雪あかり 曽野綾子初期作品集 (講談社文芸文庫)

著者 :
  • 講談社
3.38
  • (1)
  • (2)
  • (4)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 20
感想 : 6
  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061984066

作品紹介・あらすじ

進駐軍の接収ホテルで働く十九歳の波子の眼をとおし敗戦直後の日本人従業員と米国軍人等との平穏な日常が淡々と描かれ、吉行淳之介の「驟雨」と芥川賞を競い清澄で新鮮な作風と高く評価された出世作「遠来の客たち」をはじめ、「鸚哥とクリスマス」「海の御墓」「身欠きにしん」「蒼ざめた日曜日」「冬の油虫」、表題作「雪あかり」を収録。才気溢れ、知的で軽妙な文体の初期の作品七編を精選。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 「曽野綾子を読んでみた」第5弾。

    武藤康史の書誌のために存在する本。
    武藤康史はこの上なくすばらしい書誌を作る人。この人の手による年譜は細かいところまでゆき届いていて読み物としてのめりこめるし、この人の手による目録は再刊や文庫の解説者まで委細漏らさず眺めているだけでうっとりする。

    しかしまず本文から入ろう。副題に「曽野綾子初期作品集」とあるように、本書は昭和二十八(1953)年から昭和三十四(1959)年までに書かれた短編七編を収録している。(「蒼ざめた日曜日」には短編が四編つまっているから実質的には十編だが)
    このうち「鸚哥とクリスマス」「遠来の客たち」「海の御墓」「蒼ざめた日曜日」はほかの本で読んでいたので初読は三編。そのうち「雪あかり」は長編『たまゆら』第二章の原型なので完全に初めてなのは「身欠きにしん」「冬の油虫」だけだった。
    「身欠きにしん」は佳品。上品な家の転校生と知り合った地方の少女の劣等感を描くのに、その土地の名産品である身欠きにしんを使うところが上手い。「冬の油虫」は夫婦の話だがあまりにも地味で、なんの感想も浮かんでこなかった。
    「鸚哥とクリスマス」は『黎明』の後で再読してみると善良な婚約者への軽蔑をコンパクトに表現しているのがわかる。「遠来の客たち」はやはり面白くない。「雪あかり」は『たまゆら』に比べると女主人公があまりニヒルではない。

    「著者から読者へ」で曽野綾子は昭和四十四(1969)年の『無名碑』以前の自作はできるものなら全部捨ててしまいたいと書いている。
    「私はその三十歳の初めから六、七年間、不眠症で鬱病になった。小説の書き方がわからなくなったのである。しかし三十七歳の時、書き下ろしで初めての宗教的なテーマで『無名碑』を完成してから、私は信じられないほど自然になった」
    なるほど『無名碑』は大きな転機となった作品のようだ。しかし小説の書き方がわからなくなっていたはずの時期に世評高い「長い暗い冬」や名作「山の湯」を書いているのだから、作家の自己評価はあてにならない。

    さていよいよ本書の白眉!武藤康史による解説・年譜・著書目録だ。やはりすばらしい。
    解説は引用の多い文章で、その引用が適切なので読んでいて心地いい。曽野綾子のデビューのきっかけを作った臼井吉見の文章を引く。「鸚哥とクリスマス」「遠来の客たち」を載せた雑誌「三田文学」の編集長的存在だった山川方夫の文章を引く。「遠来の客たち」が芥川賞候補になった時の周囲の反応を並べる。それらの文章が持つコンテキストをさらっと説明する。「群像」の創作合評で佐多稲子が曽野綾子を「自然発生的」な小説だと褒め上げ、三島由紀夫が「こういうイージーゴーイングな文章に疑問を持っている」と不満をもらしながらも「何か厭なものがこんなにない作家もめずらしい」と驚いているのが印象的。
    年譜はあくまでも略年譜だと武藤康史はことわっているが、それでもすばらしい。二十代のころの曽野綾子が短編作家だったのが一目瞭然。保守文化人としての活動は昭和四十三(1968)年に日本文化会議の発起人になったあたりからだろうか。しかしこれは福田恆存が中心となっていたからそこまで極端な保守でもなかったのではないか……?昭和五十九(1984)年三月「靖国問題懇談会および文化と教育に関する懇談会の委員となる」昭和六十三(1988)年四月五日「いわゆる第三次家永教科書訴訟で国側証人として東京地方裁判所に出廷」このあたりになるともう本格的だ。しかし評論家としての曽野綾子を考えるとまた不愉快になる。やめよう。
    最後に著書目録。こんな多作の作家の目録をよく作ってくれたものだ!二人の友人、鶴羽伸子と岡宣子。そして武藤康史。曽野綾子は案外評論家に恵まれた作家だったのかもしれない。

