蕎麦ときしめん

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (221ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062029964

感想・レビュー・書評

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  •  表題作の「蕎麦ときしめん」は、東京から名古屋に転勤になったサラリーマンの書いた名古屋人論を読んで著者が唖然とする、というパスティーシュ。
     冒頭から、名古屋人は東京にコンプレックスを抱いており、タクシーの運転手は下手に出て名古屋を卑下してしゃべるが、迂闊に同意してしまうととんでもない山奥に連れて行かれ、「こっから先は歩いてちょ」と置き去りにされるだとか、中日ドラゴンズの選手のエラーには「たわけ、たわけ」の大合唱で巨人の選手がホームランを打てば黙ってスタンドに石やういろうを投げ入れるのが正しい名古屋人のマナーであるだとか、プライバシー尊重は罪だとか、どんなに空が晴れていても、そこに地下街がある限り地下を歩くのだ! …など、好き勝手書きまくっていて、僕の名古屋観は完全に本書によってねじ曲げられました。名古屋に遊びに行ったときもユニモールやサカエチカを歩かないと気が済みませんし、8時を過ぎたら女子大小路以外はゴーストタウンとなる、と今でも思ってます(笑)。

     こんなの著者が名古屋人だから許されるんだろうけど…と思ってたら、最後の短編が「きしめんの逆襲」! 郷里からタモリと共に不倶戴天の敵とされ、自宅に「毒入りだで危険だぎゃあ。食べたら死ぬぎゃあ」というメッセージを添えたういろうが送られてきたりしたそうで、また名古屋のイメージが一つ歪みました(笑)。

     他にも、司馬遼太郎の文体で社史を書いた「商道をゆく」、同じく司馬遼太郎の文体で猿蟹合戦を描いた「猿蟹の賦」も好きです。
     特に後者は一行目からふるっています。

    《浜の蟹兄弟が仇討ちをしたがっている。
     と、いうことは近在で知らぬ者がない。
     三代昔の先祖の素行までが知れわたっているような田舎村である。村の中で秘密など持ちようがなかった。
     ただ、
     できるかどうか。
     が、問題であった。》

     知恵者の蟹平は、いが栗が仇討ちの仲間に加わってくれないとき、熊ん蜂を仲間にします。そして…

    《しばらくして蟹平はもう一度使者を送った。今度は七難の蟹吉である。
     蟹吉には多少の演義ができる。蟹平に指示されている蟹吉は、余裕ある口調で口上をのべた。
     「先に、援軍のことをおねがいしたが、もうその必要はなくなりました」
     と、蟹吉は微笑を浮かべていった。すでにことわられているのにわざわざそれをいいにくるのも変なのだが、蟹吉の態度に栗はつい興味を引かれてしまった。
     「ほう。何故か」
     ここからが蟹平の策略である。
     「実は、三国一の槍働きをするくまん蜂の味方を得ることができました。そのため、槍の援軍はまにあってござる」
     「蜂だと」
     いが栗は気色ばんだ。蜂がいればこのおれのいがが不要だというのか。
     蟹平はいが栗の自尊心を刺激している。
     男の妬心ほどむつかしいものはない。
     おまえより他の者の方がたのもしいといわれた、ただそれだけのことで利害を越えた不思議な感情が男を行動に駆り立てる。
     いが栗のこの時の反応がそれであった。》

     これだけ知恵者の蟹平が、臼どんに赤心で助太刀を頼みに行く所は感動ものです(笑)。

     英語語源日本語説の論文が、版を改める毎に支持者を増したり、はたまた弟子と揉めたり、そんないきさつが改訂版の序文の変遷で辿れるという「序文」も面白かったです。お陰で専門書の序文を読むときは今も半笑いになってしまいますが…

     全ての人にオススメです。とにかく読んで笑って下さい!

  • <table style="width:75%;border:0;" border="0"><tr><td style="border:none;" valign="top" align="center"><a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4062029960/yorimichikan-22/ref=nosim/" target="_blank"><img src="image/noimage.gif" alt="蕎麦ときしめん" border="0"></a></td><td style="padding:0 0.4em;border:0;" valign="top"><a href="http://blog.fc2.com/goods/4062029960/yorimichikan-22" target="_blank">蕎麦ときしめん</a><br />(1986/11)<br />清水 義範<br /><br /><a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4062029960/yorimichikan-22/ref=nosim/" target="_blank">商品詳細を見る</a></td></tr></table>
    <blockquote><p><strong>読者はパスティーシュという言葉を知っているか?これはフランス語で模倣作品という意味である。じつは作者清水義範はこの言葉を知らなかった。知らずにパスティーシュしてしまったのだ。鬼才野坂昭如をして「とんでもない小説」と言わしめた、とんでもないパスティーシュの作品の数々、じっくりとお楽しみを。</strong></p></blockquote>
    表題作のほか、「商道をゆく」 「序文」 「猿蟹の賦」 「三人の雀鬼」 「きしめんの逆襲」

    さすが清水義範!と言うしかない一冊である。名古屋人である著者による――と言ってしまってはいけないのかもしれないが――名古屋論がまさに痛快である。著者にしか書けないだろうとも思われる。ミステリの仕掛けとはまたひと味違った清水流の仕掛けが愉しめる。思わず名古屋に行ってみたくなる。

  • パスティーシュ作品というジャンルがたんなるパクリとは全然次元が違っているということはこれらの作品を読めば明白ですね。元ネタを知っていない人はどれだけ楽しめるのかというのがちょっと知りたい。

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著者プロフィール

1947年愛知県生まれ。愛知教育大学教育学部国語学科卒業。1981年『昭和御前試合』でデビュー。1986年『蕎麦ときしめん』が話題となり、独自のパスティーシュ文学を確立する。1988年『国語入試問題必勝法』で第9回吉川英治文学新人賞を受賞。2009年、名古屋文化の神髄紹介とユーモアあふれる作風により第62回中日文化賞受賞。『永遠のジャック&ベティ』『金鯱の夢』『虚構市立不条理中学校』『朦朧戦記』等著書多数。また西原理恵子との共著として『おもしろくても理科』『どうころんでも社会科』『いやでも楽しめる算数』『はじめてわかる国語』などがある。

「2021年 『MONEY 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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