夏の流れ (講談社文芸文庫)

著者 :
  • 講談社
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本棚登録 : 263
感想 : 25
  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061983960

作品紹介・あらすじ

平凡な家庭を持つ刑務官の平穏な日常と、死を目前にした死刑囚の非日常を対比させ、死刑執行日に到るまでの担当刑務官、死刑囚の心の動きを緊迫感のある会話と硬質な文体で簡潔に綴る芥川賞受賞作「夏の流れ」、稲妻に染まるイヌワシを幻想的に描いた「稲妻の鳥」、ほかに「その日は船で」「雁風呂」「血と水の匂い」「夜は真夜中」「チャボと湖」など初期の代表作七篇を収録。

感想・レビュー・書評

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  • 孤高の作家として、そして日本文学の傾向に対して強い否定的な立場としても知られる丸山健二という存在を仄聞し、気になって探してみたところ入門に良さそうな本書を見つけた。題名にもなっている『夏の流れ』は齢23にして描かれたとは思えないほど虚飾なく淡々と物語が進み、カラッと乾いた文体で描かれている。読んでみて思ったのは丸山健二自身の考え方や思想のようなものは物語に反映されていないということだ。何かに肩入れするような場面は地の文では見られない。内容はと言うと、刑務官と死刑囚の関係を職場では持ち、家に帰れば新たな命を宿した妻と息子との関係を持つという対比的な生活が描かれる。極悪人とはいえ人の命を奪う人物のもとに新たな生命が誕生するというこの状況は、人間とはなんなのか、もっと跳躍すると生命とは、生きることとはなんなのかという主題につながってくるように感じた。また、主人公の男は死刑囚の事をどう考えているかが家庭と職場とで違う立場を取っていることがわかり、興味深かったが、この対蹠的な立場はどちらかが偽りではなく、両方とも男の本心であると私は感じた。おそらく主人公の男は論理的、かつ冷静である刑務官として、一家を支える大黒柱としての威厳を保つためには「死刑囚も我々と同じ人間である」という堂々たる立場を取り、同じ職場で、そこの醜悪や畏怖を知っている人間には「あいつは人間ではない」という立場を取ったのではないか。この作品は生きるとは何かという超越的な問いに加え、家族をささえ、稼ぐ辛苦とはなんなのかという身近な問いも我々読者に投げかけているのではないかと私は感じた。この作品内では様々な人間が描かれる。刑務官、その妻、その子供、同僚、部下、そして死刑囚。それぞれが仕事のためある種惨憺なことをする人間、新たな命を宿し支える人間、無邪気に父と戯れ、浜辺を走る人間、仕事とはいえ惨憺に耐えられず逃走する人間、反対に惨憺に身を捧げる人間である。彼らは作中でそれぞれ生きるために行動する。我々が生きていく上で様々な人間が存在し、訳もわからず何かに苦心しながら生きる。果たして人間とはなんなのだろうか。嫌気がさすようなこの問題に著者は若くして向き合い、我々に問うている。

    他にもいい短編がこの本にはたくさんある。やはり作者の立場は排している。都会から田舎に来た人間もいれば、田舎から都会に行くもの。どっちにも人間は問題を生じさせる。生きるために様々な行動を取るのが人間である。また、それに失敗する人間だっている。いろんな角度の人間劇を見ることができる本である。

  • *夏の流れ-死刑執行の刑務官の話  
    *雪間-祖母が亡くなった日祖父とウサギとりに行く少年期の話
    *その日は船で-貧しい暮らしの中で妻が堕胎手術を受ける話
    どれも、大変な場面のはずなのに、静かに物語が流れていく。それがかえってもの悲しい。

  • 先週読んだ山口果林著「安部公房とわたし」に、
    他人の作品を滅多に褒めない安部が珍しく感動し、
    わざわざ出版社から著者自宅の電話番号を聞いて
    賞賛の電話をしたところ、
    丸山健二から「誰ですか、あなた?」と言われて気分を害した、
    と書いてあったので、“孤高の作家”丸山健二を読んでみることに。

    丸山健二っていうと、映画にもなった「ときめきに死す」が有名だけど・・・

    1966年に芥川賞を取った「夏の流れ」。
    80数ページの短編というか、中編というか。
    刑務官の話で、主人公を含めた中堅刑務官2人と、若手刑務官との話。
    若手刑務官は、まだ死刑囚を死刑台に送ったことがない。
    初めてそうする場面での、主人公たちのお話。
    結局、若手刑務官はそれが出来ず、当日、欠勤し、仕事も辞めてしまう。
    テーマとは裏腹に、結構、さわやかに楽しめる中間小説という感じ。


