん
      色川さんの小説は何度読んでも味わい深いです。自分の狂気を冷静に分析しながらも制御できないやるせなさ・・・他者との距離感を上手く掴めず悶絶する...
      色川さんの小説は何度読んでも味わい深いです。自分の狂気を冷静に分析しながらも制御できないやるせなさ・・・他者との距離感を上手く掴めず悶絶する日々・・・
      制御できない自分と向き合うことがどんなに怖いことでしょう。
      2012/05/26
    • 美希さん
      >UGさん☆

      自分が自分でしかないつらさというのがひしひしと伝わってきて、人間存在のせつなさみたいなものを噛み締めました。
      >UGさん☆

      自分が自分でしかないつらさというのがひしひしと伝わってきて、人間存在のせつなさみたいなものを噛み締めました。
      2012/05/26
  • メモ

  • こういう、ああでもないこうでもないとぐずぐず言う人は嫌いだ。繊細なのかどうなのか知らないが些細なことで傷つきやすい。なのに人を傷つけることには敏感ではない。どうしろというのかと言いたくなる。私自身の鏡だと言えないことはない。しかし少なくとも私は諦めている。

  • 110

  • 支離滅裂な譫妄は狂人が常人を装って叙述しているようでそのしっかりした文章は彼が常人であることをはっきり意識させる。退院まではそう思っていた。しかし『狂人日記』の真価は圭子と同棲を始めた以降から発揮される。自身の狂気が自分の意識外で起こる恐怖と、親密なる者を喪失もしくは緊密に成れぬ恐怖が巧みに描写されている。時々真理めいたことを独白しながら、常人が欠陥者であることを体感せぬまま実感させられる件は哀しみと孤独を伴い読んでいてなかなかきつい。

    本作品は心疾抱えた者が書いた自伝や私小説かと思っていたが、解説で色川氏は『麻雀放浪記』の作者だと知る。「狂人」を推察しながら本書を仕上げるは作者の力量に恐れ入る。

  • 読み終わるのが惜しいのに、あっという間に読み終えてしまいました。
    精神科にかかったことのある私には共感するところも多く、すっぽりと作品に浸かってしまいました。

    私はいま色川武大さんにハマっています。すごく読みやすくて、ずんずんと読めてしまいます。面白いのかというと、よく分かりません。作家本人の非凡な人生と神経病による幻視幻覚がベースになっているので類を見ない作品なことは確かですが、果たしてそれが面白いと呼んで良いものか。

    『明日泣く』『百』『狂人日記』と読んで、今の時点で感じたことは、色川武大さんは現代の作家さんだなぁということ。昭和四年生まれだから戦争を経験しているにも関わらず、そこはするっと後ろへ流して、でも旧い匂いは残っていて、その匙加減が私は好きです。

    そして小説を書くのが本当に巧いと思います。作家の個性を主張しない文章の巧さがあります。言葉がキザじゃないのです。小賢しくないというか、まっすぐな文章というか、正直な文章というか、そういう感じがします。そんなところは大好きな北村太郎さんに通ずるところがあります。

    それから、言葉が生きているとでも言うのでしょうか、ほぼ心象描写だけなのにそこに景色が見え、生々しい現実世界が広がります。

    主人公が語っていくという形はどことなく太宰治っぽい感じがあります。

  • 20年以上前に福武文庫版で読んだのだけど、その後数度の引っ越しのどこかで手放したので、文芸文庫で再入手。昔読んだときもなんか凄い小説だなあと衝撃を受けたのだけど、若かったから、その「なんか凄い」の感覚はもっと狂気というものに対して、語弊はあるけど「狂気ってなんかかっこいいよね」みたいな中2的な勘違い、無責任な憧れも含め、たとえば『ドグラマグラ』を読んで「うわあ狂ってる」と思うのと大差ない感覚だった気がする。

    すっかり酸いも甘いもかみ分けた大人になった(?)今改めて読むと、感じる凄さの種類が全然違うし、狂気の発作からくる幻聴や幻覚を、幻想のフィルターを通した抽象的なものではなく、心を病むということの生々しい現実として受け止めてしまう。当たり前のことだけど、本当の狂気とはただただ現実の病で、ヴィジュアル系の歌詞にあるような自意識過剰の狂ってる俺ってちょっとカッコイイ的雰囲気ものじゃないんだよなあ。

    主人公の生い立ちは確かに複雑なのだけれど、彼が狂気を発するのは生い立ちのせいというよりは素質の問題だろう。他の家族は普通のようだし。圭子という女性の立ち直り手法はすごい。計算ではなかったのだろうけど、自分より酷い病状の主人公を「患者」に仕立て上げ、自分は「看護人」として生きることで、まんまと自分だけ健常人の側へシフトしてしまった。

    すでに50代の主人公が、同じくすっかり大人でおそらくカタギではない弟に対していつまでも幼い子供の夢を見続けているのがなんだか切ない。

  • 確かに狂人の日記。読んでると段々しんどくなる。誰しも程度の度合いとは思うものの、やはり、ここまで違うと本人も回りも大変だ。この手の話は基本誰も救われないので、あまり好みではないかな。

  • これは面白かった。初めて色川武大という作家を知った。いずれ再読してみたい。

全70件中 1 - 10件を表示

色川武大の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
リチャード ブロ...
ボリス ヴィアン
吾妻 ひでお
フランツ・カフカ
ジャック・ケルア...
ポール オースタ...
安部公房
色川武大
有効な右矢印 無効な右矢印

狂人日記 (講談社文芸文庫)を本棚に登録しているひと

ツイートする
×