  • 「鸚哥とクリスマス」
    善人でございといった顔をして
    敗戦後の日本をのうのうと生き延びている人々
    ラジカルで感じやすい若者たちに言わせれば
    それはよほどの悪党か
    鈍感な馬鹿ですと自己紹介してるようなものだった
    そんなアプレゲールの時代に
    そういう許婚を持ったことが耐えられない
    しかも相手が本当の善人であるだけに、なかなかそれを言い出せず
    婚約の解消も延ばし延ばしになっていた
    そういうお嬢さんの話である

    「遠来の客たち」
    箱根のホテルで、米軍関係者を案内する仕事に携わっており
    英語が上手いので重宝がられているお嬢さん
    彼女は、性格の優しい軍医に好意を持っていたが
    粗暴で理不尽なところもある隊長に、何も言えない彼の気弱さを見て
    おおいに幻滅する

    「海の御墓」
    戦前、国際法の学者として日本の外務省に招聘されたが
    日本の自由に肩入れしすぎたため
    自国籍を剥奪されてしまった英国人の話
    アメリカを毛嫌いし
    そのために妹の寿命を縮めた後悔はあれど
    晩年は理解者に囲まれる
    ラストシーンは一見虚無的ながら
    ヒューマニズムに裏打ちされた手触りがある

    「雪あかり」
    婚期を逃した女と男が
    なんとなくつきあい続けているのだが
    互いに結婚するつもりなんかまるでないという話
    なんでそんなことになってしまっているのか
    この作品では、母の古い価値観と、現代社会とのあいだで板挟みになり
    疲弊して無気力へと陥った男の様子を窺わせている

    「身欠きにしん」
    自分はぜんぜん大したことのない人間だという
    自虐的自己認識を得ていたおかげで
    見た目はアレな上に面白味もなく
    堅実な性格だけが取り柄の男と結婚してしまい
    それでいつしか気づいたら
    郷土の偉人を支える妻ということになってしまっていたのです

    「蒼ざめた日曜日」
    世にありふれたフェイク(偽物)をめぐる四つの物語
    偽金づくり
    社会にあわせて自分を偽る女
    義眼の少年
    落ち目の劇作家、など
    人々は真実に憧れ、怯え、あざ笑い、また嫉妬する

    「冬の油虫」
    夫との精神的なすれ違いに妻は不満を持っている
    しかし夫はそのことにまるで気づいていない
    という話

  • 解説:武藤康史
    鸚哥とクリスマス◆遠来の客たち◆海の御墓◆雪あかり◆身欠きにしん◆蒼ざめた日曜日◆冬の油虫

  • 「クラシックホテルが語る昭和史」に、曽野綾子が高校生の頃にそこでバイトをした経験を元に書いた小説とあり読んでみた。その、芥川賞候補にもなった「遠来の客たち」を含む短編集。昭和28~34年の頃にかかれた7編。

     芥川賞候補になったのが22歳、大学生の時。そういう予備知識なしに読んだとしても、実に瑞々しい文章だなと思うだろう。育ちの良さが滲み出ているというか、怖いもの知らずの勢いがある。巻末解説に芥川賞詮衡会で選者のひとり石川達三に「(前略)新しい性格の文学だと思ふ。それを作者は案外平然として、すらすらとなんの苦労もなしに書いてゐる。 」「今日までの日本文学にとつて、「異種」である。」と言わしめている。分かるな、その感じ。四畳半フォーク全盛期に現われたユーミンみたいなもんか(違うか?)

     曽野綾子を読むのは何十年ぶりだろう?というか「太郎物語」くらいしか読んだことがないと思う。NHKのドラマ先にありきで、確か後から読んだ。いいとこの坊ちゃんの話だなというくらいの感想しか残ってない。

     戦後10年と経たない頃の作品。キャリアウーマンの主人公が恋人の母親から「それじゃ、お仕事はもう殿方以上にお馴れでしょうねえ」 と皮肉たっぷりに言われたり、時代はまだまだ男中心。そんな時代に、鼻っぱしらの強そうな、すこしスノッブな女性登場人物が多い。きっと作者の”素”の部分がストレートにでているのだろうな。

    ”何かあきらめの情熱といったものも感じられませんでした。 ”
    ”夫の言葉は返事をしないより無責任だった。”

    男に向けられた手厳しい言葉に時々ハッとさせられた。

    表題作「雪あかり」も良いが、祖国に見捨てられた年老いた英国紳士の姿を女中の目線で描く「海の御墓」もよい。「冬の油虫」の何とも言えない余韻の残るエンディングも良い。

  • 特に蒼い日曜日がすごく好き。

全6件中 1 - 6件を表示

著者プロフィール

東京生れ。1954(昭和29)年聖心女子大学英文科卒業。
同年発表の「遠来の客たち」が芥川賞候補となる。『木枯しの庭』『天上の青』『哀歌』『アバノの再会』『二月三十日』などの小説の他、確固たる人間観察に基づく、シリーズ「夜明けの新聞の匂い」などのエッセイも定評を得ている。他に新書『アラブの格言』などがある。

「2022年 『赤毛のアン』 で使われていた紹介文から引用しています。」

曽野綾子の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
三島由紀夫
遠藤 周作
三島由紀夫
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×