日日の麺麭・風貌 (講談社文芸文庫)

著者 :
  • 講談社
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感想 : 13
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061984233

作品紹介・あらすじ

明治の匂い香る新吉原、その地で過ごした幼少期を温かい筆致で振り返る「桜林」、妻に先立たれ、幼い娘を連れておでんの屋台を曳く男の日常を静かに辿った「日日の麺麭」等、清純な眼差しで、市井に生きる人々の小さな人生を愛情深く描いた小説九篇に、太宰、井伏についての随筆を併録。師・太宰治にその才能を愛され、不遇で短い生涯において、孤独と慰め、祈りに溢れる文学を遺した小山清の精選作品集。

感想・レビュー・書評

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  • この作家の「落穂拾い」という作品をどうしても読みたいと思っていた。けれどもそれが何のきっかけでかはほんとうに思い出せない。ずっと頭の片隅にいた作家なのだけどな。

    太宰と井伏に師事していたという経歴があり、どこか三浦哲郎を思わせる。時期でいうと三浦が文壇に登場した数年後には亡くなっており、奇しくも入れ違いのような形だ。第三の新人と同じ頃、作品が幾度も芥川賞候補になっていた。

    この作品集に収録されているどの小説も読み応えがあったがその中でも「落穂拾い」がやはり断トツでよかった。冒頭の文章にとても惹かれたので下に記す。

    仄聞するところによると、ある老詩人が長い歳月をかけて執筆している日記は嘘の日記だそうである。僕はその話を聞いて、その人の孤独にふれる思いがした。......

    この作品の全体を覆う平穏で淡々としている語りや雰囲気がなんともいえずよかった。小沼丹ともまたちがうような、けれども特異さという意味ではどこか似ている気もする。

    清くんと呼ばれる作家自らと思われる主人公を据えた話がほとんど。娼婦との交流を描いた「朴歯の下駄」は八木義徳の同様の短編を思い起こさせた。

  • NDC(9版) 913.6 : 小説.物語
    落穂拾い,朴歯の下駄,桜林,日日の麺麭を読了

  • 静かでささやかな当たり前の日々を生きる、その愛おしさと哀しさ。私小説的な作品が多いせいか作者の半生を透かし見たような気がした。
     個人的には「聖家族」「日日の麺麭」の2篇が殊に素晴らしいと思うが、「桜林」等も大正から昭和初期の市井の様子が興味深く書かれており味わい深い。
     巻末の解説や年譜によると無頼とまではいかなくとも、世渡り下手で不器用な感じだし、キリスト教の洗礼を受けたりもしていて中々複雑な内面をお持ちだったのかも…伝記とかあれば読んでみたい。

  • 僕の好きな作家の一人。何度も何度も読んだ。「誰かに贈物をするような心で書けたらなぁ」この一文は小山清という一人の人間の本音だろう。文庫の帯にある「孤独と慰め、祈りの文学」とは小山文学全てを表している。

  • オンエア中の「ビブリア古書堂の事件手帖」の第2話で出てきた「落穂拾ひ」。図書館に所蔵は無いし、古書店も無いみたい。それで、全集で読んでみた。「落穂拾ひ」自体は、とっても短くて、日記?みたい。ドラマに出てくるだけでなくて、ドラマの設定(古書店が出てくる)にもリンクしていて、読んで得した気分になりました。読んでからドラマを見ていくと、ちょっと作者に近づいている感覚になれて良いかもしれません。

  • 「気長に周囲を愛して御生活下さい」(風貌)という太宰治の言葉が浮かんでくるような、心が暖かくなる話。
    気持ちがすさんで斜に構えてしまいそうな時に読みたい。
    彼の視線があたたかくて、どの人もふんわり良い人に描かれているからかな。

    「イプセンの”野鴨”という劇に、気の弱い主人公が自分の家庭でフリュートを吹奏する場面があるが、僕なんかも笛が吹けたらなあと思うことがある。たとえばこんな曲はどうかしら。”ひとりで森へ行きましょう”とか”わたしの心はあの人に”とか。まま母に叱られてまたは恋人からすげなくされて、泣いているような娘のご機嫌をとってやり、その涙をやさしく拭ってやれたなら。
    誰かに贈物をするような心で書けたらなあ。」(落穂拾い)

  • 『落穂拾い』、『朴歯の下駄』、『桜林』、『おじさんの話』、『日日の麺麭』、『聖家族』、『栞』、『老人と鳩』、『老人と孤独な娘』の私小説風な9篇と太宰治について書かれた『風貌』、『井伏鱒二によせて』の2篇の随筆を収める。小説を書く「僕」の生活と駅前で古本屋を営む少女との交流が温かい『落穂拾い』、失語症の老人と喫茶店で働く娘の親和的雰囲気の漂う『老人と鳩』が良かった。「僕の書いたものが、僕というものをどのように人に伝えるかは、それは僕にもわからない。(中略)誰かに贈り物をするような心で書けたらなあ。〜小山清」

  • とても面白かった。
    全集読もう。

  • ちくま文庫『短篇礼賛』に収録されてた「犬の生活」に惚れて読んだのだけど、なかなかよかった。ひっそりした空気が好きでした。でも「犬の生活」がやっぱりいちばんかな。

  • 「落ち穂拾い」と「日々の麵麭」がよかった。この人は使い込みとか持ち逃げとかやってなんか弱虫君なのですが、とてもきれいな話を書いたのでした。

  • 初期から晩年までまで。
    初期作品は初期作品で吉原あたりの風景がとってもよい。
    晩年は晩年で(背景をみてしまうと)小川清にしか書けないもんが書けている。

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著者プロフィール

小山 清(こやま・きよし):1911-65年。作家。東京浅草の生まれ。新聞配達などの職についたのち、1940年に太宰治を訪ね、以後師事する。太宰の死後、作家に。著書に『落穂拾い』『小さな町』『犬の生活』『日日の?麭』など。

「2023年 『小さな町・日日の麺麭』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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