決壊 (講談社文芸文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061984561

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  •  安定しない立場への不安と周囲の人間の仔細な観察によって、漂流する男の不確かな姿を巧みに描き切っている。身につまされる部分が多々あり、読んでいて自分の行末を心配せずにはいられなかった。
     いくつか、ハッとした言葉を残しておく。
     「(中略)彼らが優しいのは、単に彼らが優しさを失う状況に置かれたことがないせいではないだろうかとも考えていた。彼らは、人間が他人に対して優しくできないときの痛み、一片の食物のために他人を裏切らざるをえないときの苦痛をまったく知らないのではないか……。」(p.50)これは、いわゆるやさしさの世代に向けた言葉であろうが、今となっては日本の貧困層を除いた殆どの人々に当てはまるのではないだろうか。自分が苦境に追いやられているときに、優しくあることは可能なのかという問いは、少しく僕の身にズシンときた。

     「「辞められる人は、格好とか流行とかでやってただけなのよ」」薬に逃避せざるを得ない人はいるはずであり、そういう人たちに掛けるべき言葉が出てこない。

     多分、こんな言葉にハッとしている僕は、随分な温室育ちなのだ。嫌になる。

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著者プロフィール

小林信彦 昭和7(1932)年、東京生れ。早稲田大学文学部英文科卒業。翻訳雑誌編集長から作家になる。昭和48(1973)年、「日本の喜劇人」で芸術選奨新人賞受賞。平成18(2006)年、「うらなり」で第54回菊池寛賞受賞。

「2019年 『大統領の密使/大統領の晩餐』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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