  • 丸山健二 最初の作品 「 夏の流れ 」 ほか初期作品の短編集。著者の初期作品は 淡々とした人間描写。硬派な文体でないことに驚く。

    読後感は悪いが、長編のような単調感がないので、こちらの方が読みやすい。


    最初の三作品は、死刑囚と刑務官、中絶する夫婦、死んだおっさんの金を分ける2人 が主人公。

    自分の善悪や他人の生死と関係なく、淡々と生きている人間という感じ。日常の風景の中に存在する 傍観者的で残酷な人間を感じる


    他の四作品は 爪痕残すような読後感は ない。


  • 夏の流れ(芥川賞)
    その日は船で
    雁風呂
    血と水の匂い
    夜は真夜中
    稲妻の鳥
    チャボと湖

    第56回芥川賞、第51回野間文芸賞
    解説:茂木健一郎・佐藤清文

  • 自分が思い描く理想があったとして、それは現実と地続きな平面の先にあるはずだ。しかし、道は曲がりくねり一方通行となり行き止まりとなる。引き返し、振り返れば、最初の理想はすでに形を変え、遠い追憶の彼方だ。形を変えた理想は今の現実に干渉し、奇形の理想を最初の理想と同一視する錯覚に陥らせる。折り合いをつけられれば幸せ。つけられなければ世界から疎外される。それを従属というのは悲しすぎるけれど、いっそ破滅というのはあまりに文学的すぎる。
    「夏の流れ」が23歳で書かれたというのは驚愕に値する。芥川賞受賞はどうでもよいが、23歳でなぜこのディテールが描けるのか?いったいどういう天才なのか。死と生の交わる中、己の役割を忠実に勤め上げようとする刑務官の風景。
    「その日は船で」~堕胎の風景。
    「雁風呂」~生者のための生活の風景。
    「血と水の匂い」~差別の風景。
    「夜は真夜中」~こらえきれない思春期の一夜。
    「稲妻の鳥」~君は裸足の神を見たか。
    「チャボと湖」~ニュータウンの日常風景。
    純文学とはストーリーではなく、いかにその状況を描くか、に重きが置かれるものだと思っている。そういう意味で、丸山健二さんは純文学だ。そして、ハードボイルドだ。「夜は真夜中」がとにかく衝撃だった。あの思春期の暑い夏の一夜を思い出してしまった。

  • 日本文学史上の最高傑作の一つだと思う。
    無駄の無い削ぎ落とされた文章。看守の息遣いが聞こえてきそうな臨場感。

    ただただ、圧倒されるばかり。

  • 多種多様な人物像・シーン・語り口を扱った短篇集で、著者の全貌なり方向性といったものが捕えづらく評価を下しづらい。他の作品も読まないと好きか嫌いかも分からない。
    しかし、どの作品も何かしら不安を抱かせるという点は共通している。

  • 著者の長編をいくつか読んでから、初めて目を通した初期の短編集。

    なんとも平凡な感想だけど、すごい。すごい!

    圧倒的な語彙の多さで、難しくゴテゴテに鎧われているのが今の丸山健二で、それはそれでやっぱり「すごい!」なのだけど、その人はかつて、こんなにも端正でシャープな(文章を書く)若者であったのかと、むき出しのセンスと才能に驚愕した。無駄のない静謐な文で描き出される人間たちは、どこか痛々しく胸が締め付けられる。

    23歳でこんなに完成してしまったら、そりゃあ極端な方向に向かって進化するしかないだろうと。

  • 日本中の生命が最も盛んに燃ゆる夏。しかし囚人は死刑となる。一つの生命が人の手によって断ち切られる。執行日の夏の大雨が死刑囚の絞首台での死を流していく。翌日は看守たちは特別休暇。海辺で遊ぶ看守の穏やかな家族の日常も変わらず流れていく。生も死も夏の流れとなって海へを静かにそそぐのだ。直接の感情の表現は最小限に抑えられ、自然の描写と人間の仕草で綴ることで深い人間心理を読み取らせる小説である。硬質で静かな文章は涼しくて心地よい。

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著者プロフィール

1943年、長野県飯山市に生れる。国立仙台電波高等学校(現在の国立仙台電波工業高等専門学校の前身)卒業後、東京の商社に勤務。66年『夏の流れ』で第23回文學界新人賞を受賞。同年、同作で芥川賞を受賞し作家活動に入る。68年に郷里の長野県に移住後、文壇とは一線を画した独自の創作活動を続ける。また、趣味で始めた作庭を自らの手による写真と文で構成した独自の表現世界も展開している。近年の作品に長編小説『我ら亡きあとに津波よ来たれ』(上・下)。『夢の夜から口笛の朝まで』『おはぐろとんぼ夜話』(全3巻)、エッセイ『人生なんてくそくらえ』、『生きることは闘うことだ』などがある。

「2020年 『ラウンド・ミッドナイト 風の言葉』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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