暗夜遍歴 (講談社文芸文庫)

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  • 講談社
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レビュー : 1
  • Amazon.co.jp ・本 (424ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061984950

作品紹介・あらすじ

月子の父親が陥れられることによって登場した小田村大助。奪われるようにして小田村と結ばれた月子。政治と実業の世界の鬼であった小田村は、また、奔放な性を生き、女性遍歴を重ねていく。運命にもてあそばれた月子は、短歌に道を見出すことで、傷を癒し、自らを支えようとする。-息子・由雄の眼を通し、母・月子、父・大助の愛憎の劇を冷徹に描いた自伝的作品。亡き母への痛切なる鎮魂歌。

感想・レビュー・書評

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  • 母上よよくこそ耐へてと涙のむ子よかなしみは深きこそよし
     大伴道子

     子が涙をこらえ、お母様、苦難の人生をよく耐えていらっしゃいましたね、と声を震わせるシーンである。だが母は、「かなしみは深きこそよし」と穏やかに応じる。耐え忍ぶことができたのは、短歌という自己表現の器があったからだろうか―。
     作者大伴道子は筆名で、本名は、青山操。夫は、実業家の堤康次郎であり、息子は、セゾングループ創業者の堤清二。その堤清二が「辻井喬」の筆名で書いた「暗夜遍歴」は、母の生涯を追った自伝的小説である。
     明治末期に士族の娘として生まれた母には、自ら運命を切り開くという選択肢はなかった。一家の経済的な事情もあり、年長の堤康次郎と結ばれた経緯が、冷徹なほど客観的につづられている。
     異母兄弟との確執や、複雑な親族関係なども生々しく描かれているが、9冊の歌集を出した母の短歌を適所に引用することで、戦中戦後を生きた一人の女性史として哀感が濃い。
     辻井自身も、母の影響で敗戦まで短歌を作っていた。のちに数冊の詩集も出した彼には、母から受け継いだ文学的要素が強かったのだろう。
     風雲児のような堤康次郎が死去すると、母は意外にもこんな歌を作っていた。

     誰れよりも激しき歌をうたひ来しその筆いづへに置くべきものか

     「激しき歌」を作り続けた原動力は、実は夫の存在そのものだったのか。
     青山操は1984年、息子に見守られて他界。辻井喬は、2013年没。享年86であった。

    (2014年10月5日掲載)

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著者プロフィール

小説家、詩人。元セゾングループ代表。著者に『茜色の空』など。

「2010年 『大澤真幸THINKING「O」第4号』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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