会津恋い鷹

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (232ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062029735

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  • 幕末の会津藩、南山御蔵入領の肝煎・横山家の末娘さよ。後継ぎの長兄・儀一郎と、筋骨逞しいが次男ゆえ鬱屈を抱えている次兄・捨松がいる。ある日、木地師の弥四郎が見つけた鷹の雛を、城下の鷹匠に兄と共に届けにいくことになり、さよは鷹匠の仕事と鷹に惹かれるように。やがてそのとき会った鷹匠の長江周吾に請われ、さよは15歳で彼に嫁ぐことになるが…。

    皆川さんが時代物を多く書かれていた80年代半ばの作品。幕末の会津が舞台というので読んでみました。主人公が農家の娘なので、戊辰戦争の描かれ方がいわゆる歴史小説とは切り口が違って新鮮。さよが嫁いだ長江の家は一応武士だけれど家格は低く、農民とはいえ肝煎のさよの実家のほうが裕福。そして結果的に会津藩の悲劇を招くことになる彼ら武士階級の貫いた武士道、さよにはそれが理解できない。婚儀の日に、さよが懐刀を持参しなかったことを責められるエピソードが象徴的。名誉のためにいつでも死ぬ覚悟、というものをさよは持たないが、それゆえに逞しく生きていく。

    やがて会津も戦場になり、さよの夫も徴兵され、兄たちも農兵募集に応じなくてはならなくなる。さよは夫に代わり鷹の世話を続けるが、籠城戦前に鷹を殺すよう命じられる。同じ役職の鷹匠の妻たちは武家の人間ゆえそれを当然のことと見なすが、さよは鷹の「白雪」を殺せず実家に連れて帰る。さよから見た武士の美学はとても奇異なものに映る。

    やがて戦争は終わり会津藩は降伏、武士たちは謹慎となるが、家格の低いものは返され、さよの夫・周吾も戻ってくる。さらに長兄・儀一郎も女連れで戻ってくるが、儀一郎は戦争のどさくさに、一方的に恋慕していた周吾の姉・小竹を殺しており、周吾は儀一郎を許せない。そこへ農民たちの一揆騒ぎが持ち上がり、横山家にも一揆の一団が雪崩れ込んでくる。父親は殺され、さよは大勢に犯され、祖母と鷹は焼死、周吾はそのどさくさで儀一郎を殺す。生き残ったのはさよと周吾、そして儀一郎が連れ帰った遊女のなつだけ。さらに、一揆側に加わっていた次兄の捨松も、吊るされた遺体で発見される。

    さよは周吾と共に新しい鷹を捕まえて調教、「曙」と名付け、鷹が狩った獣を売るなどして生計を立てようとする。しかし誇り高い武士の周吾はその生活に耐えられず、なつとさんざん浮気したあげく出奔、行方をくらましてしまう。残されたさよとなつは意外と仲良く暮らしていたが、「曙」を狩りの中で死なせてしまいさよは絶望、父亡き後家を乗っ取った陰湿な叔父に追い出され、なつに言われるがまま一緒に東京に出て、遊女として売られてしまい…。

    朝ドラヒロインばりに転々としていくさよの運命。生きる目的を失い抜け殻のようになったさよは、淡々と体を売り続ける。幕末ものは沢山読んだし、会津藩おたくなので彼らの末路には今も悲憤慷慨しているが、そういった武士階級の歴史上の出来事の裏で、名もなき人々の人生もまたどんどん狂わされていったのだなと考えると切ない。

    最終的にさよは、吉原を足ぬけし、故郷に戻る。鷹匠として生きようと決意し、新たな鷹を手に入れるため罠をしかけるが、反撃され鷹に殺されるという、なんとも壮絶な最期。登場人物のほとんどが何らかの闇を抱えており、時代小説とはいえほとんどイヤミスかってくらい。人間の男とは、身を焦がすような恋をできなかったさよは、あれほど魅せられた鷹に殺されて本望だったかもしれない。

  • 前半はとっつきにくかったけど後半からはどっぷり浸って読めました。

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著者プロフィール

1930年生まれ。『壁 旅芝居殺人事件』で日本推理作家協会賞、『恋紅』で直木賞、『薔薇忌』で柴田錬三郎賞、『死の泉』で吉川英治文学賞、『開かせていただき光栄です』で本格ミステリ大賞を受賞。著書多数。

「2022年 『皆川博子随筆精華Ⅲ 書物の森の思い出』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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