ゴットハルト鉄道 (講談社文芸文庫)

著者 :
  • 講談社
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本棚登録 : 299
感想 : 31
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061984028

作品紹介・あらすじ

"ゴットハルトは、わたしという粘膜に炎症を起こさせた"ヨーロッパの中央に横たわる巨大な山塊ゴットハルト。暗く長いトンネルの旅を"聖人のお腹"を通り抜ける陶酔と感じる「わたし」の微妙な身体感覚を詩的メタファーを秘めた文体で描く表題作他二篇。日独両言語で創作する著者は、国・文明・性など既成の領域を軽々と越境、変幻する言葉のマジックが奔放な詩的イメージを紡ぎ出す。

感想・レビュー・書評

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  • 深夜にふと聞いたNHKのラジオで紹介されていた「隅田川の皺男」
    浪人生で身体を売っているウメワカと会社を辞めた女・マユコが出会って…という内容がちょっと面白そうだったので読んでみた。

    ファンの方がいらしたらすみません…
    私、この本が全く合わなかった…。

    小説だと思って読むから理解できないのかも
    詩と思ったら?
    絵画と思ったら?
    理解しようと思うから理解できないのか…

    他にも
    ゴットハルト鉄道
    無精卵
    と短編があるのだけど…
    両方とも理解が難しい…
    まだ、皺男の方が理解できるかも…

    おもしろさがわかる人に解説してもらいたい…

  • 全ての文章が示唆的で、多様な解釈を可能にする、だけどそれ故にこそ難解な作品だと思う。「無精卵」という作品は、子供ができない女性が、ある日子供を拾って育て始める作品だが、そこにはフィルターを介さない「子育て」の過酷さのようなものが描かれている。しかし、作品後半では、まるで視点が逆転したように、育てられる側の子供の不満のようなものも描かれていて、興味深い短編だと思った。

  • 表題作は意外と短く、収束の仕方がやや急ながら序盤はするりと入り込みやすい。鉄道やトンネルというのはわかりやすく現実と非現実の境界を曖昧にするアイテムだと思う。

    印象的だったのは同時収録の「無精卵」。同居していた男の死、勝手に出入りするその義姉、突然あらわれた謎の少女と、その少女の奇妙な行動・・・最終的に主人公の「女」は何者かに陥れられるかのように作品舞台から去ってゆき、彼女の書きためた散文のようなものも失われてしまう。

    タイトルの無精卵=温めても孵ることのない卵は、子供を産まなかった女の象徴であると同時に、発表されることのなかった作品のことでもあり、つまり徒労に終わる無駄なこと、の象徴でもあるのだろうけれど、しかし産まずとも少女は現れ、彼女は作品の写しを持ち去っている、そこに微かな希望を見出すこともできるのではないかと思う。

    「隅田川の皺男」は収録作のなかでは唯一登場人物にきっちり名前がついていて、主人公マユコだけではなく、彼女が買う男娼のウメワカ側の心情まで掘り下げてあるあたり、ある意味異色の作品。

    それでいて多和田作品にお馴染みの(と私は思っている)強迫的な人物(なぜか主人公は彼女に逆らえない)は登場するので、相変わらず悪夢感は拭えない。「無精卵」における義姉とか、多和田葉子はこの手のキャラクターに何かトラウマでもあるのかしら(笑)。

  • 表題作以外の二編が怖くて怖くて、なんでせっかくの休日にこういう話を読んでしまったのかと後悔するほど。ひとりで黙りこくって生きていると、いつかああいう気持ち悪いモノを受信して向こうの世界に引きずり込まれてしまうんじゃないかと恐ろしかった。

    表題作は行って帰ってくる話なので怖くはなかった。それでもあの独りな感じ、恋人らしき人に対しても視線が容赦ない感じには不安になる。そういう感覚はわかる、でも自分のものにはしたくない。ひとに容赦なくできるほど、自分で立てていないから。

  • 気味が悪い(褒め言葉)、と言えばいいのか
    理解不能でおぞましい(褒め言葉)、と言えばいいのか。
    無機質なものが意思を持っているようであったり、
    人が単なる物質のようであったり、
    どうしてそんな比喩ができるのだろうと
    くらくらする。

  • これは、主にゴットハルト鉄道は、散文で詩だ。しかも、それは単なるイメージの描写ではなく。まるで絡め取られるような、ぬるぬるとした、、押してはいけないボタンを押したい、触ってはいけないものに触りたい、そういう、入っちゃいけない場所に、手招きされているかのような詩だ。客観視できない、自分に強烈なまでに流れ込んでくることば。ちょっと怖かった。でもたぶん、そういう誘惑はなんか気持ちよい。

    • ktserendipityさん
      突然のコメント、失礼致します。
      ぬるぬるとした・流れ込んでくる、、、という表現にはっとしました。自分のペースを保てない感覚に陥りますよね。...
      突然のコメント、失礼致します。
      ぬるぬるとした・流れ込んでくる、、、という表現にはっとしました。自分のペースを保てない感覚に陥りますよね。
      このレビューに出逢えて、感想が更に深まりました。
      2012/05/13
  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/682439

  • この短篇集の中で、ゴットハルト鉄道だけが宙に浮いている。
    ドイツ語から日本語に訳された小説というのも大きいと思う。続く2作「無精卵」「隅田川の皺男」のような粘着質な湿度がない。雪がさらさらとしているからか。「無精卵」と「隅田川の皺男」には、女との攻防が粘着質に描かれている。まず絶対に勝てない強い女がひとり以上必ずいて(その人物はひとりではないかと思うくらいに同じ強さを持っている)主人公が翻弄される。主人公は、より弱い者の弱い点を愛想笑いみたいな卑屈さでみつけて、それを少しだけほじくる。女が出てくるだけで、2つの小説はおぞましい回転を始める。

  • DADAさん推薦。

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著者プロフィール

1960年東京都生まれ。小説家、詩人、戯曲家。1982年よりドイツ在住。日本語とドイツ語で作品を発表。91年『かかとを失くして』で「群像新人文学賞」、93年『犬婿入り』で「芥川賞」を受賞する。ドイツでゲーテ・メダルや、日本人初となるクライスト賞を受賞する。主な著書に、『容疑者の夜行列車』『雪の練習生』『献灯使』『地球にちりばめられて』『星に仄めかされて』等がある。

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